かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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Commentary

タッキー

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「皆さんお揃いで――――ぇえは、無いようだね?」

たっきーと呼ばれた男性がひょこっと辺りを見渡す。
そのすぐ後ろからやって来た所長が、申し訳ありませんと言った。
「二人、出ております」

「まぁ、いい」
タッキーは飄々とした態度で勝手に応接用のテーブルの方に近づくと、よっこいせ、と歳を感じる掛け声とともにソファに腰を下ろして言った。
「此処に居る人に聞いて貰おう」


花子がどうぞ、とコーヒーを差し出す。
ありがとうと申し訳程度に一口飲んでから彼は切り出した。
「藍鶴色が薬品会社との契約の話を断ったと聞いたのでね」


「はぁ」
花子が、そうなの?という感じで首を傾げる。
いつ、何処での話なのかは誰も聞いた事が無かった。
ただ、知らない間にそういう事があったのかもしれない。

「ねぇ、タッキー。今日は何しに来たの」
隣に座っている撫子があどけない表情で訊ねると、彼は視線を下げて微笑んだ。

「縁談。


藍鶴色は、うちの若いのに嫁がせるつもりだったんだ。ようやく話が降りて来たという事になる」
「ええぇ!?」
撫子が目を丸くする。
菊が「今居ないけどな」と目を逸らす。
晶は、また長くなりそうな話が来たよ、とうんざりしている。

タッキーはニコニコと笑顔を崩さずに所長と向かい合う。



「それが狙いでしたか」
いつになくぴっしりとスーツを着込んだ所長が唸った。
外堀を埋めるために画策し、彼の周囲や支持者をこれまで一人ずつ殺して来た結果がそれだというのに、恩を着せるような事を言うわけだな、という意味だ。
(此処で持ち出して来るのが 人柄などでなく地位や権力となればまず『本物』だろうな)
なんとなく直観する。

「しかし、その話より前に、彼と話が出来
たのでは」


「数年前もチャンスがあったのですが。実は、そのときは逃げられてしまいましてねぇー」
タッキーは、はははは、と朗らかに笑った。

「地位を継がせる儀式のために、急いでいたもので。代わりの者を嫁がせたわけなのですが、彼が来るというのであれば今すぐにでも出て行かせます」


『なんてところだ』と、所長は内心で戦慄する。
潰し屋は国の為に自我を捨てていて、人権などは二の次だという話はかつて聞いた事があった。
先程撫子も疑問を覚えていたが、確かに人権や思想を所有物のように使われ、その程度と軽視される日常を過ごしてきたのだろう。



「そんなの、既に夫婦となられているのに。あまりに不憫です」
花子が悲しそうに言う。
タッキーはそれがどうしたのか?と本気で不思議そうだった。

「あれは時期が急いでいた事も悪かった。でも彼らも名家の者。このような事態はよくありますのでね。承知するでしょう」

タッキーが当たり前のように語る中で所長はあることを思い出した。


藍鶴色は今より数年前にも姿を消したことがある。
そのときも、誰にも何も言わず、またふらりと戻って来た。
恐らく縁談のようなものを察知しており、代わりのものがあてがわれるまで待ってから戻って来たのだろう。
未だこういう時の予知能力には舌を巻くところがある。

「所長ぉ、そんなの勝手に話し合ってたの?」
花子が悲しそうに所長に駆け寄る。
「酷いよ。色ちゃんの気も知らないで」
恐らく、色が界瀬と仲が良いという事について思い出していたのだろう。
二人を引きはがす方が酷では無いかと言っている。

タッキーは飄々と話を続けた。
「彼には今の社会に示せるような実績も無ければ、何処かに根付いても居ない為、家柄的な地位も無い。この先不便でしょう」
しかし実力だけは確かですからねぇー、と彼なりには褒めているつもりのようだ。

此処の者たちは本当に仲が良いなと所長は少し羨ましくなりながらタッキーの方を向いた。
「私は、条件つきで経済的支援をしても良いという話を持ち掛けられただけです……しかし一応腐っても此処の所長ですので。さすがにそちらの軍門に下る程プライドを捨てては居ません」

「そうですかぁ。困りましたねぇ」
タッキーが苦笑する。

「婚約者など居ない、と言ったら良かったかな」


「そんなの関係無い!」
花子が尚更イラッとした様子で言う。


「貴方たちって都合よくコロコロ主張や経歴を変えて、嘘ばっかり。だから信じられないの。
口先で誤魔化せると思ってるんですか?
今までの経歴や活動が合ってるか調べてもいいんですよ?
単に私たち、別にもう貴方や西尾たちに関わりたくないだけなんです」

西尾というのはかつての知り合いだ。晶と同じで、肝心な部分で大きな嘘を吐くのでもう嫌だというのが彼女達の感覚だった。

「で?」
タッキーは冷静だった。
「具体的な数字はあるのかなぁー?」
足を組み替えながら優雅に座っている。

「それってあれですよね。衛星逃れのトンネルたちが現れ、治安が悪くなった……と。その証拠は?」

「そちらだって、当時のそちらしか所持していない武器の薬莢やレーザー等の証拠ならあります。あんなものが増えだしたのはどう考えても……それに
学歴を調べるのにそう時間はかかりません」

「そういったものだって、例えば宗教だったり政治団体に受け渡しているかもしれないじゃない? 同じ地域の日本人同士が争っていないとでも思っている?」

「どうして色ちゃんなんですか」

花子は真っ直ぐに彼を見据える。

「めぐみさんならともかく。無関係な色ちゃんを連れて行けるような具体的な繋がりが、じゃあ貴方達の何処にあるんですか?」

「タッキー!」
それ以上の話題はまずいよ、と撫子が止めに入る。
別に彼女たちの目的はめぐみさんではない、と悟られてしまう。












そのとき。
「藍鶴色がいない?」
「勝手に出ていったのか」

ざわざわとドアの向こうから声が聞こえて来た。


誰だ?とタッキーが一瞬怖い顔で黙り込む。

「おっと……」
所長が目を細めてドアの方を見た。
恐る恐るスコープを覗くと、黒いスーツの男性が複数人ドアの前でうろついている。
「あれは……某薬剤グループの」

ドア越しに透視する菊さんが、嫌そうな顔で呟く。
「諦めたんじゃなかったのか」
所有物じゃあるまいに。
俺達は、人並みに暮らせないのか……
と、菊は実感していた。


今の日本社会に置いても、感覚的知覚や超能力は、プライバシーに含まれていないからだ。
名誉毀損は訴えた側に証明義務があるというのが、戯言ではなくなっている。




「藍鶴色の席を除いて、自分が座ってしまいたい、と考える人は五万と居ますからね」
タッキーが意味深に呟く。
彼もその一人と言わんばかりだ。
「彼って、どんなものが好きなんだろう? 嫌いなものは? 趣味は? どんな人なのかなぁ」

「それは、人として、聞いちゃいけない質問だよ!」

撫子が酷いと騒いだ。


「そうですか?」

藍鶴色や界瀬のような精神感応に特化したタイプだと、趣味や好みよりも、兵器としての感覚だけが優先されるのがより顕著になる。

『あるはずが無い』


「前に、西尾が聞いて殴られたやつなのに」
晶が遠巻きに見ながら呟く。
他人を利用していて少しでも長く使わせたいと考える側が一番言っちゃいけないことをわざわざ聞くのか、という意味だったのだろうがタッキーは首をかしげるだけだった。


2025年7月26日1時37分ー2025年7月13日16時06分
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