貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
163 / 171
最終章 別れ

163 彼の姿をした彼

しおりを挟む
「私に未来を見る力があれば良かったのにと思いますよ」

 ワイズマンがそんなことを言って、俺は少なからず驚いている。
 魔王は世襲だという一辺倒いっぺんとうな考えに変化が起きているのだ。
 もし、未来への悲観を払拭ふっしょくすることができるなら、クラウを受け入れてもいいという事だろうか。

 けれどヒルドは真っ向から「そんなことないと思うけど?」と否定する。

「先の未来がどうなるかなんて分かったら、つまらないだけだよ。努力してもしなくてもその到達点が同じ場所だと知ってしまったら、嫌なことなんて誰もしなくなる。命をさらして戦おうだなんて思わないでしょ? 未来のためにって思うから戦えるんだし」
「そういうことだね」

 クラウは大きく頷いた。

「貴方はこの国の為に魔王の世襲を第一と考えた。それを貫いたから、確かにこの国は平和だった。けど、それは昔のことだ。もし貴方が僕の立場だったら、クーデターの時僕と同じことをしたんじゃないですか? 貴方が異世界人の僕を魔王には認めないと否定するなら、僕は下りても構わない。けどメルーシュが望まないのなら、彼女を魔王に戻そうとはしないで欲しい」

 ワイズマンは真顔になって、目を伏せる。
 クラウの言う言葉の一つ一つを受け入れようとしない姿勢が見え見えだ。

「私と貴方が同じ? ……せめて貴方がこの世界の人間だったらと思いますよ」
「そんなに俺たちの血が嫌なのかよ!」

 俺はまたカッとなってワイズマンに吠えた。こんな時こそのヒルドも、今回は止めようとしない。
 俺は自分の胸を掌でバンと叩いて声を荒げた。

「俺たちとこの世界の奴らはそんなに違うか? 変わらないだろ? 俺たちに魔法を使える奴はいないけど、それだけじゃねぇか。古参こさんは未来に執着するなよ。若い奴らが造ろうとする未来を、見守るってことができないのか?」
「間違いがあっては困るんですよ。私はいつもこの世界の未来を思っている」
「元老院の奴らだって同じこと言ってるけど、クラウをちゃんと認めてる。結局アンタがクラウを否定してるだけじゃねぇか。昔はそれで良かったのかもしれない。けど、今と昔は違う。臨機応変に考えろよ!」
「言いすぎだ、ユースケ」

 クラウが俺の衝動を遮るように前へ出る。けれど俺は、それ以上は駄目だという視線を逃れて、ワイズマンへの言葉を続けた。

「言いすぎじゃねぇ。ワイズマン、ちゃんと状況を見ていないのはアンタだ。クラウはサイファーって奴みたいな野心家じゃねぇよ。誰よりもこの国の平和を望んでる」
「やめろ!」

 荒ぶった俺に、今度はクラウがピシャリと叱責しっせきを飛ばす。掴まれた右腕がジリと痛んだ。
 強く飲み込んだ感情を抑えきれずに、俺は「うわぁ!」と威嚇いかくするように声を吐き出して、ワイズマンを睨みつけた。

「ありがとう、ユースケ。あとは僕の仕事だ」

 クラウは小さく微笑んで手を離すと、俺に背を向けた。

「ワイズマン、貴方がドラゴンに条件を出されたように、僕にも条件をくれませんか? それをやり遂げたら、僕をこのグラニカの魔王と認めて欲しい」

 ドラゴンを自らに取り込むことで、その力を得たワイズマン。まさかクラウもそんな条件を出されるのではと俺がヒヤリと背中を震わせたところで、ドラゴンはこの提案に答えを示した。

「この世界で魔法を使う事のできる人間は、このグラニカに伝わる一部の血筋の者だけ。魔王の偉大なる力と平和を願う強い意志が、戦争への抑止力になってきたんです。私は純血でない貴方の強さを納得したい。だから、私と戦って下さい。貴方が勝ったら、魔王として認めましょう」

 その条件は意外とシンプルなものだった。
 「分かった」と即答したクラウに、ワイズマンはにんやりと目を細める。

「戦う、って。クラウが負けたらどうするつもり?」

 そういう聞き辛い事を平然と口にしてくれるヒルドの存在は貴重だ。
 「そうですね」と答えるワイズマンのトーンが上がっている。

「この世界を全て捨てて、元の世界へ戻してあげましょうか。貴方がこの世界に来た事実を全て記憶から消して、向こうの世界での生活を送れるようにしてあげますよ」
「なに……?」

 ワイズマンの怪しげな笑みに半信半疑になりつつも、俺はそれでもいいかなと思ってしまった。
 そうなると俺がこの世界に来た事実も消えてしまうのだろう。それでもクラウが速水瑛助えいすけとして、俺の兄として向こうで過ごすという事に魅力を感じてしまう。

 仏壇で笑う幼い瑛助の写真が頭をよぎる。あの植え付けられた暗い思い出が全部なくなるのかもしれない。
 けれど、クラウは俺を振り返って「ごめんね」と謝った。

「僕は戻るつもりはないんだ。ユースケも、僕がここに残ることを認めて欲しい」
「あ、あぁ」

 だよな、と反省。クラウはとっくの昔にメルを選んでいる。

「認めるよ。当ったり前だろ?」

 「ありがとう」と答えたクラウは聖剣を抜いて、切っ先をドラゴンの鼻先へ向けた。
 俺とヒルドは慌てて二人から距離を離す。

「まぁ、そうはやらないで下さい。私にも準備がありますから」

 そう言っている間に青いドラゴンの肢体が白い光を帯びる。
 彼の身体を隠していた緑が白けた。

 「何だ」と警戒する俺たちの目の前でドラゴンがその身体へと変化するまで、10秒と掛からなかった。瞬きしたかどうかも分からないくらい一瞬で、ワイズマンはシュンと縮まり俺たちを驚愕させたのだ。

「ドラゴンのままじゃ戦いにくいでしょう? 私は一度相手を取り込むと、相手の情報を記憶して自由に姿を変えることができるんです」

 彼の声色が変わった。まるで副音声を聞いているような感覚。

「うん、凄い能力だと思うよ」

 黒髪のクラウは不服そうに笑った。その黒い瞳が見据えた先には、同じ表情をした青い瞳がある。
 青髪の彼――俺の前には今、二人の魔王クラウザーがいた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...