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01:俺のツレは人でなし!
関係
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「ありがとうございましたー!」
という店員さんの声を聞きながら、店から出た。
此処からは、駐車場に行く。
来るときに停めた彼女の車を見つけて、帰ればお茶会イベントは終了だ。
「結構楽しかったね」
「そうねぇ」
道中、アミューズメントパークかなんかみたいな感想を述べあう二人。
黙々と食事していてあまり会話してなかった気がするけど、それで良かったんだろうか。
もしかしたら、食事中に話すタイプじゃないのかもしれないし、すごくお腹が空いていたのかもしれない。お陰で、リコリコの言動のインパクトの方がすごく思いだされるのは意外な思い出になってしまった。
……それはともかく。
前方を見る。
スーパーなどと合同の駐車場とはいえ……いつの間にかかなりの車が停めてあるのが見える。
歩いても歩いても、車が中々見つからない。更に、どうせ真っ赤な車なんかアレだけだと思って高を括ってたのに、来たら来たで似たような派手な車が散見される。白や黒が売る際にも人気と聞いたことがあるけど、最近またこの手のカラーリングが流行りなのだろうか。
赤!青!黄!緑!、戦隊ものみたいになってないか……
解りやすいけどさ、とかつっこんでいると急にルビーたんが喋った。
「二人とも。なんでそんなにすごーーーくゼロ距離なのかって、見てる方がハラハラするんだけど。二人の空気に入りづらいし」
なんだかむくれている。
話題が無いのかと思ってたけど、輪に入れないからなのか?
気を遣わせてしまったようだ。
「ふふふ、そこは謎めかせておきましょう」
謎に伏線を貼りたがるまつり様。
「まつりは」
ぼくが何か言いかけたのを遮って、彼女は言う。
「あのさ、私ねぇ、最初から犯人が分かってるミステリーとか、そういうの、嫌いなの、好きじゃない。面白くないんだもん!」
「ど、どういう意味です?」
「……」
ストレスで感情がぐるぐるしてきている。
「まーつりだまつりだまつりだ」
真顔で歌いだすルビーたん。
うるせぇ。
「…………だから、どういう」
「まだ、わからないの? 深い仲ってことは、付き合ってるってことでしょう? 同棲までして……あぁ、男女の仲みたいな?」
彼女はやれやれ、といった感じでぼくを一瞥して、それから、見つけた車から運転席のロックを解除している。
「……」
もしも身体だけだった場合は悪いんだろうか。
それに悪かったところで何だと言うのだろう。
(────男女?)
シェアハウスとか、他人が一緒に居る例にもいろいろあるのに。
もしや、家族は恋人派?
それとも近親相姦とかあぁいう……なんで、ぼくは質問されてるんだ……
まつりはこちらなどお構い無しで、空を見上げて、ぼーっとしていた。
ぼくも空を見てみる。
雲が多いけど、今のところまだ雨は降っていない。
「性的な接触──または、そうね、まだ中学生なわけだし、キス程度かしら、なにかそういうことは、あったでしょう。それも、誰とも?」
「そんなわけ。無いじゃないですか」
「どちらの意味で?」
「…………」
「珍しいもの。あの子が、人間を、それも特定の人間のみを、忘れても取り戻したいと思うくらいに、執着するというのは。普通、大抵の人間は、あの子、忘れたらそのままよ?」
「だからですよ」
事件の後。
屋敷が燃える様を模したアニメや漫画が不確かな恐怖を煽るだけのものとして多く作られてるのも知った。呪われて居るとか、成仏出来ない霊がいるお化け屋敷だとか誹謗中傷ばかりの酷いものだった。何も知らないのに。
と言うことしか出来ないけれど、それでも、今其処に居られることにこそ、彼らをはっきりと否定出来ることにこそ、自分の価値があると思う。
そりゃぼくも実際に内部でどんな風に言われる屋敷だったかまでは知らない。
けれど、お化け屋敷なんかじゃない。
ちゃんと生きた人が住んでいた。誰かが勝手に壊しただけで、呪われてたわけがない。
「じゃあ、屋敷じゃないあの子自身は?」
「え――」
「周りで人が死ぬ、死神みたいだって揶揄されてるの、聞いた事がある?」
ぼくは首を横に振る。
死神だなんて言われてたのか。
「いや……拝一神って感じですね」
「なにそれ」
――――当時、まつりは笑っていた。
血で真っ赤になる前のあの服で、楽しそうにはしゃいでいた。
知らないお菓子や、咲いたばかりの花を見せてくれた。
辛いだけじゃなかったってことも、ぼくが知っていると、思いだして欲しい。何度でも。
だって、その笑顔だけに、救われたんだ。
「なにそれ? バレンタインに自分とチョコレートのどっちに恋愛感情があるかって迷う人が居ると思う?」
真面目に話してるのに彼女は笑う。
目に涙をためて、ゲラゲラと、大爆笑だった。居るんだよな。
「言葉遣い悪いのに詩人みたいね。笑える ごめんよ」
……そもそも恋なんて妄想の中にしか存在しない産物だ。触れないし見えないし、幽霊のような、あるかさえわからないものなのに、何を根拠に。
ぼくの態度が悪いのは認めるが、ボロカスに言えるぐらいお前は偉いのか。
なんて、
黙ってしまうぼく。
そのとき、まつりが唐突に
「ルビーたんはポエマーだからね」と、相槌を打ってきた。
「ちょっ!? ポエ……ポエマーじゃない!!」
慌てだすルビーたん。
「なるほど、だから他の詩人が気になってしまうんだ」
思わず吹き出したぼくと、ルビーたんのポエムを披露し始めるまつり。
「やめてえぇ!!!」
彼女の叫びが木霊する。
「さて、帰るよ」
ぼく以上にひとしきり笑い転げた後、まつりはそう言ってぼくの手を引いた。
「……そうね」
ルビーたんが諦めたように運転席に着く。
とにもかくにも、こうして、楽しいお茶会は幕を閉じたのだった。
めでたしめでたし。
‐fin-
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