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出会いと雪解け
孤高の華・2
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ある程度、距離を取ったところで、キョウノは歩みを止めはしないものの、速度を緩めた。しかし、ナギサの手を引いたまま歩いているのは、ナギサが今、誰かに支えられていないと悔しさのあまり、歩みを止めてしまうのを察したからだ。
「別に、ナギサが弱いとは思ってない。ちゃんと練習してるんだな、ってのがわかる戦い方だと思う。基礎もしっかりしてるし、自分の戦い方もわかっている。だけど、実戦では技術はただの保険でしかない。命がかかってる以上、相手は本気でくる。どんな手を使ってでも勝とうと……いや、違うな。生きるために精一杯で、こっちの生死は考えてくれない。相手には、生きるために殺すという自己防衛しか頭にない。だから、こっちも本気でいかないと殺される。何が起こるかわからないんだよ」
「伯爵は……どれぐらい実戦を積んできたの?」
ぽつりと呟くナギサに視線を向けたキョウノは、「うーん」と考え始めた。
「えっとー、封印の神と契約したのが十年近く前だから、それぐらいの頃からかな。封印の神と契約した以上、冥王選出の資格も出てきて、でも俺はそんなのなるつもりなくて……ただ、代理人になる可能性は高いからって、祖父さんが森の中に放り込むっていうスパルタ教育を受けてたからな」
キョウノはそう言うが、思い出して一人で顔を青くした。
しかし、キョウノはすぐ立ち直ると、ふと歩みを止め、ナギサに向き合った。
「だからさ!ナギサに足りないのは、実戦の経験だと思うんだ。でもそれは、こうやって自ら危険に飛び込むしかない。最初は辛いかもしれないけど、俺たちもついてるから、頑張ろうな」
キョウノはそう言って、ぽんっとナギサの肩を叩く。
落ち込みつつも、頷くナギサに、キョウノは笑みを浮かべた。
「そして、そんなことやってる間に着いたんだよー!」
キョウノがテンション上げながら言うと、ナギサが目を丸くして驚いた。
気付いたら、森の中でも開けている場所に出ており、その中央では太陽の光をきらきらと反射させた美しく、こぢんまりとした池があった。
「いつの間に!?」
ナギサは驚きを隠せないまま、池の側まで行き、そっと池の底を覗き込んだ。
透明度が高く、深くまで見えるが、それ以上に深いようで底は見えない。自分の驚いた顔がわずかに映るのをぽかんと見つめていたナギサだったが、自分の後ろにキョウノが立ったのを池越しに見て、振り向いた。
そんなナギサの様子に満足したように、キョウノは口を開いた。
「ようこそ。冥界の守護神、“封印の神”の神域へ」
じゃーん!と両手を広げながら言うキョウノに、ナギサは「ここが、神域?」と返した。
「うん、そう。この池の中に神殿があるんだよ。さ、行こうか!」
「え!?」
予想外の言葉に、ナギサは声を荒げる。しかし、キョウノは満面の笑みを浮かべると、ナギサの肩をガシリと掴んだ。
一方、今までずっと黙っていたダークも、いつの間にかキョウノの横に立っており、何かを察したように大きな溜め息を吐いている。
「はいはーい!じゃあ二人共、しっかり俺に捕まっててね!」
キョウノが楽しそうにそう叫ぶと、そのまま池に飛び込んだ。
ナギサは悲鳴をあげるが、キョウノに肩を掴まれており身動きが取れないでいる。ダークもはぐれないようにキョウノの腕を掴んでいた。
三人は池の中に入るが、キョウノが結界を張ったことで、濡れることもなく、地上と同じように息もできるのだが、そのままゆっくりと沈んで行った。
ただ、水の中という浮遊感はあり、その不安定さに思わずナギサは、ぎゅっとキョウノを掴んだ。
そのまま深くまで潜って行くと、横穴があり、キョウノはそちらに進んで行く。
深さもあって、日の光が入らないため、暗い中を進む。どれだけ進んだかわからないところで、行く先に明かりが見え、キョウノはその明かりを目指して浮上した。
水から上がり、洞窟の中へと出ると、ナギサは勢いよくキョウノから離れた。
「ほんと、伯爵ってば強引ね!」
ナギサは叫びながら、怒ったように腕を組むが、キョウノはへらへらと笑ったまま言った。
「説明するより実演した方が早いでしょ?それに、ここに来れるの俺とリキだけだもん」
キョウノの言葉に、ナギサは盛大に溜め息を吐いた。正直、ナギサもだんだんキョウノの性格を理解してきたため、呆れて何も言えないだけなのだが。
すると、そんな彼らを待っていたように、壁に等間隔に並べられている燭台に明かりが灯った。その明かりによって、洞窟だと思っていた場所が神殿の回廊だったことに気付き、ナギサは息を呑んだ。
「封印の神も歓迎しているみたいだね。よし、行こうか」
キョウノはそう言いながら、奥へと進んで行く。ナギサとダークが後を追うと、キョウノが大きな扉の前で止まった。
「この向こうが、封印の神がいる場所だ。そして、罪人たちを封印している場所でもある」
そう言ってキョウノは扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。
あまり広くない部屋に出たため、ナギサは驚いたように辺りを見回した。
壁中に棚がとりつけられ、いろんなものが置かれている。アンティークはもちろん、何に使うのかもわからない物まで置いてあり、神殿と呼ぶには違和感のある部屋だった。
その一角に、一人の女性が立っていた。
黒髪を特徴的に結っている女性に、ナギサは目を奪われた。彼女はナギサの視線に微笑んで返す。
「ようこそいらっしゃいました」
女性の声音は穏やかだが、纏っている空気は圧があり、彼女が“封印の神”であるというのは一目瞭然なのだが、キョウノは「久しぶりー」と手を振っている。
そんな、傍から見れば無礼な態度にも動じず、彼女は返事をした。
「お久しぶりです。なかなか召喚してくださらないので、心配しておりました」
「わっ、神である貴女から直々に心配していただけるなんて、光栄だなぁ。ただ、貴方の手を借りなくてもいいのは、平和なことなんですよ」
そうケロッとした態度で答えるキョウノ。
平和じゃないから、今ここに来てるんだけど、とナギサはツッコみそうになるのを、ぐっと堪えた。
すると、彼女は視線をナギサの方へ向けた。
「ダークさんと……そちらのお嬢さんは、もしや?」
彼女に最初に名を呼ばれたダークは、手を挙げるだけという挨拶で終わらせたが、ナギサは丁寧に頭を下げた。
「月王家第二王女、ナギサ=ルシードです」
ナギサの挨拶を受け、彼女もゆっくりと頭を下げた。
「まあ、やっぱり!帰還を聞いてからお会いしたかったのです。私は、カゲツと申します。封印の神なので、これから会うこともあるかと思います。よろしくお願いします」
「え、ええ。こちらこそ」
丁寧に挨拶をされたことで、冥界の守護神でありながら、親近感のある彼女に、ナギサは思わず気圧されながら返事をした。
「別に、ナギサが弱いとは思ってない。ちゃんと練習してるんだな、ってのがわかる戦い方だと思う。基礎もしっかりしてるし、自分の戦い方もわかっている。だけど、実戦では技術はただの保険でしかない。命がかかってる以上、相手は本気でくる。どんな手を使ってでも勝とうと……いや、違うな。生きるために精一杯で、こっちの生死は考えてくれない。相手には、生きるために殺すという自己防衛しか頭にない。だから、こっちも本気でいかないと殺される。何が起こるかわからないんだよ」
「伯爵は……どれぐらい実戦を積んできたの?」
ぽつりと呟くナギサに視線を向けたキョウノは、「うーん」と考え始めた。
「えっとー、封印の神と契約したのが十年近く前だから、それぐらいの頃からかな。封印の神と契約した以上、冥王選出の資格も出てきて、でも俺はそんなのなるつもりなくて……ただ、代理人になる可能性は高いからって、祖父さんが森の中に放り込むっていうスパルタ教育を受けてたからな」
キョウノはそう言うが、思い出して一人で顔を青くした。
しかし、キョウノはすぐ立ち直ると、ふと歩みを止め、ナギサに向き合った。
「だからさ!ナギサに足りないのは、実戦の経験だと思うんだ。でもそれは、こうやって自ら危険に飛び込むしかない。最初は辛いかもしれないけど、俺たちもついてるから、頑張ろうな」
キョウノはそう言って、ぽんっとナギサの肩を叩く。
落ち込みつつも、頷くナギサに、キョウノは笑みを浮かべた。
「そして、そんなことやってる間に着いたんだよー!」
キョウノがテンション上げながら言うと、ナギサが目を丸くして驚いた。
気付いたら、森の中でも開けている場所に出ており、その中央では太陽の光をきらきらと反射させた美しく、こぢんまりとした池があった。
「いつの間に!?」
ナギサは驚きを隠せないまま、池の側まで行き、そっと池の底を覗き込んだ。
