新生月姫

宇奈月希月

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出会いと雪解け

森の鳴き声・2

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「まさか、呼び出しされるなんて思わなかった」
 サーラが疲れ切った顔で、ナギサとセイズに言う。
 同行はしていたものの、別部隊として動いていたサーラだったが、突然の呼び出しに慌ててやって来た。
「セイズが心配しすぎなのよ」
「私一人で護衛しながら捜査とか無理」
 ナギサとセイズが同時に答えると、サーラは大きな溜め息を零した。
「ナギサ!無茶しちゃダメって言ったじゃん!」
 どっちが主従かわからなくなるような発言だが、サーラだから許される部分もある。
 セイズもごほんと咳払いをすると、サーラの言葉に続いた。
「まず、襲われたら、無理に戦わず、我々に任せること。あと、我々からはぐれないでくださいね」
 セイズのお小言にも、「はいはい。わかってるわよ」と軽く返事をするナギサに、サーラとセイズが再び大きな溜め息を吐いた。
 その間に、準備を終えたナギサが「行くわよ!」とずんずんと進み始める。
「ナギサ様。こんな広い森で、当てもなく進まないでください」
 疲れ切った表情でセイズが言うと、サーラがナギサの手を握った。
「ほら。わたしたちは西側から調べるんでしょ」
「そうよ。まずは、まだ調べられていない森の奥を目指しましょう」
 サーラに手を引かれ、ナギサがそう言ったが、ふと足を止め、驚いたように空を仰ぎ見た。
 その様子にサーラが「ナギサ?」と聞くと、ナギサはその態勢のままサーラに聞き返した。
「ねえ、サーラ。声、聞こえる?」
「え?ナギサの声?」
「違うわよ!何かの……獣、みたいな」
 ナギサがそう言うと、サーラが耳を澄ませた。
「鳥の囀りは聞こえるけど」
 訝しげに言うサーラだったが、ナギサは森の奥を見つめた。
 先程聞こえた声と同じ声が、ナギサの耳には何度も何度も響いていた。
 その声がどこか悲痛で、「助けて」と言われているようで、ナギサは思わず駆けだした。
「ナギサ!?」
 サーラの叫び声を背中に聞きながら、ナギサは声の方へ走り続ける。

 森の奥の方まで進めば、声が大きくなり、聞こえていなかったサーラやセイズの耳にも入るようになった。
 やがて、少し開けたところで、淡い水色の大きな鳥が蹲っていた。
「っ、なんで、こんなところに……」
 あまりの大きさに驚くナギサだったが、セイズが驚きの声を上げたことで、ナギサはセイズを見た。
「知り合い、かしら?」
「あ、い、いえ。あれは聖獣です。魔獣よりも知能が高く、神格が高いため、本来は神界にいるはずなのですが……」
 召喚術士であるセイズは、魔獣などにも詳しいのだが、聖獣は“神の使い”という扱いのため、知識としてしか持ち合わせていなかった。
 ナギサも、ヴィルジェに話だけは聞いていたので、「あれが……」と改めてみるが、ふと違和感に気付いた。
 よく見れば、怪我をしており、傷を庇いながら威嚇をしてきた。
「怪我、治すだけだから、警戒しないで」
 ナギサがそういって近づこうとするが、セイズがナギサの肩を掴んだ。
「お待ちください!威嚇時はかなり危険です。それに……聖獣は神の使い。無暗に我々が関わることは禁じられています」
「でも、それじゃああの子を放置しておけっていうの?」
 ナギサの言葉に、セイズは困った表情を浮かべるが、サーラがふと口を開いた。
「……ナギサなら可能じゃない?次期大神でもあるナギサは、“神”って扱いになるよね」
 サーラの言葉に、セイズはハッとすると、ナギサの肩から手を離した。
「……そう、ですね。聖獣が、召喚術士でも契約できないのは、聖獣自身が高い聖力を保有しており、彼らの方が神格が高いため、と言われています。ナギサ様なら、問題なく契約できると思います」
 セイズが真剣な表情で言うが、ナギサは眉を顰めた。
「でも、私……契約とかはやったことがないから」
「私が協力します。精霊語は使えますか?」
「精霊語……古代語のことね。多少なら使えるわ」
 ナギサの返事に、セイズは頷くと、「では、やりましょう」と呟き、ナギサの横に控えた。
「聖獣に、ナギサ様の身分を明かした上で、挨拶をなさってください」
 セイズの言葉に答えるように、ナギサは聖力を集中させると、身分がわかるようにドレス姿に変えた。
 そして、聖獣に少し近付くと、聖獣も察したように頭を下げた。それを見て、ナギサは深呼吸をすると、口を開いた。
「イーマ ナギサ=ルシード フォー テ エソツドン オンノ オラール アフィミルゼ ルプニーツス」
 ゆっくりと、だが威厳に満ちた声で言うナギサの姿に、セイズが感心したように見つめ、口を開いた。
 が、突然変わった空気にぴくりと肩を震わせると、勢いよく振り向いた。それはサーラも同じだったようで、懐にしまっている召礼術用のカードに手を伸ばした。
 それを合図にしたのか、ナギサの頭上に無数の氷の刃が現れ、降り注いだ。
 ナギサはすぐに自分はもちろん、隣にいるセイズや側にいる聖獣を囲むように結界を張る。
「ナギサ様!このまま戦闘に入りますが、今契約が途中の状態です。私とサーラで時間を稼ぐので、聖獣との契約を完了してください!」
 セイズが慌てて一気に言うが、ナギサは困惑した表情でセイズを見た。
「え、待って。私、契約の仕方なんて」
「“名前”。名前をつけてください。聖獣に名前をつけることで、契約が結ばれます」
 セイズの言葉に、ナギサは慌てて聖獣へと駆け寄った。
 一方で、セイズはサーラの元へと駆ける。
「相手の姿が見えなくて、やりにくい!」
 サーラが思わず漏らすと、セイズは「こっちも人数がいないから、悔しいけど防戦で凌ぐぞ」と返しながら、普段からしている白手袋を外した。両手の中指にしてある指輪には、小さな石がはめられており、その石同士をコツコツと二回鳴らした。同時に、石が光ると、セイズの前に手の平サイズほどの尾の長い鳥が現れていた。
「こちらの戦闘を、他の班へと伝えてくれ!」
 その言葉を聞いた鳥は、すごい速さで飛び立っていく。
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