29 / 171
4章 謎多き男たちと平凡な俺の、ふかーい関係。
29 彼がこの世界に居る理由は?
しおりを挟む
フワフワとしたおっぱいの感触に昇りつめたテンションが急降下して、俺は再びベッドへと身体を沈めた。
彼女、もとい彼に背を向け、とりあえずこうなってしまった経緯を考える。
前日火の番をして風邪気味だった俺は、メルに変な味の特効薬を飲まされて回復した――物凄く不味い薬にこの世の終焉を見た気分だったが、今思えばその時までは平和な朝を過ごしていたんだ。
そこから朝食をとっているところで、今回の旅の目的ともいえる巨大カーボに襲われた。まさかあそこで遭遇するとは思わなかったが、想定内と言えば想定内。
状況がおかしくなったのは、戦いの中盤……あれ?
俺は思わず頭を抱えた。
メルの忠告を聞かずに近くでその戦いを観戦していた俺が、メルのピンチにあろうことか声を上げて自分の場所を敵に知らせてしまった。
(ってことは、全部俺のせい?)
ヤシムさんに警告された、緋色の魔女はメルだった。
その覚醒を促したのは、もしかしたら俺かもしれない。そして、緋色の魔女はカーボを倒し、その勢いのままに俺を殺したのだ。
クラウに与えられていた力のお陰で一度蘇生できたものの、再びメルと戦った末に、俺は崖へ転落して――。
あの時俺が声を上げなければ、この記憶の後半に起きた悲劇は全部なかったのかもしれない。メルが予定通り一人で巨大カーボを倒し、今頃二人で温泉でイチャイチャしてたのかもしれないのだ。
「俺は何て馬鹿なんだ」
体の痛みに悶えている場合じゃない。俺は何て間抜けなことをしてしまったんだろう。
崖から落ちてもまだ生きていることは有り難いが、この部屋に来るまでの過程で何があったかは知らないし、ここにはメルも緋色の魔女もいなくて、怪しいニューハーフが同じ布団の中で俺を見つめているのだ。
「え、えっと……」
けれど、異世界で俺が今唯一頼ることのできる相手は、この男しかいない。
色々なことを半分諦めて、身体をぐるりと彼に向けた。わかってはいるのに、パッと見ただけだとやはり綺麗な女性だと思えてしまうのが悔しい。
「で、貴方は誰なんですか?」
一応年上だろうから、丁寧に聞いてみる。
「チェリーよ」
躊躇いもなく返って来た自己紹介には、パチンと少々古臭い色気アピールともいえるウインクが付いてきた。
本物の女性だったら嬉しいと思える筈なのに、思わず目を反らしてしまう俺は何て正直者なんだろう。
けれどきっと彼に助けられたであろうから無下にすることもできず、「ありがとうございました」と礼を言って、改めて『チェリー』と名乗った彼と向き合った。
化粧と性別が邪魔してうまく予測することが出来ないが、30歳くらいだろうか。マーテルやクラウよりは何となく上のような気がするが、自分の親と比べれば大分下に見える。
高校の担任で普乳好きと生徒の前で変態宣言をした平野は、25歳だ。
白いノースリーブから伸びた長い腕には、筋肉が惜しみなくついている。俺の事なんて軽々と運べそうだなとふと感じた思考が、『気絶した俺がチェリーにお姫様抱っこされている図』を連想させてきて、イカレタ頭の重みを掌で受け止めた。
「大丈夫? まだ痛むでしょう? 随分ひどい怪我だったから、生きててくれて本当に良かったわ」
ホッとした表情で薄く笑みを浮かべるチェリー。うん、悪い人ではなさそうなんだけど。
「治癒師のお嬢ちゃんが間に合わなくて、専門外の魔法使いに診せたから、完全には治っていないのよ。けど、折れた骨は繋がったらしいから安心して」
「専門外の魔法使い? って、え、そんな……大丈夫なんですか?」
全然安心できないじゃないか。
それはつまり、ヒーラーじゃない奴にヒールさせたってことだ。国語教師に英語を教わったような。
ゲームの世界なら専門外の魔法を使えたりもするけど、これは一応リアルな話だ。骨を繋げるなんて誰でもやれることじゃないだろう?
「本当、この世界は私たちの世界じゃ常識外なことばかりよね」
ひらひらのスカートの深いスリットから、太股まで見せるという無駄なサービスを付けて、チェリーはベッドからゆっくりと立ち上がった。
「ですよね」と俺は同意して、ふと彼の言葉に「あれ」と首を傾げた。
「私達の世界、って。まさか」
チェリーは深く頷いて、「そうよ」と答えた。
「貴方も日本から来たんでしょ? 魔王様の所に来た彼女を追って来たってゼストに聞いたわ」
「彼女って! 美緒の事知ってるんですか?」
飛び起きようとした俺の身体が再び悲鳴を上げてそのままベッドに崩れるが、俺は必死にその言葉に食い付いた。
こんな偶然あるだろうか。ゼストと言えば、鍛冶屋の店主で魔王親衛隊の男の名前だ。
しかしチェリーは首を横に往復させて、「ごめんなさい」と謝った。
「他のコ達の事はあんまり知らないのよ。私は古株だからね」
俺はすぐにその意味を察することが出来た。
腕を組み、肩をすくめる彼女の妖艶なしかめ顔の下で、巨大な胸が大きく揺れたからだ。
巨乳の居ないこの世界で、巨乳である理由はたった一つしかない。
そうか、巨乳だからこの世界に来たのか。
つまり、美緒の仲間――。
(いや、ちょっと待て)
だから。チェリーは女じゃないだろう?
