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第26話 第一王女の帰還

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 緑の国の鳳凰谷で、赤の国の王女ルビーと山吹先輩を撃退した、ユウト達。
 しかし緑系魔素を暴走させたままだったユウトは、力尽きて倒れてしまった。


「ねえコマチさん、早く龍脈のパワースポットを浄化してよ。」
 フィーナはユウトを助けるべく、コマチに切願する。
 ここの龍脈の魔素を浄化し、正気に戻った緑の王妃に、ユウトを戻してもらうのが、フィーナの狙いだった。
 この魔素の浄化は、緑の国の王女として、浄化の腕輪を持つコマチにしか出来なかった。

 コマチはミクの回復魔法を受け、立ち上がれるまでには、回復した。
「ごめんなさい。フィーナちゃん。」
 立ち上がったコマチは、首をふる。
「どうして?コマチさん。」
「う、」
 つめよるフィーナに、思わずバランスを崩すコマチ。
「お姉さま。」
 そんなコマチを、ミクが肩をかして支える。
「今の私には、魔素を浄化するだけの体力がないの。」
「そんな。」
 フィーナは全身のチカラが抜け、膝をつく。
「それに、ルビーが好き勝手やってくれたから、普通の封印術では、歯がたたないわ。」
 とコマチは、さらなる絶望の事実を突きつける。

「だったら、混色封印よ。」
 フィーナはつぶやく。
「赤の魔素なら、私の青の魔素で抑えられる。
 私と二重封印〔フェアリーデュエット)よ、コマチさん!」
「ごめんなさい、フィーナちゃん。
 今の私は、妖精変化するだけの魔素がないのよ。」
 コマチは無念の思いから、涙を流す。
「だったら、ミクがやればいいでしょ!
 コマチさんの腕輪、ミクに貸してよ!」
「出来る訳ないでしょ!」
 フィーナからの無理難題に、コマチも思わず叫ぶ。

 コマチの浄化の腕輪は、コマチの物。
 コマチを主と認めてる腕輪を、別の人が使う事は出来ない。
 それを強引に使ったら、別の人にコマチの人格が上書きされ、別の人の人格は消される。
 そして偽者のコマチは、自分が本者になろうとして、コマチ本人を殺しにかかる。

「じゃあ、私がやるしかないじゃない。」
 フィーナは立ち上がる。
 別の国の魔素の浄化。
 これが無理なのは、フィーナも分かっている。
 だけど少しでも可能性があるのなら、フィーナはそれに賭けたかった。

 ズゴん!

 突然、空間が爆発する。
 龍脈のパワースポットの横に、両手をついてうずくまる女性が現れる。
 ボロボロの女性。
「え、お姉さま?」
 その女性を見てミクがつぶやく。

「みんな、なんて無茶な事を。」
 女性はうつむいたまま、涙を流して震えている。
「マドカお姉さま!」
 ミクに声をかけられ、女性は顔をあげる。

 この女性は、エメラルド・ジュエラル・マドカリアス。
 異世界パルルサ王国に行ってた、ここ緑の国の第一王女だ。

「ミク、それにコマチ。何でここに。
 それに、、アスカーナじゃない方まで。」
 マドカは、目に入った人の順番に、名前を呼ぶ。
「レスフィーナです。いい加減覚えて下さい!」
 名前を覚えられてなくて、フィーナはご機嫌ななめだ。

「ははは、勘弁してくれ。
 アスカーナとの方が、付き合いは深いんだ。」
 とマドカは弁明する。
 マドカとアスカ。
 ふたりは性格もにていて、気心の知れた仲だった。
 そこにフィーナが入れる余地は無かった。

「で、どうしてレスフィーナがこんな所に居るんだ?」
 とマドカは凄みを効かす。

 ここは緑の国のパワースポット鳳凰谷。
 他国の王女が居ていい場所ではない。

「う」
 フィーナは思わずゾクっとしてしまう。
「ち、違うんです、お姉さま。」
 ミクがフィーナに代わって説明する。
 王妃の事。
 ルビーの事。
 コマチの事。
 そして、ユウトの事。

「なるほど、私が異世界パルルサ王国に行ってた間に、そんな事があったのか。」
 マドカはミクの説明で、全てを理解する。
 フィーナ達にも分からない、今、何をするべきなのかも。
「すまなかったな、ミク、コマチ。」
「いえ、そんな事は、って、何してるんですか、お姉さま!」
 ミク達に謝りながら、マドカはユウトの身体を龍脈のパワースポットに蹴り入れる。

「な、何するのよ、マドカさん!」
 フィーナはあわててユウトに駆け寄る。
 そんなフィーナの首根っこを後ろからつかみ、後方へと放るマドカ。
「けほ、けほ、何する…んですか。」
 フィーナは少し怯えながら、マドカを見る。

 姉御気質なマドカにとって、フィーナは嫌いなタイプだった。
 自由奔放なくせして、これと言った芯も無い。
 双子の姉のアスカーナとは、似ても似つかない性格。
 アスカーナ同様、それなりの実力はあるくせに、それに見合った行動を示さないフィーナを、認めたくなかった。

「フィーナちゃん、これはユウト君のためなのよ。」
 コマチには、アスカの意図が分かった。
「龍脈には、お母様、緑の王妃の魔素が満ちている。
 だから緑の魔素が暴走した、ユウト君の魔素を補ってくれるの。」
「だからって、蹴り飛ばす事ないでしょ!」
 コマチの説明に、フィーナは切れる。
「ユウトと私はね、緑の国のためにここに来たのよ!
 どっかに行ってた、あんたの代わりにね!」
「何?」
 フィーナの言葉に、マドカはカチンとくる。

「ええ、フィーナちゃんが来てくれなかったら、私は死んでたわ。」
「そうです。レスフィーナさんとユウト様がいなかったら、この国は赤の国に占領されてました。
 だからマドカお姉さま、レスフィーナさんに謝って下さい。」
 コマチとミクは、フィーナの肩を持つ。

「いいえ、その必要はないわ。
 私が叩きのめしてやるわよ。
 勝負よ、マドカさん!」

 フィーナは妖精変化して妖精体になり、マドカを挑発する。


次回予告
 よ、久しぶり。サファイア・ジュエラル・アスカーナだ。
 青の国のパワースポット、龍神山の護りには、私のお抱え騎士団を就かせた。
 戦争のない平和なジュエガルドに、兵士や戦士はいない。
 私の騎士団ってのは、私を撃ち負かして、私の夫になりたい馬鹿どもの集まりだ。
 そんなに強くない連中だが、居ないよりマシだろう。
 それに、龍神山に何かあったら、私も駆けつけられる様、万全な体勢は整えているぞ。
 おっと、これはどっかの国会答弁とは違って、本当の事だから安心しろ。
 そんな私は、もっか修行の最中だ。
 レベルの低いあいつに負けた。
 こんな屈辱、あってはならない事だからな。
 って、そんなユウトは死にそうじゃねーか。
 フィーナは何やって、ってあのマドカと決闘だと?
 やめとけ、そんな事したらあいつ、一生つきまとってくるぞ。
 次回、異世界を救ってくれと、妖精さんに頼まれました、混色の四重封印。
 お楽しみに。

※今回はそこまで書く予定でしたが、字数オーバーのため見送りました。
 だからおそらく、これで行けると思います。多分。
 とは言え、この予告とは異なる可能性も、否定できませんので、その時はその時で、ご了承下さい。
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