特等席はバイクの後ろ

みほ

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シュンside
 教習所でバイク教習員として働き始めて5年目の春
 いつも通りの職場の光景に目を惹く存在がいた。

 可愛い女性の教習生はいるにはいるが、今までに見たことのないほどの美人が、待合室に座っていた。
 教習員の間でも黒髪ロングの美人が入校してきたとたしかに話題にはなっていたが、正直ここまで美人だとは思わなかった。
 彼女の最初の教習を誰が担当するかは争奪戦で、先輩教習員からの圧力を跳ね除けて担当教習員の座を勝ち取った。
 
 いよいよ始まる教習。
 受付で彼女の名前を呼ぶとパッと顔を挙げ、こちらに歩いてくる彼女。
 少し上目遣いの視線さえ美人で、にっこり笑顔を向けると視線を逸らされた気がした。
 警戒心が少し強いように思えて、そんなところは可愛いと思ってしまった。
 
 彼女がどんな目的でバイクの教習を受けにきたのかはわからないが、緊張しているように見えた。
 緊張をほぐし、バイクに慣れてもらうためにも、一緒に乗って体感してもらうのが手っ取り早い。あわよくば、バイクに乗せて彼女の気を引きたいという下心もないわけではなかったが、、彼女に俺のバイクの後ろに乗るように言った。
 思ったよりも身長が低い彼女は身長が低い割に長い足でバイクを跨ぎ、遠慮がちに俺の肩に手を置いた。腰に腕を回してくれるのを期待したが、そんな都合のいい展開にはならず少し残念に思う。
 バイクを発進させる。教習所を軽く1周すると肩に置かれた手に力が入った気がして「怖い?」と彼女に尋ねると「大丈夫です。」のひとこと。それが強がりでもそうではなかったとしても可愛いなと思った。
 
 彼女にかっこいいと思ってもらいたい一心でいつもよりほんの少しスピードを上げる。彼女が俺に惚れる世界線はないだろうけど、今だけは俺のことを考えていてほしいと、彼女への想いが加速する。
 カーブに差し掛かり、振り落とすわけにはいかないから、「しっかりつかまってて」と言うと、腰に手を回してくれる彼女。
 バイクの横についてるバーを握ってもいいよ、と紳士なら言うのだろうが、せっかくだからこの幸せな時間が少しでも長く続けとずるくもそう思った。
 
 彼女との教習の時間はあっという間で、彼女のことを何も知らないまま1日が終わった。
 彼氏はいるのか、仕事は何をしてるのか、指輪はしてなかったから結婚はしていないだろう、と彼女のことを考え出すと知らないことだらけで、もっと知りたいと私欲に溢れる。
 
 声をかけたいけど、一旦声をかけると歯止めが効かなくなりそうで、教習員としての立場を見失ってしまいそうで、俺はあることを決めた。

 彼女が卒業するときに連絡先を渡す。


 彼女は平日は働いていて、土日しか来れないと言っているのが聞こえたので、彼女が卒業するまで、約2ヶ月。
 毎週末、彼女に会えるようにシフトを調整しておこう。

 ミイラ取りがミイラになるとはよく言ったもので、少しカッコつけて惚れさせようと思ったつもりが、俺が完全に惚れてしまった。
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