新生月姫

宇奈月希月

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出会いと雪解け

誓うは絆・2

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 本部に向かうのを、普段から護衛を勤めているサーラに伝えると、彼女も当たり前だと言わんばかりに着いてきた。
 その道中に、サーラは事情を二人から聞いていたのだが、難しい顔を浮かべた。
「つまり、セイズがナギサをナンパしたってことでいいの?」
「なんでっ、そうなるのかな!?今の話で、絶対にそうはならないよね!?」
 セイズが思いっきりツッコミを入れる。
 先程までの、穏やかな態度とのギャップに、ナギサは驚いた表情でセイズを見つめた。
 それに気付いたのか、セイズはハッとした表情を浮かべると、思いっきり咳き込んだ。
「んんっ。ナギサ様、失礼しました。お見苦しいところをお見せしてしまって」
「え?いや、大丈夫よ。むしろ、それぐらいの方が接しやすくて、好ましいけど。それに、私も先程……お母様の前では無礼を働いた訳だし」
 ナギサは先程の女王との謁見を思い出しながら、ぽりぽりと頭を掻いた。
 ナギサ自身も、かなり態度が悪いことを理解していたからだ。
「全く……サーラが変なこと言うからだよ?」
「んー、でもナギサがわたしに一言言わなかったら、二人きりで本部までデートしようとしてたんでしょ?」
「サーラ。いくら何でも、軍の本部デートとか、私も嫌なんだけど」
 ナギサも大きな溜め息を吐きながら、サーラにツッコむが、ふと何かに気付いたようにサーラを見た。
「というか、サーラは軍のトップであるセイズに、そんな砕けた言葉づかいでいいの?」
 ナギサの問いに、サーラとセイズは顔を見合わせた。しかし、すぐにサーラが口を開いた。
「あれ?言ってなかったっけ?セイズとは家族ぐるみの付き合いで、幼馴染なんだよ」
「私の……ミレル家は、代々軍人の家系でして、サーラの両親も軍人だったこともあり、両親同士の仲が良かったので」
 サーラの言葉に続くように、セイズも答える。
「サーラのご両親は軍人だったの?」
「うん。うちは女系だから、メイル家は女性が継いでいて、代々占い師をしていたんだよね。でも、母は召礼術こそマスターはしたけど、家業を継ぐつもりはないって軍人になったみたいで。父は軍人を多く出している家系だったみたいだから、そんなところで意気投合したみたいだよ」
 サーラが苦笑いをしながら言う。ナギサは「そう」と答える。
 メイル家が女系家系で、精霊の力を封じたカードを駆使する召礼術は唯一、メイル家の女性たちにしか伝えられていない。尚且つ占い師を多く輩出してきた家系なのは知っていたが、サーラの両親の事情は知らなかったし、サーラが軍人になったのも何となく理解してしまった。
「だからこそ、サーラの両親が亡くなった時に、ミレル家で面倒を見ると申し出たのですが……」
 セイズが思わず、ぽつりと呟いたのを、サーラが「セイズ!」と慌てて止めた。
 サーラの両親が亡くなった時。つまり、五年ほど前に起きた魔界との戦争を表していた。とは言え、民間人に犠牲が出る前で止まったので、大きな戦争にはならなかったものの、月界では多くの軍人が命を落としていた。
 そして、戦争の発端はそもそも、ナギサの父である前月王が魔王に殺されたのがきっかけである。
 ナギサが記憶を失くして混界に送られたのも、これがきっかけ。
 それを知っていたから、サーラは慌ててセイズを止めたのだが、ナギサは察したようで「サーラ、大丈夫」と声をかけた。
「サーラこそ、それならこっちに残れば良かったのに」
 そう言うナギサに、サーラはむっとした表情を浮かべる。
「確かに、セイズのところから申し出があった時は有り難いと思ったけど……でも、その後、キメミ様から直々にお話があったの。ナギサとは歳も同じで、既にあの頃には召礼術を使えていたから、護衛として一緒に混界に行ってほしい、って。向こうでの生活は面倒見てくれるって言われて。わたし、あの頃年の近い女の子の友達っていなかったから、一緒にいれば、ナギサやリナとお友達になれるって思ったの。だから、後悔はしてないよ!」
 サーラの言葉に、ナギサとセイズはきょとんとする。が、ナギサはすぐにはにかむと、サーラをぎゅっと抱きしめた。
「ふふっ。ありがとう、サーラ。やっぱり、大事な友達だわ!」
「当たり前でしょ!それに、セイズはああ言ってるけど、セイズだってあの戦争で父親を亡くしてたから、頼るのもおかしいじゃん!」
 サーラのツッコミに、今度はセイズがぽりぽりと頭を掻いた。
「そうだったの?……そうね、あの戦いは多くの人の人生を滅茶苦茶にしたのね」
 ナギサがそう言うと、慌てたセイズがナギサの手をぎゅっと握った。
「そ、そんな風に言わないでください!確かに、私たちは親を亡くしたという事実はありますが、同時に何かしら得たものもあります。私は家を継いで、サーラは友達を得た。ナギサ様だって、そのためにいろいろと努力をなさっているのでは?」
 その言葉にナギサはハッとし、苦笑いを浮かべた。
「ありがとう、セイズ。まだまだ考えが甘くてダメね。未熟者だけど、支えてくれると嬉しいわ」
 ナギサはそう言うものの、ふと握られている手を見つめた。
 それに気付いたのか、今度はセイズがハッとした表情をし、慌てて手を離した。
「もっ、申し訳ありません!王女殿下の手を握るという無礼、お許しください!」
「あ、いえ。驚いたけど、気にしてないわ。それに……セイズは手袋をしているのね」
「あ、は、はい。使う術の関係で、普段は手袋を使用しております」
 セイズはそう言うと、胸の前に手を揃えた。
 軍服の規定には手袋が入っておらず、セイズだけが白手袋を着用しているのを、ナギサが気付いたのだ。
「え?セイズも、術士なの?」
 ナギサの言葉を、今まで黙って聞いていたサーラがにやりと笑いながら、口を開いた。
「セイズはね、召喚術士なんだよ。その媒体として、手袋必須って感じ」
「え?そうなの?召喚術は、聖力の消費が激しく、詠唱の時間も長いから、扱いが難しいのよね?召喚術士の数も、かなり少ないと聞くわ」
 ナギサが驚きながら言うと、セイズは照れたようにぽりぽりと頬を掻いた。
「確かに、召喚術を扱う人間はかなり少ないですね。ミレル家は、軍人家系でもありますが、召喚術士の家系でもありまして。ナギサ様の仰る通り、詠唱時間が長いため、それを省くための媒体として、普段から手袋を使用させていただいております」
「私、まだ法術関係においてはまだまだ勉強中の身だから、個人的にあなたの……召喚術の話がとても気になるわ!是非、時間がある時に聞かせてちょうだい!」
 ナギサは若干前のめりになりながら、セイズに詰め寄る。
「え?もちろん、喜んで」
 セイズが快く返答すれば、ナギサは喜びのあまり、セイズの手を握り、ぶんぶんと握手した。あまりの熱量に、サーラが慌てて止めに入る。
「はいはーい。ナギサ、落ち着いて。デートの約束をしてる場合じゃないでしょ」
「デートって、そういうのじゃないでしょ」
 思わずナギサがツッコむが、セイズは少し冷静になったのか咳払いをすると、「とりあえず、本部へ急ぎましょうか。このままでは、日が暮れてしまいます」と早足で進み始めた。
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