39 / 75
出会いと雪解け
孤高の華・3
しおりを挟む
その様子を笑顔で見ていたキョウノは、「じゃあ、ナギサとの挨拶終わったから、本題入ってもいい?」と聞きつつも、返事を待たずに話を続けた。
「ここに封印されていた重罪人、ガルラ=ミーキニアの脱走について、冥王が詳しい状況を知りたい、とのことで、今回俺たちが来たんだけど」
その言葉に、カゲツは真面目な表情を浮かべると、すっと壁際の棚を指差した。
「あちらに、透明の球が一つありますね。本来なら、あそこにもう一つ同じものがあります。あれに封印し、ここで管理していたのです」
そこまで言うと、ふっと息を吐き、思い出すように目を瞑り、話を続けた。
「あの日、ここにやって来たのは一組の男女、だったと思います。ここは神域ゆえ、あなた方が通ってきた池自体と、そこの扉に結界を張っており、かなり厳重なはずなのですが、それらを潜り抜け、対応する前に襲われたのです。とは言え、少しの間視界を奪われただけなのですが……その間に、封印していた球そのものを奪われました」
「二つ並んでて、一つだけ奪われたの?」
「はい。かなりの手際の良さですので、最初からガルラの封印を解こうとしていたのではないかと」
ナギサの問いに答えるカゲツの話を、今まで黙って聞いていたダークが口を開いた。
「しかし、“神”が張った結界を破るって……できるのか?そもそも、封印の神の結界なんて、その辺の術士で何とかできるものじゃないだろ」
ダークの言葉に、キョウノも同意を示した。
「俺もそれは気になってた。ただ、結界を破られたというよりも、一瞬だけ消されたという感じだろうな。異変に気付いた冥王の指示で向かった者の話によれば、結界は壊れてなかったようだし」
「消す?そんなことできるの?」
ナギサの言葉に、キョウノは「うーん」と考えた。
「俺もやったことないからわからないけど、理論上できなくはないと思う。一瞬だけ穴を開ける、みたいな感じで、結界を潜り抜ければ、反応する時間はもちろん、魔力の消費も軽減できるだろうし。どっちにしろ、相当な手練れなのは間違いないかな」
キョウノの言葉を聞き、今度はナギサが「うーん」と考える。
ダークはカゲツに向き直った。
「他に何か覚えてないのか?」
「そうですね。……相手は水属性が得意なのではないかと思います。襲われた時も、水法術でしたから」
カゲツが思い出すように言うと、ダークが今度はキョウノへと向き直った。
「キョウノ、水属性で相当な手練れって辺りで絞れるか?」
「えー、どうだろう。水属性は四大法術の一つだし、ポピュラーだからな。かなり広範囲すぎて」
「そうは言っても、神に対抗できるほどの手練れなんて、そうそういるもんじゃないだろ」
「それはそうだけど」
ダークの言い分に、キョウノが苦笑いを浮かべながら、頬をぽりぽりと掻く。
その様子を見ていたカゲツが、しゅんと肩を落としながら呟いた。
「申し訳ありません。私がもう少ししっかりしていれば、こんなことにならなかったのに」
それにはダークが一番驚いたようで、慌てだした。
「い、いや、あなたが謝ることじゃない。そもそも、こんなことできるの一握りだし、そもそもそれだけの力があれば高い地位にいるはずだけど……そこは把握しきれてない俺たちにも非があるし」
ダークのことをちらりと見たナギサは、相変わらず嫌悪感を含んでいるものの、彼らが言っていることも一理ある、というのを理解していた。
「神と同等の力か……」
思わずぽつりと呟くナギサ。
かなり限られてくるのは事実で、ましてや三大神と呼ばれる封印の神と同等の力となると、本当に一握りしかいない。“神”や“精霊”の類いでも、下位ではここまで上手くいかないだろう。正直、ナギサたち“代理人”はもちろん、“三大王”でも難しいと思うのだが。
ナギサも、キョウノやダークほど知識はまだないだろうと理解はしつつも、最近叩き込んだ知識をフル回転させながら考えていると、カゲツがふと口を開いた。
「そう言えば、ナギサさんは“光の神”の力を持っていますよね?」
「え?ええ。まだ上手く力をコントロールできないけれど」
突然言われたことで、驚きつつも答えるナギサだったが、カゲツは笑顔を浮かべる。
