9 / 171
1章 彼女が異世界に行ったのは、どうやらその胸に理由があるらしい。
9 俺が異世界に行く条件はというと
しおりを挟む
「美緒を返せよ」
「駄目だよ。味わってないからね」
そうやってクラウはまた俺の妄想と怒りを掻き立てるようなことを平然と口にする。
暑さも相まって冷静に相手をしている余裕がなくなってきて、俺は意気消沈気味に溜息をついた。
「味わうって何だよ……もう。わかった、教えてやるよ。俺は速水佑助。美緒の幼馴染だ。俺は小さい頃から、ずっとアイツと一緒だったんだぞ? 何で勝手に奪っていくんだよ」
投げやりに自己紹介して、俺はとぼとぼと、おばちゃんたちの消えた公園の入口に歩いて行き、横の自動販売機で缶のコーラを二本買った。クラウの横へ戻り、口を開けた一本を渡す。
クラウは最初不思議な顔をしたが、俺が先に飲んでみせると「ありがとう」と言って口を付けた。コーラなんて異世界人には初めてかもしれないが、「飲めるか?」と尋ねると「あぁ」とモデル級の笑顔が返ってくる。
「で、俺はどうやったらそっちの世界に行って美緒に会えるんだ? 女じゃないと行けないって訳じゃないんだろう?」
とにかく俺は美緒と話がしたかった。こうなった経緯をアイツの口から聞きたい。
「性別は関係ないけどね。そうか……どうしようかな」
「どうしようかな、って。アンタ魔王なんだろ? どうにかならないのかよ。アイツの事、味わうだとかお休みの挨拶をしただとか変なこと言いやがって。アイツを危険な目に遭わせたりしてないだろうな? そっちにはさっきみたいな魔物がウヨウヨいるのか?」
モンスターの徘徊だなんて、向こうはまさにファンタジー系の異世界のようだ。
精一杯の思いを込めて睨みつけると、クラウは「そんなことないよ」と空の手を振って見せる。
「カーボは怖くないよ。向こうの女の子たちには可愛いって評判だしね。それに町の中には滅多に入ってこないから、不要な心配しなくていいよ」
「可愛いとは言っても、さっきみたいになったら殺さなきゃならないヤツなんだろ?」
少なくとも、こっちでいう犬や猫とは違う。
「町の外にはもっと強いのが居るのか?」
「そりゃね。この世界にだって強い猛獣はいるでしょ? 同じだよ。ミオは城の中に居るし、ちゃんと素敵な部屋は与えてある。従者もつけて不自由ない生活をさせるつもりだ。僕の所に来てくれたからには、その位もてなさないとね。庭にも花が咲き乱れているし、食べ物だって何でもあるよ」
「えっ……そうなのか?」
ハーレム女子への待遇に、少し羨ましくなってしまう。
「け、けど、本当に大丈夫なんだろうな?」
「もちろん。それでユースケはどうしたい? 彼女に会いたいって目的だけじゃ、連れて行くのはちょっと難しいんだよ」
クラウはコーラをごくごくと飲み干して、改まった顔で俺を覗き込んだ。
「ここで僕が向こうへ君を連れて行っても、忙しくて面倒は見てあげられないからね」
「行った後のことは、自分で考えるよ。まずは向こうに行ける事が第一だと思ってるから」
「それは無謀って言うんだよ。向こうには向こうのルールってものが幾つもあるんだよ? それを無視するのは良くない」
「ルール?」
「例えば、街中で魔法を使ってはいけない、とか」
俺は魔法なんて使えないから大丈夫だ。
「夜の11時過ぎに無許可で外を歩いてはいけない、とか」
それは心得ておこう。
「夜中に何か起こるのか?」
「街の外に居るモンスターが、基本夜型だからね。もし何かあった時に、兵だけで対処できるように一般人にはそういう決まりを作ってる。さっきのカーボも本来夜型なんだけど、突然太陽を浴びて興奮したから攻撃的だったんだと思うよ」
「物騒だな」
「滅多にないことだから大丈夫だよ」
それって、たまにはあるって事じゃないか。
「その他にも色々あるのさ。それでもユースケは向こうに行きたいと思う?」
「当たり前だ。アイツを説得して連れ戻す」
俺は至って真面目に答えたのだが、クラウはこの期に及んで苦笑を漏らした。
「そんなに君に魅力があるとは思えないけど。もし彼女が帰る気になったなら、僕との契約を解除しても構わないよ」
「ほんとだな!?」
俺に魅力がないだなんて、ハッキリ言われると少し傷つく。
超ムカつくけれど、今コイツの機嫌を曲げるわけにはいかない。
(向こうに行くまでは我慢だぞ、俺)
「うん。この飲み物も美味しかったし、特別に許可してあげようか?」
「ありがとうございます!!」
まさかコーラが決め手になるなんて!!
