新生月姫

宇奈月希月

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出会いと雪解け

誓うは絆・1

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 ナギサは城内を早足で進んでいた。
 表情はどこか固く、その姿に擦れ違った使用人たちは、声をかけることも忘れ、慌てて道を開ける。
 辿り着いた先は謁見室で、大きな扉を見つめると、一瞬憂鬱そうな表情を浮かべたが、すぐに扉の前にいた衛兵に扉を開けるよう命じた。
「失礼致します。お母様、何か用かしら?」
 部屋に入るなり、母であり、女王でもあるキメミに問いかけながら、ずんずんと謁見室の中央まで足を進める。
 足を止めるなり、むすっとした表情でキメミを見た。
「ナギサ。いくら家族とはいえ、王女としての礼儀を、少しは弁えなさい」
 キメミは咎めたが、ナギサは何かに気付いたのか、一点をじっと見つめた。
 その視線の先には男性が立っていた。穏やかな笑みを浮かべながらも、視線を伏せており、ナギサと視線が交わることがない。
 サーラの来ている軍服と、色こそ違うが同じなため、彼が軍人であるのはわかる。
 ナギサは益々、眉間に皺を寄せた。
 城に軍人がいるのも、女王である母に謁見をしているのも、別におかしなことではない。事実、城内には王族護衛用の軍人が常駐しているのだから。ただ、ナギサはサーラを筆頭に軍人の顔をある程度は認識しているため、彼が王城所属ではないことに気付いていた。
「ナギサ、失礼ですよ」
 あまりにもじろじろ見すぎたのか、キメミが再びナギサを咎める。
 その言葉にナギサはやっと母へと視線を移すと、肩を竦めた。
「ごめんなさい。お母様だけかと思ってたから、第三者もいて驚いたわ」
 やや棘のある言い方をするナギサに、キメミは再び咎めた。
「ナギサ!はあ……ごめんなさい、ミレル総指揮官。娘の無礼をお詫びするわ」
 キメミが申し訳なさそうに、男に向かって言うと、彼は「いえ」と頭を垂れた。
「初対面の人間を警戒するのは普通ですし、ましてや王族ですので間違っていないかと」
 男が平然と答えるのを見て、ナギサは思考をフル回転させていた。
 キメミが言う“総指揮官”の単語に、引っ掛かりを覚えたからだ。
「……総指揮官ってことは、軍のトップってこと?」
 王女としての作法など、もう諦めたとばかりに言うナギサに、キメミは再び頭を抱えた。
「ナギサ。先程から言っていますが、もう少し口を慎みなさい」
 そう言われても、むっと頬を膨らますだけのナギサだったが、そこで男はやっとナギサへと視線を向けると、軽く微笑んでから頭を垂らした。
「名乗り遅れまして、申し訳ありません。聖界防衛軍総指揮官、セイズ=ミレルと申します」
「あなたが、総指揮官?」
 ナギサは訝しげな表情で男を見る。
 聖界防衛軍は“軍”と名乗ってはいるが、その名の通り防衛に特化しており、基本的には警察に近い役目を担っている。王都には本部があり、各地方にある支部、そして王族専門の護衛である“王家護衛隊”を擁している。
 ちなみに、ナギサの護衛をしているサーラは、エリートとも言われる“王家護衛隊”所属であり、そこのトップ2でもある。
 そして、目の前にいるこの男。軍のトップだと言うが、その割には比較的若いことに、ナギサは驚いていた。“王家護衛隊”のトップの方が、よっぽどおじいちゃんだし、何ならナギサの剣の師匠であるカズエラよりも若いだろう。

 そうじろじろ見ていると、キメミの大きな溜め息が聞こえた。
「ナギサ。本当にいい加減になさい。人のことをじろじろ見るなど、王女でなくても、人としての礼儀を疑われますよ」
 キメミの言葉に、ナギサは「ごめんなさい」と謝るものの、反省した声音でなく、キメミは再び溜め息を吐き、話を続けた。
「確かに、彼は軍のトップではありますが……代々、月王が軍の最終決定権を持っています。そして、今回はその件であなたを呼んだのですよ?」
「え?私?」
 ナギサがきょとんとした表情を浮かべる。
 この話の流れだと、現在女王である母がその権限を持っていることになる。いずれ、自分に来るものではあるが、ナギサにとってはまだ先の話だ。
 しかし、眉間に皺を寄せるナギサに対し、キメミは口を開いた。
「ええ。現在、私が持っているその権利を、ナギサに引き継ごうと思いまして。それをミレル総指揮官に相談したところ、理解をいただけたので、あなたを呼んだ次第です」
「ちょっ、ちょっと待って、お母様。そもそも、月王が持っている権利でしょう?私の王位継承は成人後ってことになっているわ。まだ先の話でしょう?」
 ナギサが困惑気味に言うが、キメミはさらっとした表情を浮かべた。
「ええ。あなたの月王即位については、まだ一年以上先の話になるわね。ただ、私は現在、月王という立場にはいますが、あくまで代理。あなたが成人を迎えるまで、ということになっています。そもそも、私は王位に就く立場ではなかったため、軍事などに関してはあまり知識を持ち合わせておりません」
 キメミがそこまで言うと、セイズが続くように口を開いた。
「ナギサ様に関しては、レキニート先生直々に剣術の指導を受けていると伺いました。また、かなりの腕前であること、戦いの知識も教わっているとも伺っております」
「なので、知識のない私よりもあなたの方が向いていること。また、先に権利を渡しておくことで、月王としての仕事が少しでもわかれば、と思いまして」
 女王と、軍のトップの二人がかりで外堀を埋められていく感覚に、ナギサは思わずため息を吐いた。
「そうは言っても……私、まだ実戦の経験はないのよ?」
「その点につきましては、レキニート先生より、『頭も良いし、腕も良いから問題ないよ』とお墨付きをいただいており、先生も大賛成しております」
 セイズにそう言われ、ナギサはひくりと口角を上げた。「師匠!余計なことを!」と声に出しそうになるのを、無理矢理飲み込んだ。
「わ、わかったわ。なんか、逃げ道ないっぽいし、お受けするわ」
「それは良かった。ありがとうございます。この後、お時間があるようでしたら、本部に見学にいらっしゃいませんか?」
 セイズが穏やかな微笑みを浮かべながら問うと、ナギサは「そうね。せっかくだしお願いするわ」と答え、二人は謁見室を後にした。
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