「我々、三大神のうち、“光”と“封印”が顔を合わせたのです。折角ですから、もう一人の“闇”に会われてはいかがですか?」
「え?」
ナギサは思わず目を丸くした。驚いたのはナギサだけでなかったようで、キョウノもダークもカゲツに視線を向ける。
しかし、すぐにナギサは眉を顰めた。
「闇の神は、魔界の守護神なのでしょう?……会いたくないわ」
ナギサが嫌悪感を込めた声で言うと、カゲツは苦笑いを浮かべた。
カゲツ自身も、ナギサの事情を知ってはいるが、随分と根深いことに頭を抱えるしかない。
「そうですか。わかりました。無理にとは言いませんが、いずれは会わねばなりませんから、覚悟は決めておいてください」
カゲツはそうハッキリと言い切る。
ナギサは表情を硬くしたのを、キョウノとダークは見逃さなかった。
三人は冥殿に向かって歩いていた。
キョウノが大きな溜め息を吐いた。
「あー、疲れたー。とりあえず、リキに報告したら解散しよう。俺、もうお腹空いたー」
「そうね。冥王に犯人を絞ってもらわないと、これ以上は動けないものね」
ナギサも疲れたように、ふと息を吐きながら返事をする。
「……犯人がわかったら、忙しくなるしな」
ダークの呟きに、キョウノは「そうだねー」と返しつつ、隣にいたナギサの肩を掴んだ。
「ちょっと!何するのよ!」
「まあ、すぐに見つからないとは思うし、それまでにはナギサも実戦で戦えるようになってるだろうし。ナギサは努力家だから、帰ったら実戦で戦える鍛練をしようと思ってるだろ?」
「当たり前でしょ」
ナギサは苛立った様子で答えると、キョウノの手をパシンと叩いた。
「同じ過ちは繰り返さないわ。次こそは絶対、足を引っ張らないんだから」
「うん、期待してる」
叩かれながらも、ウインクをしながら言うキョウノに、ナギサは益々イライラさせると、思わずキョウノの手の甲をギュッと抓った。
「ちょっと痛いって!」
「仕返しよ」
そんな二人のじゃれ合いを若干呆れながら見ていたダークは、まだ見ぬ敵に一抹の不安を覚えていた。
「大事にならなければいいんだがな」
その呟きだけが森の中に消えて行った。
「ここに封印されていた重罪人、ガルラ=ミーキニアの脱走について、冥王が詳しい状況を知りたい、とのことで、今回俺たちが来たんだけど」
その言葉に、カゲツは真面目な表情を浮かべると、すっと壁際の棚を指差した。
「あちらに、透明の球が一つありますね。本来なら、あそこにもう一つ同じものがあります。あれに封印し、ここで管理していたのです」
そこまで言うと、ふっと息を吐き、思い出すように目を瞑り、話を続けた。
「あの日、ここにやって来たのは一組の男女、だったと思います。ここは神域ゆえ、あなた方が通ってきた池自体と、そこの扉に結界を張っており、かなり厳重なはずなのですが、それらを潜り抜け、対応する前に襲われたのです。とは言え、少しの間視界を奪われただけなのですが……その間に、封印していた球そのものを奪われました」
「二つ並んでて、一つだけ奪われたの?」
「はい。かなりの手際の良さですので、最初からガルラの封印を解こうとしていたのではないかと」
ナギサの問いに答えるカゲツの話を、今まで黙って聞いていたダークが口を開いた。
「しかし、“神”が張った結界を破るって……できるのか?そもそも、封印の神の結界なんて、その辺の術士で何とかできるものじゃないだろ」
ダークの言葉に、キョウノも同意を示した。
「俺もそれは気になってた。ただ、結界を破られたというよりも、一瞬だけ消されたという感じだろうな。異変に気付いた冥王の指示で向かった者の話によれば、結界は壊れてなかったようだし」
「消す?そんなことできるの?」
ナギサの言葉に、キョウノは「うーん」と考えた。
「俺もやったことないからわからないけど、理論上できなくはないと思う。一瞬だけ穴を開ける、みたいな感じで、結界を潜り抜ければ、反応する時間はもちろん、魔力の消費も軽減できるだろうし。どっちにしろ、相当な手練れなのは間違いないかな」
キョウノの言葉を聞き、今度はナギサが「うーん」と考える。
ダークはカゲツに向き直った。
「他に何か覚えてないのか?」