透明度が高く、深くまで見えるが、それ以上に深いようで底は見えない。自分の驚いた顔がわずかに映るのをぽかんと見つめていたナギサだったが、自分の後ろにキョウノが立ったのを池越しに見て、振り向いた。
そんなナギサの様子に満足したように、キョウノは口を開いた。
「ようこそ。冥界の守護神、“封印の神”の神域へ」
じゃーん!と両手を広げながら言うキョウノに、ナギサは「ここが、神域?」と返した。
「うん、そう。この池の中に神殿があるんだよ。さ、行こうか!」
「え!?」
予想外の言葉に、ナギサは声を荒げる。しかし、キョウノは満面の笑みを浮かべると、ナギサの肩をガシリと掴んだ。
一方、今までずっと黙っていたダークも、いつの間にかキョウノの横に立っており、何かを察したように大きな溜め息を吐いている。
「はいはーい!じゃあ二人共、しっかり俺に捕まっててね!」
キョウノが楽しそうにそう叫ぶと、そのまま池に飛び込んだ。
ナギサは悲鳴をあげるが、キョウノに肩を掴まれており身動きが取れないでいる。ダークもはぐれないようにキョウノの腕を掴んでいた。
三人は池の中に入るが、キョウノが結界を張ったことで、濡れることもなく、地上と同じように息もできるのだが、そのままゆっくりと沈んで行った。
ただ、水の中という浮遊感はあり、その不安定さに思わずナギサは、ぎゅっとキョウノを掴んだ。
そのまま深くまで潜って行くと、横穴があり、キョウノはそちらに進んで行く。
深さもあって、日の光が入らないため、暗い中を進む。どれだけ進んだかわからないところで、行く先に明かりが見え、キョウノはその明かりを目指して浮上した。
水から上がり、洞窟の中へと出ると、ナギサは勢いよくキョウノから離れた。
「ほんと、伯爵ってば強引ね!」
ナギサは叫びながら、怒ったように腕を組むが、キョウノはへらへらと笑ったまま言った。
「説明するより実演した方が早いでしょ?それに、ここに来れるの俺とリキだけだもん」
キョウノの言葉に、ナギサは盛大に溜め息を吐いた。正直、ナギサもだんだんキョウノの性格を理解してきたため、呆れて何も言えないだけなのだが。
すると、そんな彼らを待っていたように、壁に等間隔に並べられている燭台に明かりが灯った。その明かりによって、洞窟だと思っていた場所が神殿の回廊だったことに気付き、ナギサは息を呑んだ。
「封印の神も歓迎しているみたいだね。よし、行こうか」
キョウノはそう言いながら、奥へと進んで行く。ナギサとダークが後を追うと、キョウノが大きな扉の前で止まった。
「この向こうが、封印の神がいる場所だ。そして、罪人たちを封印している場所でもある」
そう言ってキョウノは扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。
あまり広くない部屋に出たため、ナギサは驚いたように辺りを見回した。
壁中に棚がとりつけられ、いろんなものが置かれている。アンティークはもちろん、何に使うのかもわからない物まで置いてあり、神殿と呼ぶには違和感のある部屋だった。
その一角に、一人の女性が立っていた。
黒髪を特徴的に結っている女性に、ナギサは目を奪われた。彼女はナギサの視線に微笑んで返す。
「ようこそいらっしゃいました」
女性の声音は穏やかだが、纏っている空気は圧があり、彼女が“封印の神”であるというのは一目瞭然なのだが、キョウノは「久しぶりー」と手を振っている。
そんな、傍から見れば無礼な態度にも動じず、彼女は返事をした。
「お久しぶりです。なかなか召喚してくださらないので、心配しておりました」
「わっ、神である貴女から直々に心配していただけるなんて、光栄だなぁ。ただ、貴方の手を借りなくてもいいのは、平和なことなんですよ」
そうケロッとした態度で答えるキョウノ。
平和じゃないから、今ここに来てるんだけど、とナギサはツッコみそうになるのを、ぐっと堪えた。
すると、彼女は視線をナギサの方へ向けた。
「ダークさんと……そちらのお嬢さんは、もしや?」
彼女に最初に名を呼ばれたダークは、手を挙げるだけという挨拶で終わらせたが、ナギサは丁寧に頭を下げた。
「月王家第二王女、ナギサ=ルシードです」
ナギサの挨拶を受け、彼女もゆっくりと頭を下げた。
「まあ、やっぱり!帰還を聞いてからお会いしたかったのです。私は、カゲツと申します。封印の神なので、これから会うこともあるかと思います。よろしくお願いします」
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