新生月姫

宇奈月希月

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新月の運命

sweet sweet teatime・2

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「うわぁ。本っ当に、すごく混んでるね」
 キョウノは店前に貼られた『ただ今、二時間待ち』という文字に、思わず苦笑いを浮かべた。
「……二人とも、時間はあるわね?」
 ナギサが振り向きながら二人に問えば、ダークとキョウノは顔を見合わせた。
「別に、予定は何もないけど」
「ああ、ないけど……これ、待つのか?」
 ダークが恐る恐る問えば、ナギサは「整理券で時間予約するんだって。整理券もらってくるわ!」と半ば叫ぶように答えながら、店内へと突撃していった。
 少しして、「整理券もらってきたわ!」と満面の笑みで帰って来たナギサは、二人の前に整理券を見せた。
「二時間後にこれ持って、また行けば、並ばなくてもいいんですって」
「じゃあ、とりあえず散歩でもするか」
 キョウノがそう言いながら歩き出し、ナギサはその後ろを歩きながら「買い物したい!」と答えている。自由人二人に振り回されながら、ダークも後ろを歩いた。
「で、何買いたいの?」
 キョウノに問われたナギサは、少し考える素振りを見せたが、すぐに口を開いた。
「髪飾り、かしら」
「髪飾り?そういうのなら、王族として頼んだ方がいいんじゃないか?」
 思わず会話に入ったダークだが、ナギサは首を振った。
「違うのよ。そういう、公務とかで使うものじゃなくて、普段使い……というか、代理人の仕事でも使えるようなものが欲しいの」
 ナギサの言葉を聞いて、ダークとキョウノはふとナギサの頭を見た。
 ナギサは普段から頭の中央辺りでツインテールにしているのだが、代理人の仕事の時はもちろん、普段のラフな格好の時も髪飾りを付けることがあまりなかった。

 アクセサリーショップに来た三人は、店内を歩きながら、「どういうのがいいの?」「これとかどう?」などと話しているが、なかなか決まらずにいた。
 ナギサ自身が想像つかなすぎて、どういうものが良いかわからなくなっているのと同時に、ナギサの髪が長く、ダークブラウンという色のため、仕事でも使える小さいものにしてしまうと、どうも埋もれてしまうのだ。
「うーん、ダメね。キラキラしてるのなら小さくても目立ちそうだけど……戦闘時に自分の居場所知らせるようなものよね」
「えー?大きくてシンプルなものってこと?難しいな」
 ナギサの言葉に、キョウノが口を尖らせるが、ダークはふと店の奥に視線を向けた。
「……リボンなら、大きさもあるし、シンプルな色とかもあるんじゃないか?」
 その視線に気付き、ナギサもそちらに目を向ける。
「ダーちゃんってば、冴えてるじゃない!すごいわ!大きなリボンもある!」
 テンションが上がったのか、ナギサは目をキラキラさせながらいろんな色のリボンを手にしながら悩んでいる。
「えー?青にするの?」
 キョウノはナギサが手にしているリボンを見て問う。
「うーん……服自体が青だし。それに、どうしても青をみてしまうわね」
 ナギサが苦笑いを浮かべながら答える。
 月界は、年中常春のような気候のため、比較的晴れることが多く、空を表す青色は格式の高い色とされ、王族はもちろん、民にとってもハレの日で愛用する者が多い。
 月界の軍服も、青と白が基本色になっており、ナギサが着ている改造軍服も、ナギサが王族として与えられたカラーであるヘブンリーブルーで纏められている。
 その癖で、つい青色ばかり手に取っていたナギサだが、指摘されるまで気付いていなかったのだ。
「暗めの色の方が、目立たないわよね」
 ナギサが自嘲気味に笑うのを見て、ダークは思わず別の色のリボンを手に取ると、ナギサに押し付けた。
「え?黒?」
 きょとんとしたナギサに、ダークは思わず早口で捲し立てる。
「黒なら目立たないし、いろいろと合わせやすいだろ!」
「え……あ、そうね。普段、買わない色だし、聖界では付けにくいけど……代理人の仕事の時にはちょうど良いわね」
 ナギサがふと微笑みながら言えば、そこでダークはハッとした表情を浮かべた。
 慌てて口を開いたが、ダークが発言するよりも早く、「じゃあ、これにするわ!買ってくる!」とナギサは会計に向かってしまった。
「えー、何あれ?こっそりとマーキングでもしてるの?」
 あわあわと口をぱくぱくさせるダークの横で、キョウノがニヤニヤしながらダークに問いかけた。
「うっ!うるさい!つ、つい癖で黒を選んだだけだ!」
 ダークが叫びながら、キョウノを殴ろうとするが、ひらりと避けられた。
 月界で青が好まれるように、魔界では黒が好まれている。魔界の守護神である“闇の神”を表す色であり、多くの人間が正装として使用している。
 それもあってか、聖界では黒は“魔界”や“闇”を表しており、喪に服した際に使用をしているため、忌まれているのだ。その月界の王女に、魔界の王子が黒色を贈るなど、違う意味で捉えられても仕方がないのだが。
「そんな、無意識とは言え、ヤバいだろ……」
 ダークは顔面蒼白になりながら、ぽつりと呟く。
「確かにねー。そう言えば、魔王がナギサを娘と思ってるんだろ?それで黒色渡すとか、もう完全に魔王家に迎え入れるようなもんじゃない?魔王ってば、娘に対しては異常に甘いから、ナギサにも同じような対応されたら、いくら息子でもボコボコにされるんじゃないか?……まあ、よくやった、とか言われる可能性もあるけどな」
 キョウノが未だにニヤニヤしながら言うが、ダークは父親がピアラに対して親バカなのを思い出し、ひゅっと息を呑んだ。
 そこへ、ナギサが帰って来た。
「お待たせー。って、どうしたの?」
 ぎょっとしながら問うナギサだったが、ダークはまだ復活できず、キョウノが苦笑いを零した。
「気にしないで大丈夫。それより、リボンもうつけたんだ?」
 キョウノはナギサの頭で主張するそれを見て、笑いながら言う。ナギサも笑みを浮かべる。
「ふふっ。似合う?かなり大きいリボンだから目立つでしょ?」
 ナギサの問うように、こてんと首を傾げれば、髪の結び目につけられた大きな黒いリボンが、頭の両脇で揺れた。
「うん、可愛い可愛い」と適当な返事をしているキョウノに、ナギサは若干イラッとしたが、未だに蹲るダークの方へ屈んだ。
「選んでくれてありがとう、ダーちゃん」
 満面の笑顔を浮かべて礼を述べるナギサと目があったダークは、自分が遠回しに告白をしたのを思い出し、ぼわっと赤面をした。
「ど、どどどどういたしまして!?」
 挙動不審な返事をし、ギクシャクとしながらさっさと歩み始めるダークに、ナギサはきょとんとした表情を浮かべ、その二人の様子を楽しそうにニヤニヤ笑うキョウノがいた。
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