「そうですね。……相手は水属性が得意なのではないかと思います。襲われた時も、水法術でしたから」
カゲツが思い出すように言うと、ダークが今度はキョウノへと向き直った。
「キョウノ、水属性で相当な手練れって辺りで絞れるか?」
「えー、どうだろう。水属性は四大法術の一つだし、ポピュラーだからな。かなり広範囲すぎて」
「そうは言っても、神に対抗できるほどの手練れなんて、そうそういるもんじゃないだろ」
「それはそうだけど」
ダークの言い分に、キョウノが苦笑いを浮かべながら、頬をぽりぽりと掻く。
その様子を見ていたカゲツが、しゅんと肩を落としながら呟いた。
「申し訳ありません。私がもう少ししっかりしていれば、こんなことにならなかったのに」
それにはダークが一番驚いたようで、慌てだした。
「い、いや、あなたが謝ることじゃない。そもそも、こんなことできるの一握りだし、そもそもそれだけの力があれば高い地位にいるはずだけど……そこは把握しきれてない俺たちにも非があるし」
ダークのことをちらりと見たナギサは、相変わらず嫌悪感を含んでいるものの、彼らが言っていることも一理ある、というのを理解していた。
「神と同等の力か……」
思わずぽつりと呟くナギサ。
かなり限られてくるのは事実で、ましてや三大神と呼ばれる封印の神と同等の力となると、本当に一握りしかいない。“神”や“精霊”の類いでも、下位ではここまで上手くいかないだろう。正直、ナギサたち“代理人”はもちろん、“三大王”でも難しいと思うのだが。
ナギサも、キョウノやダークほど知識はまだないだろうと理解はしつつも、最近叩き込んだ知識をフル回転させながら考えていると、カゲツがふと口を開いた。
「そう言えば、ナギサさんは“光の神”の力を持っていますよね?」
「え?ええ。まだ上手く力をコントロールできないけれど」
突然言われたことで、驚きつつも答えるナギサだったが、カゲツは笑顔を浮かべる。
「我々、三大神のうち、“光”と“封印”が顔を合わせたのです。折角ですから、もう一人の“闇”に会われてはいかがですか?」
「え?」
ナギサは思わず目を丸くした。驚いたのはナギサだけでなかったようで、キョウノもダークもカゲツに視線を向ける。
しかし、すぐにナギサは眉を顰めた。
「闇の神は、魔界の守護神なのでしょう?……会いたくないわ」
ナギサが嫌悪感を込めた声で言うと、カゲツは苦笑いを浮かべた。
カゲツ自身も、ナギサの事情を知ってはいるが、随分と根深いことに頭を抱えるしかない。
「そうですか。わかりました。無理にとは言いませんが、いずれは会わねばなりませんから、覚悟は決めておいてください」
カゲツはそうハッキリと言い切る。
ナギサは表情を硬くしたのを、キョウノとダークは見逃さなかった。
三人は冥殿に向かって歩いていた。
キョウノが大きな溜め息を吐いた。
「あー、疲れたー。とりあえず、リキに報告したら解散しよう。俺、もうお腹空いたー」
「そうね。冥王に犯人を絞ってもらわないと、これ以上は動けないものね」
ナギサも疲れたように、ふと息を吐きながら返事をする。
「……犯人がわかったら、忙しくなるしな」
ダークの呟きに、キョウノは「そうだねー」と返しつつ、隣にいたナギサの肩を掴んだ。
「ちょっと!何するのよ!」
「まあ、すぐに見つからないとは思うし、それまでにはナギサも実戦で戦えるようになってるだろうし。ナギサは努力家だから、帰ったら実戦で戦える鍛練をしようと思ってるだろ?」
「当たり前でしょ」
ナギサは苛立った様子で答えると、キョウノの手をパシンと叩いた。
「同じ過ちは繰り返さないわ。次こそは絶対、足を引っ張らないんだから」
「うん、期待してる」
叩かれながらも、ウインクをしながら言うキョウノに、ナギサは益々イライラさせると、思わずキョウノの手の甲をギュッと抓った。
「ちょっと痛いって!」
「仕返しよ」
そんな二人のじゃれ合いを若干呆れながら見ていたダークは、まだ見ぬ敵に一抹の不安を覚えていた。
「大事にならなければいいんだがな」
その呟きだけが森の中に消えて行った。
0
あなたにおすすめの小説
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる