未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

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宇宙召喚編

第27話 部屋の前で

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 マイとマインによる対ゴンゴル三姉妹戦用の訓練は、あと一歩の所で行き詰まっていた。
 ふたりの仲が、もっともーっと仲良くならないと、駄目みたい。
 そんな訳で、ふたりはマインの部屋で一夜をともにする事になった。


 マイとマインは、宇宙ステーションの発着場に戻ってきた。
 この宇宙ステーションは地球の月とほぼ同じくらいの大きさの超巨大宇宙ステーションだった。
 マイ達チームシリウス(そんな名称はないが)の使えるエリアは限られているが。
 チーム専用の発着場に、マイとマインの機体が到着。
 機体を降りたふたりは、戦闘後の体調管理用のメディカルカプセルに入る。
 これは普段の軽い訓練なら、必要ない。
 しかし今回の訓練は、32時間ぶっ通しだった。
 その後ふたりは中央司令室により、ジョーとアイとミサと合流、そのままマインの部屋へと向かう。
「って、なんでジョーまでついてくるのかな?」
 そこにいるのが、さも当然なジョーに、マインは問う。
「部屋前までは、ついて行くべきだろ。」
 ジョーはさも当然と応える。
「あら、ジョーもご一緒するものだとばかり。」
 アイは意外そうな表情だ。
「俺は変態か?」
 ジョーはその線を否定する。
「そうなのか?いつ殴ろうかと思ってたが、殴らなくてよかったのか。」
 そう言うミサの右拳は、硬く握りしめられていた。
「おっかねーなあ、おい。」
 ジョーは思わず両手を身構える。
「ここはふたり水入らずな場面だろ。」
「え?」
 ジョーの言葉に、ふたりのサポートAIは同時に声を出す。
「ああそうか、ふたりって、サポートAIの私はカウントされてないって事だな。」
 ミサは左手の手のひらを右拳でポンと叩く。
 ちなみにこの左の手のひらの向きは、縦だった。
「そうよね、私たちは、マイ達と一心同体。四人って表現は正しくないわね。」
 アイは右拳を左手でもみもみしている。
「何言ってんだ?おまえら。マイとマインだけに決まってるだろ。」
 ジョーの言葉に、ふたりのサポートAIはショックを受ける。
「ま、マイ、私達はいつも一緒ですよね。」
「えと、僕とマインのふたりだけじゃないの?」
「ガーン」
 アイはマイの言葉にさらなるショックを受け、膝からくずれる。
 両手を床につくと、床にふした視線を上げられなかった。
「マイン、おまえは違うよな?私はおまえと一緒にいていいんだよな?」
 ミサはマインの両肩をつかみ、マインにせまる。
「そんな訳ないでしょ。」
「ま、マインが私を否定した?」
 ミサは思わず二、三歩後ずさる。
「あ、おまえ達。鉢巻は外しとけよ。」
「はーい。」
 ジョーはマイとマインに言ったが、この言葉がふたりのサポートAIへの、トドメの一言になった。

 鉢巻にはチップが仕込まれている。
 このチップを額に当てがう事で、召喚者とサポートAIとの意思疎通を可能とし、と言っても、召喚者からサポートAIへの一方通行だが、そしてさらに、必要な情報のダウンロードが可能となる。
 このチップをなぜ、額に鉢巻で固定する必要があるのか。
 なぜ、最初から頭に埋め込まなかったのか。
 それは、出来ない相談だった。
 マイ達召喚者は、召喚された魂をアバターの身体に宿す。
 人の脳みそを、人間の科学技術で再現した時、その大きさは巨大な物になる。
 これが人間の脳みそと同じ大きさにまで縮小されたのは、つい最近の事だった。
 意思疎通や情報をダウンロードさせるチップを埋め込む余地など、どこにもなかった。

「やめてー、これがないとマイは眠れないのよー。」
「貴様ぁ、マインとの絆を引き裂くなんて、何が目的だ!」
 ふたりのサポートAIは、涙ながらにうったえる。
「あのー、無くても僕、眠れるんですけどー。」
「こんな事で、絆が引き裂かれる訳無いでしょ。」
 ふたりの召喚者は否定する。
 ふたりのサポートAIはさらなるショックを受ける。
「マイがグレてしまったわ。私、どうしたらいいの?」
 アイはミサに泣きつく。
 ミサはアイをだきしめながら、ジョーを睨む。
 その眼力の強さに、ジョーは思わず後ずさる。
「おいおい、今日だけの話しだぞ。ゴンゴル三姉妹を倒す作戦のためだぞ。」
 ジョーの言葉に、ミサは目を閉じて、グッと何かを堪える。
「アイ、今日は我慢しよう。ふたりの未来がかかってるんだ。」
「嫌よ。」
 覚悟を決めたミサと違い、アイはガタガタ震えている。
「マイはね、この時代に召喚されたばかりよ?まだ私がついてないと駄目なのよ。マインとは、違うのよ。」
「馬鹿やろう!」
 パシーん。
 ミサは、アイの頬をはたく。
 信じられないモノを見る目で、アイはミサを見る。
「一度やってみたかったんだ。」
「え?」
 そんな理由でたたかれたの?とアイは思ってたが、ミサはすぐに言い直す。
「いや、流れでやってみた。」
「ぷ、なにそれ。」
 アイも思わずふきだす。
「私はマインを信じる。おまえもマイを信じろ。」
 今度は真面目に応えるミサ。
「そうよね、今はマイを信じましょう。」
「そうだ、信じてやれ。私だって、私だって、つ“ら”い“の”よ“ー」
 決め顔だったミサも、堪えきれずに泣き出した。
「ミサ、今日はふたりで呑みましょう。今日はとことん付き合うわ。」
 泣き顔のミサを見て、アイは逆に冷静になれた。
「うん。マインがぁ、マインがぁ。」
 ミサはアイに連れられて、ふたりは居酒屋区域へと消えていった。

「いやー、今どきのAIってすごいね。あんな感情を持ってるなんて。ちょっとひくけど。」
 立ち去るふたりのサポートAIを見て、マイは感想を言う。
「ほんとにそうね。何事にも限度ってものがあるわ。あれ作った人は何を考えてるのかしら。」
 マインはそう言ってジョーに視線を送る。
「な、俺がいてよかっただろ?俺いなかったらアイツら、部屋の中までついてきてたぞ。」
 ジョーのその言葉に、マインはため息をつく。
 そんな事聞いてるんじゃないのに、と。
 だが、マイは違った。
 自分たちの為に、そこまでやってくれたのかと、ちょっとキュンときた。
「さ、邪魔者はいなくなった事だし、とっとと入れー。」
 マインの部屋の前で、ジョーはふたりの背中を押す。
「ちょっと、いきなり?片付けくらいさせてよ?」
「何言ってんだ、今はそんな事言ってる暇はないだろう。」
 ジョーはにっこり微笑む。
 こいつ、この為について来たのね。
 そう思ったマインには、悪魔の微笑みに見えた。
 が、マイには天使の微笑みに見えた。
 自分たちをふたりにしてくれる為に、こんなにも真剣になってくれるなんて。
「じゃ、じゃあ一分、いや、十秒待って!」
「分かったよ。十秒で何が出来るのか分からんが、待ってやるよ。」
 そう言ってジョーはニヤける。
 マインは思わず殴りたくなったが、今は時間が惜しい。
 殴りたい気持ちを抑え、部屋の中に駆け込んだ。
 ジョーがマインに向けたニヤけ顔。
 それさえもマイには、凛々しい笑顔に見えた。

「よーし、数えるぞー、じゅうー!」
 カウントダウンを始めるジョー。
 マイにとって、その何倍にも感じる十秒間だった。
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