貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
73 / 171
8章 刻一刻と迫る危機

73 忘れていた記憶

しおりを挟む
 決行する、と誰かが呟いた。
 けれど、もちろん俺の耳には届いていない。

   ☆
「おやすみ、メル」

 川の字に並べた三台のベッドの真ん中で、俺は右隣りのベッドにもぐったメルにそんな声を掛けて横になった。
 反対側のベッドでは、既にヒルドが就寝中だ。見るからにそうだとは思っていたが、酒の飲み過ぎだ。プンとその臭いを漂わせながら、「ぐぉうぐぉう」と激しいいびきを繰り返している。

「おやすみなさい、ユースケ」
「寝れるか? 何ならか誰かの部屋に行ってもいいんだぞ?」

 メルは月明かりの差し込む窓を背に、「大丈夫よ」と俺を振り向く。

「ここはメル隊の詰め所だもの。みんな一緒に居なきゃ」
「そっか」

 目を閉じるメルにもう一度「おやすみ」を言って、俺は再びヤツの視線を感じてハッと自分の足元を見た。

 「うわ」と音にならない声を上げる。何度視界に入れても慣れない視線。
 ギラギラと存在感を放つヒルドの自画像は、むしろ魔よけのような気さえした。

 布団を目元まで被って、今日一日を振り返る。
 朝、マーテルさんが俺をクラウの弟だと言って迎えに来てから、何やら色々ありすぎて数日経った気分だ。
 クラウに会って、メルたちが来て、中央廟ちゅうおうびょうにも行った俺は、最後にハーレムメンバーにも会うことが出来た。

 詰め込み過ぎな1日だったけど、美緒と仲直り出来て本当に良かったと締めることが出来る。

 けど。

「あれ――」
 
 ふと、頭の中で何かの場面が俺に呼び掛けるようにチラついた。

 小学校の高学年くらいの時、一度だけ美緒が心を閉ざした時期がある。
 それまで何の前触れもなく、突然訳も言わずに学校を休んだのだ。
 登校拒否――とはいえ、一週間もなかった筈だ。理由を聞けないままあっという間に元通りになったせいで、俺にはあまり印象に残らなかった。

「美緒……」

 布団の中に呟いた名前が、あの時の俺の記憶とリンクする。
 まだ夏になる前の、涼しい頃だった気がする。

 美緒の家の前で、俺は何度もアイツの部屋へ向けて呼び掛けたが、反応は全くなかった。
 それなのに、ある日突然何事もなかったように学校へ戻って来たのだ。

 あれは、結局何だったんだろう?
 現実と夢の間を彷徨さまよっているうちに、俺はいつしか寝てしまったらしい。

『えいくん……』

 そして俺はまたこの夢を見ていた。
 兄を思って泣く夢は、偽りの記憶だという事を、俺はもう知っている。それなのにどうしてまたこの夢を俺に見せようとする?

 俺の兄・瑛助えいすけの死は、彼本人が異世界にクラウとして生きる決意をしたことで俺たちに植え付けられた『偽りの現実』なのだ。だから、俺が兄の死をいたんで泣く光景はただのインプットでしかない。
 実際は俺が小5の時――『瑛助の死』がインプットされる『決意の日』まで、兄を存在ごと忘れていたのだ。

 それなのに、夢はいつもより鮮明に俺に語り掛けて来る。
 
 俺の、家の……中?
 まだ仏壇のない広いリビング。

『どうしたの? なんで泣いているの?』

 その声は……まだ小さな頃の俺だった。
 じゃあ、泣いているのは俺じゃなくて……。

『えいくんが、いないの』

 美緒……なのか?

 ――――?

 全身が猛烈に騒ぎ出す衝動に、俺は一瞬で覚醒し布団から飛び起きた。
 全身が汗だくだ。

 月明かりにぼんやりと照らされた青白い静寂しじまに、ヒルドとメルの寝息が響く。
 俺はうるさく暴れる心臓を強く押さえて、左の手首を見やった。この世界に来てからずっと外していない腕時計は、11時を示している。

 この世界のモンスターは夜型だ。だから、その時間を過ぎたら無許可で外を出歩いてはいけない。
 けれど、外に行くわけじゃない。

 俺は美緒に会わなければならなかった。
 女子たちの部屋はこの部屋の並びだ。しかも丁寧に、入口の扉には向こうの文字で部屋主の名前が書かれている。

 俺はさっと着替えをして、2人に気付かれないようにそっと廊下に飛び出した。
 メルの言いつけを聞いて、ちゃんと剣もつけている。

 『みお』と書かれたプレートは、俺の部屋から一番離れた扉にげられていた。
 トントン、トントンと控えめに何度も扉を叩く。

 10回ほど鳴らしたところで部屋の奥に物音がして、俺は手を止めた。
 近付いてくる足音に、「俺だ」と声を掛ける。

「ゆうくん?」

 すんなりと扉は開いて、目をこすりながら美緒が出てきた。何故かチャイナドレスのままだったが、俺はその姿を見て衝動的に涙が込み上げた。

「あの、俺……」

 上擦うわずってしまう声を飲み込んで、大きく深呼吸する。
 興奮は全然収まらなかったが、確信と不安と、とにかくその事実を確かめたくて、俺はその言葉を絞り出した。

「美緒……お前が瑛助の保管者だったのか」

 その瞬間、美緒が困惑と涙の衝動を顔いっぱいに広げた。
 迷いが確信に変わる。
 俺は部屋に入り込むと、震え出す彼女の身体を必死に抱き締めたのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...