新生月姫

宇奈月希月

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出会いと雪解け

森の鳴き声・3

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 ナギサは聖獣の側まで来ると、先程までの警戒はなく、聖獣はじっとナギサを見つめた。
 見つめ返したナギサはそっと微笑むと、その頭を撫でた。
「こんなことになってしまって、ごめんなさい」
 そう言ってから、怪我をしている足に簡単な治癒術をかける。
「とりあえず、応急処置だけね。帰ったら、手当てしてあげるから、少しだけ辛抱してちょうだい」
 ナギサのその言葉を理解したように、聖獣は頭をナギサへと擦りつけた。
 その懐いた様子に、ナギサも安心したように、再び頭を撫でる。
「あなた、綺麗な青色ね。まるで、青空のようだわ。そうだ!名前、“天空”っていうのはどうかしら?」
 その問いに賛同するように、天空は一声鳴いた。
「気に入ったみたいで、良かった。じゃあ、ちょっとここで待ってて」
 ナギサはそう言うと、天空の周りに結界を張り、再びドレスから改造した軍服へと変えた。その勢いで、セイズとサーラの元へと駆け寄る。
「お待たせ!参戦するわ!」
 ナギサの言葉に、「ナギサも向こうで待っててよ」とサーラはぼやくが、セイズはナギサに小言を言っている余裕はないようで、状況を叫んだ。
「ナギサ様!今、使い魔で援護を呼びましたので、少しの間耐えてくだされば大丈夫です!」
 セイズの言葉に、ナギサは頷くと、腰から下げている剣を抜いた。
「わかったわ。セイズ、召喚術の時間は私とサーラで稼ぐわ!」
「しかしっ!ナギサ様に先陣を切らせる訳には!!」
「そんなことを言っている場合じゃないでしょう!あなたの召喚術は発動に時間がかかるでしょう?私は剣術だし、サーラの召礼術も発動は早いもの」
 ナギサの正論に、セイズは一瞬渋い顔をしたが、「わかりました」と返事をする。
 その言葉に、ナギサは満足そうな表情をすると、すぐにサーラへと振り向いた。
「サーラ!そういうことだから、上手くやるわよ!」
「わかった。任せて!」
 いつでも投げられるように、カードを構えながら返事をするサーラを見て、ナギサは森の中をじっと見つめながら叫んだ。
「どこの誰か知らないけど、あなたに勝ち目はないわ。いい加減、姿を見せたらどうかしら?」
 ナギサの挑発に反応するように、再び氷の刃が三人を襲う。サーラがすぐに反応し、結界を張る。
 一方、ナギサは、木々の間に光るものが動くのを見つけた。同時に、地を蹴り、一気にそこに向かって剣を振り下ろした。が、弾かれると同時に、ぐっと押されたことで、一瞬バランスを崩したナギサ。
 そこに、攻撃を仕掛けようとした相手だったが、サーラが相手目がけてカードを投げたため、慌てて避けようとして身を引いた。
 その時に、相手が木々の間から開けた場所へと出てきたため、三人の前に姿を現したのだが、その姿を見て、ナギサは息を呑んだ。
 無造作に一つに結んだ髪は、日の光を反射するような綺麗な金髪で、風に揺れる度にキラキラ光る。楽しそうに微笑んだ瞳は、月のように明るい黄色で、美しさを強調していた。
 しかし、そんな美しさとは裏腹に、だらしなく服を着て、美しい顔を歪ませながらニヤニヤと笑う男に、ナギサは気味悪さを覚えた。
「っ!!金髪に……黄色の目?なんで……っ、“金の悪魔”がここに?」
 セイズが驚愕の表情と共に、上擦った声を上げた。
 その様子に驚いたナギサが、セイズに問おうとしたが、男が口角を上げながら口を開いた。
「なぁんだ。月界で、オレのこと知ってる奴いるんだ?いないと思って油断してたなぁ。キールに怒られるかなぁ?」
 男は大して困ったような素振りは見せずに、ただただヘラヘラと笑う。
 その得体の知れなさに、ナギサは眉を顰めながら問うた。
「今回の事件は、あなたが犯人なの?」
「んー?犯人っていうか……ちょっとだけ、実験に使ってただけだぜ。死んじゃった奴は返しただろ?実験に成功した奴は連れて帰るんだもん」
 悪びれもせず、淡々と話す男に、ナギサたちはぞわりと鳥肌が立ちそうになった。
 そんな三人の顔色を見て、男は楽しそうに笑った。
 ナギサは嫌悪感を隠そうともせず、睨みながら男に問うた。
「実験、って何?」
「オレたちの仲間にする、っていう洗脳実験だよ。ただ、あまりにも強すぎて、何人か死んじゃったんだよな。だから返したし、それはそっちが見つけてくれたじゃん。成功した……っても、それもみんな辛うじて、って感じだけど。それは連れて帰って、処置なり実験重ねるなりするんだって。オレはただ、誘拐する担当って感じかな」
 平然と惨いことを語る男に、ナギサは思わず、口を押さえた。
「人を何だと、思っているの?」
 そんなナギサの問いは、男の耳に届かなかった。
 セイズは、ナギサの様子を見て、召喚術の準備を中断し、ナギサを庇うようにナギサの前に立った。
「“金の悪魔”……ガルラ=ミーキニア、だな?何故、お前がここにいる!?」
 セイズの怒鳴り声を聞いて、ナギサはハッとした。先日、その名を聞いたばかりだったからだ。
「ガルラ……?封印の神から逃げ出した……?」
 ナギサがぽつりと呟くが、その言葉にセイズは驚いたようにナギサを見つめた。ガルラの脱獄は、一部にしか伝えられていないためであった。
 その様子を見ながら、ガルラは楽しそうに笑みを零した。
「へえ、やっぱオヒメサマは知ってたんだ」
 その声音と、向こうも自分を知っているという事実に、ナギサは背に冷たい汗を感じた。
 同じく、サーラとセイズもナギサを背に庇うようにしており、その場に緊張感が張り詰めた。
 そんな睨み合いをしていたのだが、ガルラは突然欠伸をした。
「んー、まあいいや。人数も最低限揃ってるし、バレちゃったらこれ以上できないもんな。じゃあ、またね。今度はオレと遊んでね、オヒメサマ」
 そうヘラヘラ笑いながら言うガルラは、軽く後ろに跳ぶと同時に、姿を消した。
「ちょっ!!はあ、逃げられたわね」
 ナギサは大きな溜め息を吐きながら言うが、セイズも息を吐いた。
「仕方ありません。でも、ナギサ様に何もなくて良かった」
「私の心配はいいのに。……結果がこんなに最悪なんだもの」
 ナギサが暗い顔をしながら言えば、セイズも「そういう訳には……」と言いながらも、生存者を助けられなかったという最悪の結果に、視線を落とした。
 そんな重い空気の中、突然ナギサは背中をつんつんと突かれ、驚いて振り向いた。
 そこには、先程契約したばかりの天空が立っており、ナギサを元気づけるようにすりすりと頭を擦っている。
「わっ!くすぐったいわ!ふふっ、ありがとう、大丈夫よ。とりあえず、あなたも一度戻って手当てしなきゃね」
 ナギサがそう言うと、天空は嬉しそうに鳴き、ぽんっと音を立てて手の平サイズの小さな鳥へと変身した。
「え?」と驚きながらも、手の平で天空を包むナギサに、セイズは苦笑いを零した。
「聖獣は知能はもちろん、聖力も強いので、これぐらい朝飯前ですよ。随分とナギサ様に懐いているし、問題なさそうですね」
 その言葉を聞いて、ナギサは天空を抱えるようにして、一度軍のオスター支部へと戻った。
 今回の件を、セイズから全員に伝えてもらった後に、ナギサとセイズとサーラは急いで王都まで戻った。
 ナギサが急ぎで女王であるキメミに報告をしている間に、セイズもキレアに事情を話した後、王城へと赴いた。
「ナギサ様、お待たせ致しました!」
 慌ててやって来たセイズは、城の庭園で天空を治療しているナギサに声をかける。
「いえ。私もお母様に報告を終えたばかりだから」
 そう言うと、真面目な顔でセイズを見た。
「あなたには、あちらでの処理を急いでやってもらった上に、本部での処理も急ぎでやらせてしまって、申し訳ないと思っています」
 ナギサの言葉に、セイズは首を振った。
「いえ。今回の件は冥王に任せましょうって提案したのは私ですし、そのために冥王のところへ赴く許可をいただいたのも私ですので」
 セイズの言葉に、ナギサはふと息を吐いた。
 ガルラが脱獄していた件をナギサから聞いたセイズは、今回の事件があまりにも凄惨であったこと、そして結界が他より強力なはずの聖界で事件が起こったことを踏まえ、ナギサにこの件は冥王に一任することを提案した。
 ナギサもそれには賛成だったのだが、軍のトップとしてセイズ自ら行くと立候補したのだ。
 話しを聞いていたサーラも、今回の件でナギサがあちら側に認識されていることを重く見て、セイズが行くことを推したため、ナギサは渋々とセイズに冥界へ行く許可を出したのである。
「忙しいあなたに、こんな仕事をお願いして申し訳ないわ。これ、今回の報告書と、私からの一筆です。これがあれば急ぎで冥王に取り合ってもらえるわ。お願いします」
 ナギサの言葉に、セイズはゆっくりと頭を下げた。
「かしこまりました。必ず、冥王に伝えて参ります」
 ナギサから書類を受け取ると、セイズはナギサたちに用意された転移術によって、冥界へと赴いた。
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