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3章 死を予感した時、人は本能を剥き出しにするものだ。
21 魔王はハイレグが好きなただの変態ではなかったという事。
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昨日、町で見た豪華な箱型のトード車とは違い、俺たちが揺られているのは木で組まれた広めの箱だった。ベンチ式の長椅子が対面で据え付けられているだけで、舗装されていない地面の感触が尻にダイレクトに伝わってくる。
申し訳程度に置かれたクッションも薄く、何だか輸送されている荷物のような気分になって来るが、
「雨が降ったらちょっと寒いかなと思ったけど、天気で良かったわ」
メル的には、たとえ今日が雨でもその程度の事だったようだ。
こんな乗り物ぐらいで嘆いていては、美緒に辿り着けそうもないなと自嘲して、俺は対面に座る彼女の横に足を伸ばし、広い空を仰いだ。
「俺の世界だと、魔法使いってのは箒に跨って空を飛ぶんだぜ」
「箒? 掃除する時に使うアレよね? あれで空を飛ぶだなんて凄い発想ね」
魔法世界の女子にそんなことを言われてしまった。俺の世界ではポピュラーな話だけど、魔法のない世界での単なる空想でしかない。
「魔法使いが空を飛んでいるところなんて見たことないけど、色々応用すればできるのかもしれないわね」
「本当にそんなことが出来たらすごいな。俺たちの世界で魔法使いってのは、本の中の話だからさ。夢とか、憧れ。魔法使いが居て、こうだったらいいなって話」
メルは魔法を使えないらしいが、クラウや親衛隊の女子は使っていた。雷を敵に落としたり、白い光に包まれたり、カーボを闇に包んでメルに届けたりだ。
「トードに直接は乗れないのか?」
例えば馬のように、と考えてみる。トードは基本姿勢が前のめりで乗り心地は悪そうだが。
「乗る人も居るけど、結構気性が荒いから、訓練しないと難しいわよ?」
気性が荒いヤツに人の乗った箱を引かせるのもどうかと思う。
トード車はガタガタ揺れながら、今度は狭まった道をどんどん山奥へと入っていく。
討伐という名目の筈なのに、俺までもがそれを見失ってしまいそうな程のんびりした旅だった。
メルは山や川や緑の風景を、飽きもせずに堪能している。
「なぁメル、この国はお前にとって住みやすいと思えるか?」
魔王が統治する国の、あまりにも平和な日常が俺は不思議でたまらなかった。
メルはピヨピヨと飛んでいく鳥から視線を俺へくるりと回して、「この国?」と首を傾げた。
「そうね。私は好きよ、この国。他国との戦争もしばらく起きてないし、ちゃんと仕事して学校に行けて、ごはんもおなか一杯食べれるから。住みやすいんじゃないかしら? ねぇ? ジンもそう思わない?」
メルはトード車を動かす少年に声を掛けた。「そうですね」と笑顔で振り返り、彼は進行方向へと視線を返す。
「けど」
付け足すように、メルが言葉を濁した。指先を合わせた両手を口元に当てて、記憶を探るようにその話を口にする。
「10年ぐらい前よ。私が生まれる前の事だから、詳しくは分からないけど。前王の時代、この国でクーデターが起きたの」
「へぇ。やっぱりどこの世界でもあるんだな、そういうの」
むしろこの世界が平和すぎるせいで、そんな話こそ驚かずに「だろうな」と頷くことが出来る。
「なぜそうなったかは分からないけれど、国が滅亡しそうになった時、その危機を救って収束させたのがクラウ様なの」
「滅亡? って、穏やかじゃねぇな」
「その功績で、クラウ様が次の魔王になったの。だから、クラウ様はこの国にとって、なくてはならない人なのよ」
「人は見かけによらないんだな」
巨乳ハーレムを作りたいと言って美緒を奪っていったアイツから、そんな覇気は感じなかった。
――『僕は、生まれながらの魔王じゃないんだ。ただ、昔タブーを犯してしまって、それが逆に先代に気に入られて……』
確かアイツはそんなことを言っていた。
この国の危機を救ったことと、タブーを犯したという話がイマイチ噛み合わないが、一国の王になるなんてのは俺が想像できるような話じゃないんだろうと思う。
「クラウ様は凄いんだから」
俺に他の女の話をして欲しくないとか言っていたのに、メルは目をとろりとさせてクラウの話をしている。
確かに、聞いていて気持ちのいいものじゃない事だけは分かった。
「こののんびりした国は、アイツのお陰なのか。俺さ、魔王の治める国ってもっと禍々しい雰囲気だったり、陰湿で暗い所を想像してたんだよ。けど、何か違うんだな」
「魔王って肩書で、どうしてそんなイメージできるのよ」
「だって魔王って言ったら、魔族の王とか、魔界の王とか、魔物の王ってことだろ? アイツ全然――」
「違うわよ!」