彼女、もとい彼に背を向け、とりあえずこうなってしまった経緯を考える。
前日火の番をして風邪気味だった俺は、メルに変な味の特効薬を飲まされて回復した――物凄く不味い薬にこの世の終焉を見た気分だったが、今思えばその時までは平和な朝を過ごしていたんだ。
そこから朝食をとっているところで、今回の旅の目的ともいえる巨大カーボに襲われた。まさかあそこで遭遇するとは思わなかったが、想定内と言えば想定内。
状況がおかしくなったのは、戦いの中盤……あれ?
俺は思わず頭を抱えた。
メルの忠告を聞かずに近くでその戦いを観戦していた俺が、メルのピンチにあろうことか声を上げて自分の場所を敵に知らせてしまった。
(ってことは、全部俺のせい?)
ヤシムさんに警告された、緋色の魔女はメルだった。
その覚醒を促したのは、もしかしたら俺かもしれない。そして、緋色の魔女はカーボを倒し、その勢いのままに俺を殺したのだ。
クラウに与えられていた力のお陰で一度蘇生できたものの、再びメルと戦った末に、俺は崖へ転落して――。
あの時俺が声を上げなければ、この記憶の後半に起きた悲劇は全部なかったのかもしれない。メルが予定通り一人で巨大カーボを倒し、今頃二人で温泉でイチャイチャしてたのかもしれないのだ。
「俺は何て馬鹿なんだ」
体の痛みに悶えている場合じゃない。俺は何て間抜けなことをしてしまったんだろう。
崖から落ちてもまだ生きていることは有り難いが、この部屋に来るまでの過程で何があったかは知らないし、ここにはメルも緋色の魔女もいなくて、怪しいニューハーフが同じ布団の中で俺を見つめているのだ。
「え、えっと……」
けれど、異世界で俺が今唯一頼ることのできる相手は、この男しかいない。
色々なことを半分諦めて、身体をぐるりと彼に向けた。わかってはいるのに、パッと見ただけだとやはり綺麗な女性だと思えてしまうのが悔しい。
「で、貴方は誰なんですか?」
一応年上だろうから、丁寧に聞いてみる。
「チェリーよ」
躊躇いもなく返って来た自己紹介には、パチンと少々古臭い色気アピールともいえるウインクが付いてきた。
本物の女性だったら嬉しいと思える筈なのに、思わず目を反らしてしまう俺は何て正直者なんだろう。
けれどきっと彼に助けられたであろうから無下にすることもできず、「ありがとうございました」と礼を言って、改めて『チェリー』と名乗った彼と向き合った。
化粧と性別が邪魔してうまく予測することが出来ないが、30歳くらいだろうか。マーテルやクラウよりは何となく上のような気がするが、自分の親と比べれば大分下に見える。
高校の担任で普乳好きと生徒の前で変態宣言をした平野は、25歳だ。
白いノースリーブから伸びた長い腕には、筋肉が惜しみなくついている。俺の事なんて軽々と運べそうだなとふと感じた思考が、『気絶した俺がチェリーにお姫様抱っこされている図』を連想させてきて、イカレタ頭の重みを掌で受け止めた。
「大丈夫? まだ痛むでしょう? 随分ひどい怪我だったから、生きててくれて本当に良かったわ」
ホッとした表情で薄く笑みを浮かべるチェリー。うん、悪い人ではなさそうなんだけど。
「治癒師のお嬢ちゃんが間に合わなくて、専門外の魔法使いに診せたから、完全には治っていないのよ。けど、折れた骨は繋がったらしいから安心して」
「専門外の魔法使い? って、え、そんな……大丈夫なんですか?」
全然安心できないじゃないか。
それはつまり、ヒーラーじゃない奴にヒールさせたってことだ。国語教師に英語を教わったような。
ゲームの世界なら専門外の魔法を使えたりもするけど、これは一応リアルな話だ。骨を繋げるなんて誰でもやれることじゃないだろう?
「本当、この世界は私たちの世界じゃ常識外なことばかりよね」
ひらひらのスカートの深いスリットから、太股まで見せるという無駄なサービスを付けて、チェリーはベッドからゆっくりと立ち上がった。
「ですよね」と俺は同意して、ふと彼の言葉に「あれ」と首を傾げた。
「私達の世界、って。まさか」
チェリーは深く頷いて、「そうよ」と答えた。
「貴方も日本から来たんでしょ? 魔王様の所に来た彼女を追って来たってゼストに聞いたわ」
「彼女って! 美緒の事知ってるんですか?」
飛び起きようとした俺の身体が再び悲鳴を上げてそのままベッドに崩れるが、俺は必死にその言葉に食い付いた。
こんな偶然あるだろうか。ゼストと言えば、鍛冶屋の店主で魔王親衛隊の男の名前だ。
しかしチェリーは首を横に往復させて、「ごめんなさい」と謝った。
「他のコ達の事はあんまり知らないのよ。私は古株だからね」
俺はすぐにその意味を察することが出来た。
腕を組み、肩をすくめる彼女の妖艶なしかめ顔の下で、巨大な胸が大きく揺れたからだ。
巨乳の居ないこの世界で、巨乳である理由はたった一つしかない。
そうか、巨乳だからこの世界に来たのか。
つまり、美緒の仲間――。
(いや、ちょっと待て)
だから。チェリーは女じゃないだろう?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる