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4章 謎多き男たちと平凡な俺の、ふかーい関係。
31 安堵と不安と色仕掛けと。
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「ごめんな」と「無事で良かった」を何度も繰り返す。
メルはそれに「うん」と「ううん」を重ねて、包帯だらけの俺の胸にぎゅっと抱きついてくれた。
彼女を責めようなんて思っていない。
ただ、俺がアホなことをして招いた結果で、メルが悲しむことが一番辛かった。
「メル……」
謝罪を込めてもう一度彼女を抱き締めたところで、
「はい! じゃあこの辺で、感動の抱擁はおしまいよ」
パンパンパンとチェリーが手を叩いて、その感動のシーンは強制終了となった。
「話し出したら長くなりそうだし、先にご飯にしましょうよ。もう、お互い敵じゃないって決めたんなら、難しいのは後よ。私、おなかペコペコなんだから」
「メシ?」
大分現実的な話だ。
けれど確かにお腹は空いている。もう窓の外は暗くなりかけているのに、俺は朝ごはんの途中にカーボに襲われてから、何も口にしてはいなかった。
グルグルと鳴り出した腹を押さえてメルと顔を見合わせると、彼女は小さく笑顔を見せて俺の腕を離れた。
「メルは夕飯作るの手伝ってくれる?」
「はいっ」
「それなら、俺も手伝うぜ……ウッ」
タタタッとチェリーに駆け寄るメルを追い掛けて俺も立ち上がるが、脚にかけた体重が全身に響いて、針を突き刺したような痛みが駆け抜けていく。
「駄目よ、ユースケ」とメルにベッドへ押し戻され、俺は素直に従った。
こんなやり取りまで懐かしいと思える。
俺たちがいつも通りで居られるのは、チェリーのお陰だ。ここに彼が居てくれて本当に良かった。
「メルの言う通りよ。それに貴方じゃカーボをさばくことが出来ないでしょう?」
「えっ?」
またカーボだと?
またアイツを食べる事になるとは――いや、今日の夕飯が奴だってことを、俺は朝から知ってたはずだ。
「え、じゃないわよ。貴方たちが倒したんじゃない。あんなに大きくて驚いたけど、頑張って運んだのよ?」
「か、担いで?」
「貴方、私のこと超人みたいに言わないでくれる? 貴方と並べて、ちゃんと荷台で運んだわよ」
今朝倒した巨大カーボは俺の身体より大きかったから現実的に考えればそうだろうが、チェリーならやりかねないとも思えてしまう。
そうか、俺はアイツと一緒に運ばれてきたのか。
「チェリーさんは、動物さばくの平気なんですか?」
「私、学生の時スーパーの食肉のトコでバイトしてたから。魚はちょっと苦手なんだけど」
もう、その女装がただの仮面にしか見えなくなってくる。
リトも凄い人を連れてきたものだ。クラウは奴が男だって気付いているのだろうか?
☆
一時間も経たないうちに、部屋にはいい匂いが漂ってきた。
一人ベッドで休んでいると、トントンとドアがノックされる。メルかなと少しだけ緊張を走らせたが、投げキッスとともにチェリーが現れた。
「メルじゃなくて残念とか思ったでしょ」
「いえ、ホッとしました」
「まぁ、そうだと思ったから私が来たんだけど。メルからの差し入れよ」
ちょっと待て。
メルと二人きりの気まずさを回避できたことには礼を言うが、その手に持っているのはまさか。
美味しそうな夕飯の匂いに、記憶にまだ新しい臭いが絡みつく。
慌てて起き上がった俺の横に滑り込んできて、チェリーは手にしたマグカップを俺の口に寄せて来た。
鼻をつく湯気からの悪臭に、ドロドロとよどんだ黒い液体。
二度とこの世界で風邪を引かないと誓った俺が、同じ日にまたこれを飲む状況を強いられるなんて。
「俺、風邪はもう治ったと思うんですが」
「風邪? あのコ、これは万能薬だからって言ってたわよ? けど、貴方こんなの飲めるなんて偉いわね。一度飲んだことあるんでしょ?」
あぁそうか。肝心なところの記憶が抜けていたようだ。
この世界に居ると、風邪どころか弱っただけで、この薬を飲むというクエストが発生してしまうらしい。
「いえ、飲まされただけです……」
「あんな可愛い子に言われたら、断れないわよね」
うふふ、と見透かした表情で微笑んで、チェリーは俺の手にそのカップを握らせた。
「じゃあ、今は私の為に飲んで」
「ええっ?」
これ以上、チェリーの色気アピールはいらないから。
俺は自分でも驚く程に呆気なくカップに口を付けて、その薬を飲み干したのだ。
「うぅ……」
「すごいわね、貴方」
チェリーも目を丸くして、俺が差し出した空のカップを受け取った。
あんなに嫌だったのに、飲んでみてやっぱり不味いと思えるのに、もう二度と飲みたくないという気持ちが薄らいでしまうのが怖い。
頭を抱えて息を整える俺の背中をさすりながら、チェリーは雰囲気のある溜息を漏らしてその話をした。
「彼女、崖の上で泣いてたの」
それは、俺が崖下で意識を失っている時の話だった。
「私は緋色の魔女の事は詳しく分からないけど、小さなあの子がボロボロの恰好で泣いてて、声を掛けたら貴方が落っこちたっていうからゼストを呼んだのよ」
メルはそれに「うん」と「ううん」を重ねて、包帯だらけの俺の胸にぎゅっと抱きついてくれた。
彼女を責めようなんて思っていない。
ただ、俺がアホなことをして招いた結果で、メルが悲しむことが一番辛かった。
「メル……」
謝罪を込めてもう一度彼女を抱き締めたところで、
「はい! じゃあこの辺で、感動の抱擁はおしまいよ」
パンパンパンとチェリーが手を叩いて、その感動のシーンは強制終了となった。
「話し出したら長くなりそうだし、先にご飯にしましょうよ。もう、お互い敵じゃないって決めたんなら、難しいのは後よ。私、おなかペコペコなんだから」
「メシ?」
大分現実的な話だ。
けれど確かにお腹は空いている。もう窓の外は暗くなりかけているのに、俺は朝ごはんの途中にカーボに襲われてから、何も口にしてはいなかった。
グルグルと鳴り出した腹を押さえてメルと顔を見合わせると、彼女は小さく笑顔を見せて俺の腕を離れた。
「メルは夕飯作るの手伝ってくれる?」
「はいっ」
「それなら、俺も手伝うぜ……ウッ」
タタタッとチェリーに駆け寄るメルを追い掛けて俺も立ち上がるが、脚にかけた体重が全身に響いて、針を突き刺したような痛みが駆け抜けていく。
「駄目よ、ユースケ」とメルにベッドへ押し戻され、俺は素直に従った。
こんなやり取りまで懐かしいと思える。
俺たちがいつも通りで居られるのは、チェリーのお陰だ。ここに彼が居てくれて本当に良かった。
「メルの言う通りよ。それに貴方じゃカーボをさばくことが出来ないでしょう?」
「えっ?」
またカーボだと?
またアイツを食べる事になるとは――いや、今日の夕飯が奴だってことを、俺は朝から知ってたはずだ。
「え、じゃないわよ。貴方たちが倒したんじゃない。あんなに大きくて驚いたけど、頑張って運んだのよ?」
「か、担いで?」
「貴方、私のこと超人みたいに言わないでくれる? 貴方と並べて、ちゃんと荷台で運んだわよ」
今朝倒した巨大カーボは俺の身体より大きかったから現実的に考えればそうだろうが、チェリーならやりかねないとも思えてしまう。
そうか、俺はアイツと一緒に運ばれてきたのか。
「チェリーさんは、動物さばくの平気なんですか?」
「私、学生の時スーパーの食肉のトコでバイトしてたから。魚はちょっと苦手なんだけど」
もう、その女装がただの仮面にしか見えなくなってくる。
リトも凄い人を連れてきたものだ。クラウは奴が男だって気付いているのだろうか?
☆
一時間も経たないうちに、部屋にはいい匂いが漂ってきた。
一人ベッドで休んでいると、トントンとドアがノックされる。メルかなと少しだけ緊張を走らせたが、投げキッスとともにチェリーが現れた。
「メルじゃなくて残念とか思ったでしょ」
「いえ、ホッとしました」
「まぁ、そうだと思ったから私が来たんだけど。メルからの差し入れよ」
ちょっと待て。
メルと二人きりの気まずさを回避できたことには礼を言うが、その手に持っているのはまさか。
美味しそうな夕飯の匂いに、記憶にまだ新しい臭いが絡みつく。
慌てて起き上がった俺の横に滑り込んできて、チェリーは手にしたマグカップを俺の口に寄せて来た。
鼻をつく湯気からの悪臭に、ドロドロとよどんだ黒い液体。
二度とこの世界で風邪を引かないと誓った俺が、同じ日にまたこれを飲む状況を強いられるなんて。
「俺、風邪はもう治ったと思うんですが」
「風邪? あのコ、これは万能薬だからって言ってたわよ? けど、貴方こんなの飲めるなんて偉いわね。一度飲んだことあるんでしょ?」
あぁそうか。肝心なところの記憶が抜けていたようだ。
この世界に居ると、風邪どころか弱っただけで、この薬を飲むというクエストが発生してしまうらしい。
「いえ、飲まされただけです……」
「あんな可愛い子に言われたら、断れないわよね」
うふふ、と見透かした表情で微笑んで、チェリーは俺の手にそのカップを握らせた。
「じゃあ、今は私の為に飲んで」
「ええっ?」
これ以上、チェリーの色気アピールはいらないから。
俺は自分でも驚く程に呆気なくカップに口を付けて、その薬を飲み干したのだ。
「うぅ……」
「すごいわね、貴方」
チェリーも目を丸くして、俺が差し出した空のカップを受け取った。
あんなに嫌だったのに、飲んでみてやっぱり不味いと思えるのに、もう二度と飲みたくないという気持ちが薄らいでしまうのが怖い。
頭を抱えて息を整える俺の背中をさすりながら、チェリーは雰囲気のある溜息を漏らしてその話をした。
「彼女、崖の上で泣いてたの」
それは、俺が崖下で意識を失っている時の話だった。
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