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しおりを挟む宛先:京都民俗学研究会/主任教授 佐々木先生
差出:三度哲夫
日付:201-年6月7日 止栄町宿舎にて
佐々木先生
お世話になっております。
止栄での調査は一応の区切りがつきました。
例の神事舞に関しては、想定していたほどの「外的異常性」は確認できず、
むしろ内部構造の民俗的設計に興味深い示唆が見られました。
ただ、それ以上の深入りは、いまはやめておこうと思います。
記録は整理のうえ、後日京都へ送付します。
ところで、帰路を予定しておりましたが、
もう一件、気になる伝承がありまして——。
福井県今立郡の山間にある坂楽(さがく)集落というところで、
「おようさん」と呼ばれる水神の伝承が残っているそうです。
村の古老によれば、「水に入ると孕まされる」「子はおようさんの子」といった
生殖神話と死の伝承が混ざったような語り口で、
いささか尋常ではありません。
県立図書館の郷土資料目録には該当文献がなく、
現地聞き取りがほぼ唯一の手段になりそうです。
したがって、もう少し北に足を延ばすことにしました。
戻りは未定ですが、二週間ほどで様子を見ます。
あちらは夏でも夜が冷えるとのことなので、
厚手のノートと録音機、それに長靴を携行して行きます。
それと——先生。
ちゃんとお土産は買って帰りますので、ご心配なく。
こっちの名物は、どうやら海藻を干したものと地酒らしいです。
研究室の皆さんにもよろしくお伝えください。
では、また。
三度 哲夫
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