俺の予測変換を、メルは大きく声を荒げて否定する。
少し動揺の混じる顔は、初めて見る表情だ。
そして、俺は大分勘違いしていたことを知らされたのだ。
「魔王って、魔法世界の王って意味よ?」
まぁ、俺が腰抜かして叫んだところで、そこにいる二人と二匹にしか届かなかったけどな。
申し訳程度に置かれたクッションも薄く、何だか輸送されている荷物のような気分になって来るが、
「雨が降ったらちょっと寒いかなと思ったけど、天気で良かったわ」
メル的には、たとえ今日が雨でもその程度の事だったようだ。
こんな乗り物ぐらいで嘆いていては、美緒に辿り着けそうもないなと自嘲して、俺は対面に座る彼女の横に足を伸ばし、広い空を仰いだ。
「俺の世界だと、魔法使いってのは箒に跨って空を飛ぶんだぜ」
「箒? 掃除する時に使うアレよね? あれで空を飛ぶだなんて凄い発想ね」
魔法世界の女子にそんなことを言われてしまった。俺の世界ではポピュラーな話だけど、魔法のない世界での単なる空想でしかない。
「魔法使いが空を飛んでいるところなんて見たことないけど、色々応用すればできるのかもしれないわね」
「本当にそんなことが出来たらすごいな。俺たちの世界で魔法使いってのは、本の中の話だからさ。夢とか、憧れ。魔法使いが居て、こうだったらいいなって話」
メルは魔法を使えないらしいが、クラウや親衛隊の女子は使っていた。雷を敵に落としたり、白い光に包まれたり、カーボを闇に包んでメルに届けたりだ。
「トードに直接は乗れないのか?」
例えば馬のように、と考えてみる。トードは基本姿勢が前のめりで乗り心地は悪そうだが。
「乗る人も居るけど、結構気性が荒いから、訓練しないと難しいわよ?」
気性が荒いヤツに人の乗った箱を引かせるのもどうかと思う。
トード車はガタガタ揺れながら、今度は狭まった道をどんどん山奥へと入っていく。
討伐という名目の筈なのに、俺までもがそれを見失ってしまいそうな程のんびりした旅だった。
メルは山や川や緑の風景を、飽きもせずに堪能している。
「なぁメル、この国はお前にとって住みやすいと思えるか?」
魔王が統治する国の、あまりにも平和な日常が俺は不思議でたまらなかった。
メルはピヨピヨと飛んでいく鳥から視線を俺へくるりと回して、「この国?」と首を傾げた。
「そうね。私は好きよ、この国。他国との戦争もしばらく起きてないし、ちゃんと仕事して学校に行けて、ごはんもおなか一杯食べれるから。住みやすいんじゃないかしら? ねぇ? ジンもそう思わない?」
メルはトード車を動かす少年に声を掛けた。「そうですね」と笑顔で振り返り、彼は進行方向へと視線を返す。
「けど」
付け足すように、メルが言葉を濁した。指先を合わせた両手を口元に当てて、記憶を探るようにその話を口にする。
「10年ぐらい前よ。私が生まれる前の事だから、詳しくは分からないけど。前王の時代、この国でクーデターが起きたの」
「へぇ。やっぱりどこの世界でもあるんだな、そういうの」
むしろこの世界が平和すぎるせいで、そんな話こそ驚かずに「だろうな」と頷くことが出来る。
「なぜそうなったかは分からないけれど、国が滅亡しそうになった時、その危機を救って収束させたのがクラウ様なの」
「滅亡? って、穏やかじゃねぇな」
「その功績で、クラウ様が次の魔王になったの。だから、クラウ様はこの国にとって、なくてはならない人なのよ」
「人は見かけによらないんだな」
巨乳ハーレムを作りたいと言って美緒を奪っていったアイツから、そんな覇気は感じなかった。
――『僕は、生まれながらの魔王じゃないんだ。ただ、昔タブーを犯してしまって、それが逆に先代に気に入られて……』
確かアイツはそんなことを言っていた。
この国の危機を救ったことと、タブーを犯したという話がイマイチ噛み合わないが、一国の王になるなんてのは俺が想像できるような話じゃないんだろうと思う。
「クラウ様は凄いんだから」
俺に他の女の話をして欲しくないとか言っていたのに、メルは目をとろりとさせてクラウの話をしている。
確かに、聞いていて気持ちのいいものじゃない事だけは分かった。
「こののんびりした国は、アイツのお陰なのか。俺さ、魔王の治める国ってもっと禍々しい雰囲気だったり、陰湿で暗い所を想像してたんだよ。けど、何か違うんだな」
「魔王って肩書で、どうしてそんなイメージできるのよ」
「だって魔王って言ったら、魔族の王とか、魔界の王とか、魔物の王ってことだろ? アイツ全然――」
「違うわよ!」
俺の予測変換を、メルは大きく声を荒げて否定する。
少し動揺の混じる顔は、初めて見る表情だ。
そして、俺は大分勘違いしていたことを知らされたのだ。
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