俺は自分とクラウのコーラの缶を、横のくずかごに連続で放り投げて、クラウの手を両手でガシリと握り締めた。
これは感謝の握手だ。
「俺も異世界に行けるんだな?」
「ただし、君には仕事をしてもらう。メルの討伐隊が人員を募集してるんだけど、全然集まらなくてね。君にはそこで働いてもらうよ。それが条件だけどいいかな?」
「討伐隊?」
それは意味のまま、何かを倒しに行く部隊って事だろうか。
「生きて帰れるんだろうな?」
「そんなに難しく考えなくてもいいよ。これは、君が向こうへ行く口実みたいなものだから」
クラウの微笑みの裏を読んで修羅場の戦場を思い浮かべた俺は、少しだけ異世界行きを躊躇した。
けれど、
「メルは強いし、抜群に可愛いから。君も気に入るんじゃないかな?」
「行きます! やらせてください!」
まさかのメル情報に、俺は間髪入れずに返事した。
だって俺は、ラノベ世界を夢見る、15歳男子高校生なのだから。
「駄目だよ。味わってないからね」
そうやってクラウはまた俺の妄想と怒りを掻き立てるようなことを平然と口にする。
暑さも相まって冷静に相手をしている余裕がなくなってきて、俺は意気消沈気味に溜息をついた。
「味わうって何だよ……もう。わかった、教えてやるよ。俺は速水佑助。美緒の幼馴染だ。俺は小さい頃から、ずっとアイツと一緒だったんだぞ? 何で勝手に奪っていくんだよ」
投げやりに自己紹介して、俺はとぼとぼと、おばちゃんたちの消えた公園の入口に歩いて行き、横の自動販売機で缶のコーラを二本買った。クラウの横へ戻り、口を開けた一本を渡す。
クラウは最初不思議な顔をしたが、俺が先に飲んでみせると「ありがとう」と言って口を付けた。コーラなんて異世界人には初めてかもしれないが、「飲めるか?」と尋ねると「あぁ」とモデル級の笑顔が返ってくる。
「で、俺はどうやったらそっちの世界に行って美緒に会えるんだ? 女じゃないと行けないって訳じゃないんだろう?」
とにかく俺は美緒と話がしたかった。こうなった経緯をアイツの口から聞きたい。
「性別は関係ないけどね。そうか……どうしようかな」
「どうしようかな、って。アンタ魔王なんだろ? どうにかならないのかよ。アイツの事、味わうだとかお休みの挨拶をしただとか変なこと言いやがって。アイツを危険な目に遭わせたりしてないだろうな? そっちにはさっきみたいな魔物がウヨウヨいるのか?」
モンスターの徘徊だなんて、向こうはまさにファンタジー系の異世界のようだ。
精一杯の思いを込めて睨みつけると、クラウは「そんなことないよ」と空の手を振って見せる。
「カーボは怖くないよ。向こうの女の子たちには可愛いって評判だしね。それに町の中には滅多に入ってこないから、不要な心配しなくていいよ」
「可愛いとは言っても、さっきみたいになったら殺さなきゃならないヤツなんだろ?」
少なくとも、こっちでいう犬や猫とは違う。
「町の外にはもっと強いのが居るのか?」
「そりゃね。この世界にだって強い猛獣はいるでしょ? 同じだよ。ミオは城の中に居るし、ちゃんと素敵な部屋は与えてある。従者もつけて不自由ない生活をさせるつもりだ。僕の所に来てくれたからには、その位もてなさないとね。庭にも花が咲き乱れているし、食べ物だって何でもあるよ」
「えっ……そうなのか?」
ハーレム女子への待遇に、少し羨ましくなってしまう。
「け、けど、本当に大丈夫なんだろうな?」
「もちろん。それでユースケはどうしたい? 彼女に会いたいって目的だけじゃ、連れて行くのはちょっと難しいんだよ」
クラウはコーラをごくごくと飲み干して、改まった顔で俺を覗き込んだ。
「ここで僕が向こうへ君を連れて行っても、忙しくて面倒は見てあげられないからね」
「行った後のことは、自分で考えるよ。まずは向こうに行ける事が第一だと思ってるから」
「それは無謀って言うんだよ。向こうには向こうのルールってものが幾つもあるんだよ? それを無視するのは良くない」
「ルール?」
「例えば、街中で魔法を使ってはいけない、とか」
俺は魔法なんて使えないから大丈夫だ。
「夜の11時過ぎに無許可で外を歩いてはいけない、とか」
それは心得ておこう。
「夜中に何か起こるのか?」
「街の外に居るモンスターが、基本夜型だからね。もし何かあった時に、兵だけで対処できるように一般人にはそういう決まりを作ってる。さっきのカーボも本来夜型なんだけど、突然太陽を浴びて興奮したから攻撃的だったんだと思うよ」
「物騒だな」
「滅多にないことだから大丈夫だよ」
それって、たまにはあるって事じゃないか。
「その他にも色々あるのさ。それでもユースケは向こうに行きたいと思う?」
「当たり前だ。アイツを説得して連れ戻す」
俺は至って真面目に答えたのだが、クラウはこの期に及んで苦笑を漏らした。
「そんなに君に魅力があるとは思えないけど。もし彼女が帰る気になったなら、僕との契約を解除しても構わないよ」
「ほんとだな!?」
俺に魅力がないだなんて、ハッキリ言われると少し傷つく。
超ムカつくけれど、今コイツの機嫌を曲げるわけにはいかない。
(向こうに行くまでは我慢だぞ、俺)
「うん。この飲み物も美味しかったし、特別に許可してあげようか?」
「ありがとうございます!!」
まさかコーラが決め手になるなんて!!
俺は自分とクラウのコーラの缶を、横のくずかごに連続で放り投げて、クラウの手を両手でガシリと握り締めた。
これは感謝の握手だ。
「俺も異世界に行けるんだな?」
「ただし、君には仕事をしてもらう。メルの討伐隊が人員を募集してるんだけど、全然集まらなくてね。君にはそこで働いてもらうよ。それが条件だけどいいかな?」
「討伐隊?」
それは意味のまま、何かを倒しに行く部隊って事だろうか。
「生きて帰れるんだろうな?」
「そんなに難しく考えなくてもいいよ。これは、君が向こうへ行く口実みたいなものだから」
クラウの微笑みの裏を読んで修羅場の戦場を思い浮かべた俺は、少しだけ異世界行きを躊躇した。
けれど、
「メルは強いし、抜群に可愛いから。君も気に入るんじゃないかな?」
「行きます! やらせてください!」
まさかのメル情報に、俺は間髪入れずに返事した。
だって俺は、ラノベ世界を夢見る、15歳男子高校生なのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる