新生月姫

宇奈月希月

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出会いと雪解け

消された過去・2

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「これが、私が語れる真実だ」
 ルシフの話を聞いていたナギサは俯いた。
「それが……真実、なの?」
 ナギサは呆然としたように、ぽつりと呟いた。
 ルシフの話が事実なら、父親が死ぬきっかけを作ったのは自分だということになる。自分を庇って死んだのだから。
 そう考えているうちに、徐々に記憶が蘇ってくるようで、ナギサはぎゅっと歯を食いしばった。と同時に、ルシフはナギサの眉間に指を当てた。
 驚いて顔を上げると、彼は苦笑いを浮かべてナギサを見つめていた。
「そうやって自分のせいにするだろうから、今まで黙っていたんだ。ナギサが私を殺したいほど恨んでいる。それでナギサの生きる希望になるなら、それで構わないって。それだけを考えて、憎まれ役になったのに……」
 悲しそうに言うルシフに、ナギサはゆっくりと首を振った。
「いえ。あなたにいろいろ背負わせてしまって……ごめんなさい。悪いのはあなたじゃないわ。私があの時、割って入ろうとしなければ、父は死ぬことはなかったのよ。それに……私のせいで、あなたを寝込ませたのだし。全部……私が……いなければ」
 ナギサの声がどんどん小さくなるが、ルシフが思いっきりナギサの肩を掴んだ。
「ナギサ。落ち着け。わざとじゃなかったとは言え、私がシュルネードを殺した事実は消えない。ナギサだって、その後に記憶を消されて親元を離れている。その歳の子供に、親元を離れさせるきっかけを作ってしまったのは私だ」
 ルシフは、ナギサとは反対に力強く言うが、ナギサは「でも……」と否定をした。
 それに反応し、ルシフはナギサの肩を更にぎゅっと掴む。
「……では、いいことを教えてやろう。ナギサ」
 ルシフは挑発するように、にたりと笑った。
「そもそもあの日、なぜダークが月界にいたか、原因はわかるか?」
 突然問われ、ナギサは首を傾げた。
「一人で乗り込んだ……にしては変よね。あなたの話だと、城から出ないようにきつく言いつけていたのよね?でも、お父様は『迷子になってた』って言ったんでしょう?つまり、一人でいたってことよね。そう考えると、誘拐ではないだろうし」
 ナギサが考えながら言うと、ルシフもぴっと指を差した。
「ああ、そこだ。ダークに話を聞いたら、『大臣に連れて行かれた』って答えたんだよ」
「え?連れて行かれた?誘拐されてたってこと?」
「私もそれが気になって、調べたんだ。そしたら、面白いことに魔界の人間の仕業だったんだ」
 ルシフは嘲笑を浮かべながら、話を続けた。
「当時、一般人から大臣にまで上り詰めた人間がいてな。彼がダークを月界に連れて行き、そのまま置いてけぼりにしたそうだよ」
 ルシフの言葉に、ナギサがぎょっとした表情を浮かべた。
「え?なんで?」
「彼は、ダークが月界にいると知ったら、私が迎えに行くと考えた。私が直々に月界に赴いて直接対決になれば、私が勝つと信じていた。この戦争を終わらせるのに、最短で決着をつけられ、尚且つ魔王自ら決着つけることで私自身の評価も上がる。それが狙いだった」
「ちょ、ちょっと待って!ダークは次期魔王なのよね?その場合、後継者であるダークはどうなの?お父様が保護していなかったら、死んでいたかもしれないのよ!?賭けるにも程があるわ!」
 ナギサの驚きの声にも、ルシフは冷たい笑みを浮かべたままだ。
「そう。そこがもう一つの狙いだ」
「もう一つ?どういうこと?」
「当時、ダークとレイガの間で王位継承権争いが行われていたんだ」
 ルシフの言葉に、ナギサは目を丸くした。
「え?じゃあ、ダークはまだ後継者じゃなかったの?」
「正式にはな。ほぼほぼダークで決まっていたが。兄妹内で一番魔力の保有量が高いレイガと、兄妹内で一番“闇の神”と相性の良いダーク。ガイトは王位に興味がないと公表していたから、その二人の間で……いや、違うな。周りの人間たちの間で、争いがあったんだ」
 それを聞いて、ナギサは眉を顰めた。
「つまり、ダークを誘拐した大臣って……レイガを王位に据えたい、と思っていた、ということ?」
「ああ、そういうことだ。ダークが“死ぬかもしれない”じゃない。ダークが“死んでもいい”と思っていたんだ。むしろ、死んでくれた方が、大臣的には全部が丸く収まるとでも考えたんだろう。ダークが死ねば、私が月界に報復するだろうし、それで魔界は勝って、尚且つレイガを次期魔王に据えられるのだからな」
 ルシフが淡々と話しているのを聞き、ナギサは背筋を凍らせた。
 ナギサ自身も、王位継承権第一位ではあるものの、それに対して姉であるフウと揉めたことはないし、周りが継承権争いをすることもなかった。
 第一子以外が継承権第一位になるという点において、ダークと同じであるはずなのに、彼は幼い頃からそんな環境下にいたのかと思うと、いたたまれなかった。
「それ、で……その大臣は、どう、なったの?」
 思わず、恐る恐る聞いたナギサに、ルシフは一瞬ナギサを心配するように優しい表情を向けた。が、すぐにハッと鼻で笑って答えた。
「もちろん、死刑になったさ。第三王子とは言え、王家直系の王子を誘拐して、危険な目に合わせたんだ。処刑するには十分な理由だろう?」
 ルシフの冷たい笑みに、ナギサは思わず肩を震わせた。
 ナギサが言葉も出ないのを見て、ルシフは話を続ける。
「とは言え、私としては処刑なんていう、あっさりした死に方だったんだから、生温いとは思っている。……あいつがあんなことをしなければ、シュルネードだって死ぬことはなかったんだ」
 ルシフの言葉を聞いて、ナギサは目を大きくして、驚いたようにルシフを見た。
「……さっきから聞いてると、随分とお父様の肩を持つのね」
 その言葉に、今度はルシフが驚いたようにナギサを見た。
「……私は、シュルネードを立派な男だと思っているよ。確かに、魔界と聖界はずっと争ってきたし、私も大神であるルゥは信用していない。ただ、月王だったシュルネードは物事をちゃんと見ていて、比較的……いや、聖界者の中で一番、公平に接してくれたよ。ふふっ、大神は知らないと思うが、意外と交流があったんだ。実際に、ナギサは幼い頃に度々ダークと会っていただろう?本来、敵大将である王族同士なのに。あれは、シュルネードが『いずれ王位に就くナギサが、物事を広く視れるように』って、いろいろ理由をつけて会っていたんだ。本当に……尊敬に値する男だと、私はずっと思ってる」
 ルシフが懐かしさと悔恨で目を瞑るが、ナギサは何となく納得したような表情を浮かべた。
「……だから、あの日、お父様はダークを保護したのね」
 そう言うと、ナギサも目を閉じる。
 あの日の記憶が徐々に蘇ると共に、父との思い出も駆け巡る。
 ナギサは目を開けると、しっかりした眼差しで、ルシフを見た。
「魔王。私は、あなたを許すわ」
 ナギサがはっきりと言えば、ルシフは驚いたようにナギサを見つめた。その瞳には、晴れやかなナギサの顔が映った。
「だって、あなたは悪くないじゃない。むしろ、被害者だわ。その男が、全ての元凶だもの。ダークも魔王も……そして、お父様も、全員その男がいなければ、平穏だった可能性が高いもの。そう考えたら、あなたは悪くないじゃない」
 それを聞いたルシフはきょとんとしていたが、すぐに口角を上げた。
 元凶である一人の男に全ての罪を被せることで、過去のことを流そうと考えたナギサに、ルシフは笑みを浮かべていた。実に都合のいい解決法だが、この潔さも薄情さも、王族らしい考えに、ルシフは「シュルネードの育て方は間違ってなかったのかもな」と心の底から思っていた。
「それで、魔王は代わりにその男を裁いてくれたんでしょう?」
 そう、嫌味な笑みを浮かべながら言うナギサに、ルシフも同じような笑みを浮かべた。
「……ああ。シュルネードの敵は取った。それで、許されるとは思っていないが」
「いいわ。私が……次期月王である、この私が許すわ」
 そう言って満面の笑みを浮かべるナギサを見て、強い子だと感心するルシフだったが、その場にそっと膝をついた。
「では、ナギサ。許してくれて早々ではあるが、私からのお願いを聞いてもらえるか?」
「なに?かしこまって」
 ルシフの態度に、ナギサは訝しげな表情を浮かべる。
「確かに彼が全て悪い。ただ、手を出してしまった私にも非がないわけではない。だから、罪を償いたい。……良ければ、君の父親代わりをさせてもらえるか?」
 ルシフの言葉に、ナギサは驚きのあまり、絶句した。
「シュルネードの代わりに、ナギサの成長を見届けることで、私はシュルネードに許しを請いたい。そして、幼くして父親を失ったナギサのために、いろいろ教えられればと思っている。別に、養子になってほしいわけじゃない。せめて、気持ち的な問題でいいから、私を父親だと思って頼ってほしい」
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