新生月姫

宇奈月希月

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新月の運命

sweet sweet teatime・3

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 カフェの予約時間が近付き、ナギサは軽い足取りでカフェに向かった。
「ほら!早く!」
 満面の笑みで手をぶんぶん振りながら、先に行くナギサは、後ろからついてくるダークとキョウノを呼ぶ。
「そんな急がなくても、カフェはどこにも行かないよ」
 苦笑いで答えるキョウノは、急がなくても間に合うのをわかっているので、足を速める気は一切ないようだ。
「ちゃんと前見ろ」
 一方のダークは、こちらに振り返るナギサが、そのまま足を進めているのを見て、小言を漏らしている。
 そんな声さえ聞こえないのか、軽い足取りのまま前を見ずに歩いていたナギサは、ちょうどカフェに着いたところでやっと前を見た。
 が、そのタイミングでカフェから出てきた男に思いっきりぶつかった。
「ごっ、ごめんなさい!」
「いや。こちらこそ、失礼した」
 ナギサが慌てて頭を下げて謝るが、男は特に怒る様子もなく、淡々と答えた。
 ナギサが恐る恐る顔を上げ、男を見た。
 男はフードを目深に被り、表情などは読み取れない。そのフードの隙間から、ちらりと藤色の髪が覗き、その奥では髪と同じ藤色の瞳がちらりと覗いた。
 その美しさに、ナギサはきょとんと見つめてしまったが、すぐに後ろからダークの声が響いた。
「だから言っただろ!申し訳ない。怪我はしてないか?」
 ダークはナギサを軽く叱るが、すぐに男へ向き直り、謝ったが、男は「ああ、気にするな」とだけ答えると、その場を去ってしまった。
 その後ろ姿を見送ったナギサだったが、すぐにダークが説教をし始めた。
「ちゃんと謝ったか?」
「失礼ね!ちゃんと謝ったわ。子供扱いしないでよ」
「そう言うことを言ってるんじゃなくてだな!そもそも、子供みたいにはしゃいでいたのはお前だろ!」
 ダークの正論に、ナギサはむっと頬を膨らませたが、すぐにダークの真横まで行くと、身長差を活かして上目使いでダークを見た。
「ごめんね、お兄ちゃん」
 てへっと可愛げに言って見せれば、ダークはぴしっと固まってしまった。
「ぶはっ!確かにお兄ちゃんだよな。ナギサも反省してるんだし、そこまでにしとけって」
 一部始終を見ていたキョウノがげらげら笑いながら、ダークの背中をバシバシ叩く。
「うるさいっ!これのどこが反省してるんだよ!?」
「反省しているわ。ここは奢るから、許して」
 ダークの怒鳴り声に臆することなく、ナギサはウインクをしながら言うと、ダークは声にならない呻き声を上げた。
 その、耳が真っ赤なのを見て、キョウノはニヤニヤと笑っていたが、ふと真面目な表情を浮かべた。
 先程の男、隠しているつもりだったが、冷たい空気を纏っていたな、と思案した。
 どこかしら引っかかる態度が気になっていたが、突然ぐっと腕を引っ張られたことで、キョウノは現実へと引き戻された。
「ほら!行くわよ、伯爵」
 ナギサが腕を引き、店内へと赴くのを見て、「はいはい、急がなくても大丈夫だって」と苦笑いを零した。

 先程の男は、路地裏に入ると、来た道を振り返った。
 その目には、ワイワイとじゃれているナギサ、ダーク、キョウノの姿が映る。
「キール様」
 後ろから女に名を呼ばれ、男はゆっくりと振り向いた。
 緑の髪をきっちり一つに結んだ女――メサイアが、軽く頭を垂らして立っていた。
 男――キールはフードを脱ぐと、藤色の瞳を楽しそうに細めた。
「メサイア。見たか?あの王女は、随分と危機感というものがないらしい」
「……ナギサ様は、甘党という情報がありますから、カフェのことしか頭がなかったのでしょう」
 淡々と答えるメサイアだが、ちらりとキールを見た。
 そもそも、キール自身もそのカフェから出てきたのである。ナギサとぶつかったのも、偵察のためにわざとではなく、本当にたまたまであり、何ならキール自身も食べたスイーツに脳内で点数をつけて前を見ていなかったのである。
 メサイアも、キールを迎えに来て、たまたま一部始終を目撃したのだが、キール自身は然も偵察してやったと言わんばかりの表情を浮かべているのだ。とは言え、メサイアは優秀な臣下なので、それを指摘することはしない。
 代わりに、メサイアはナギサの別の情報を提供した。
「そう言えば、月界はそろそろ花祭りがあるのでは?」
「花祭り?収穫祭でなく?」
 メサイアの言葉に、キールは怪訝そうな表情でメサイアを見た。
 キールの言う通り、現在は十一月になったばかり。“花祭り”は魔界や冥界にも存在するが、いずれも春の訪れを祝うものである。そして、秋に催されるのは、どこも“収穫祭”だからだ。
 そんな疑問も、キールが一々口にしなくても、メサイアは察して、すぐに答えた。
「そもそも、聖界は春しかない気候のため、こちらとは逆の時期に“花祭り”も“収穫祭”も行われていたはずです」
 メサイアの言葉に、キールは「ああ」と、そう言えばと言わんばかりの声を上げた。
 万年常春で、外部から侵される心配もほとんどなく、人々が浮かれた国だからな、と思いながら、カフェで嬉しそうにパフェを頬張るナギサを、冷たい視線で見つめた。が、すぐにニタリと口角を上げると、メサイアに話し掛けた。
「では、その祭りに楽しい催しをしてやろうではないか。メサイア、帰るぞ」
「かしこまりました」
 メサイアはキールに頭を下げると、帰路につきながらも、ナギサに視線を向けた。
『これから忙しくなるだろう。こうなった時のキール様は、嫌がらせと言わんばかりにネチネチした戦略しか思いつかないのだから』
 そこまで考えて、メサイアはキールにばれない程度に、溜め息を吐いた。
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