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第三話 伊達政宗とハンバーグ
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「おっにくぅ~おっにくぅ~」
スーパーで今日の晩ご飯の材料を買って、わたしは家に向かっていた。
「おい、そこの貴様が倫か?」
「……んにゃっ!?」
「ふん。無駄にデカイ胸」
「——はいっ!?」
「馬の尻尾のように纏めた髪。能天気そうな顔……今度こそ間違いないようだな」
目の前に黒い毛並みの大きな馬。
馬上からわたしを見下ろす右眼に眼帯を着けた男の人。
その周囲には、遠巻き気味に通行人や商店街の人たちが集まっている。
「えっと……あなた、誰です?」
「わしは奥州の伊達政宗っ。信長殿の命により貴様を迎えに来てやってわっ!」
「だ……伊達政宗さんっ!?」
突然な出会いにわたしは周囲にいる人のを忘れて、おもわず大きな声で叫んでしまった。
少年のように幼さが残るイケメンさん。
この人があの伊達政宗さんなのか、と。
周囲の人たちから、『伊達政宗?』『え、役者さんでしょ?』と言う声が漏れてくる。
「——ちっ、騒がしくなって来たな。おい女、さっさと馬に乗れ」
「ええと……どうやって馬に乗ればいいんです?」
自慢じゃないけど、わたしは馬に乗った事がない。
どうやって乗ったらいいのよ。
「——ふん。馬の乗り方も知らんのか……ずいぶんと世話の焼ける女だ」
ブスッと無愛想な表情をした政宗さんは、スッと馬から降りると——
「え、えええ!?」
わたしの身体を抱きかかえ、馬の背に乗せてくれた。
「——落ちるなよ、女っ」
「は、はいっ!」
わたしの背中と政宗さんの体が密着させているけど——
これって落馬しないように気を遣ってるの?
うむむ……政宗さんって、口はアレだけれど意外と紳士な人かもしれない。
「ではゆくぞ」
「ええと……はい」
ヒヒンと嘶き馬が進むにつれ、人混みの真ん中が割れていく。
「馬の上って、案外視界が高くなるし気持ちがいいんだ」
わたしは身長がそれほど高くないから、馬から見て広がる視界には感動しかない。
もちろん初めて馬に乗ったっていう体験にも感動している。
ふと我に返ると、周囲からはたくさんの奇異の視線が向けられていた。
「……う」
わたしにはめちゃくちゃ恥ずかしくなり、家に着くまでの間ずっと俯いていた——
これは後から聞いたんだけど。
政宗さん、わたしを探して数十人の女性に声をかけまくってたそうだ。
……よく警察を呼ばれなかったな、この人。
◇
「お。戻ったな、倫」
「戻ったな、じゃないです。なんで馬で迎えに来させるんです?」
「どうしてって……馬なら早く帰って来れるだろうが。当然の事だろ?」
信長さんは不思議そうな表情をして、わたしを見ている。
「いや、そう言うことじゃなくてですね。そもそもどうして政宗さんを馬で迎えに寄越すんです?」
ただでさえ変わった男の人と同棲してるとか。
複数の男の人を家に連れ込んでるとか噂されているのに……
今回は馬で帰宅したのを、バッチリと見られてしまったし。
これ以上近所になんて言われるのか、分かったもんじゃない。
「とにかくわたしが納得のいく説明を求めます!」
「ふむ。そうか……では理由を話してやるからな、よぉく聞けよ。いいか、そもそもそれはだな——」
と、信長さんの話を掻い摘んで説明するとだよ。
この家で信長さんと出会った政宗さんの二人は、お互いに名乗りあった。
その瞬間——
政宗さんは感激し、『信長殿はオレの憧れであり尊敬する人物なのです』と言ったみたい。
で、お互いが立てた武勲の話で盛り上がっていたそのとき。
何気に信長さんがわたしの帰りが遅いな、と呟いたところ——
『信長殿のお役に立てるなら、この政宗がその倫と云う女を迎えに行ってきましょう!』
と言い放ったそうだ。
「はぁ……だからと言ってですね。政宗さんにお願いしなくてもいいじゃないですか?」
「奴がどうしてもやらせてくれと云うもんだからな」
信長さんは、にっと悪戯っぽく微笑む。
「——おい、女」
「え? あ、はい。なんです、政宗さん?」
「信長殿に聞いたが……貴様は料理はなかなかの腕前だそうだな?」
政宗さんの鋭い眼がギラリと光った。
「ふ、政宗。さっきも言ったが、この倫の料理はまさに天下一品よ!」
「——ほう、信長殿にそこまで言わせるとはな……」
う、なんかすごく敵視されてるよいな。
政宗さんの表情がますます険しくなっていく。
「良いか、女! わしは信長殿の生き様に憧れ、尊敬すらしておる!」
「そ、そうなんですか……?」
「そうだ! だからわしは貴様が気に入らん!」
「ええと……?」
政宗さん。めちゃくちゃ悔しそうな表情。
あーあれだ。
憧れの信長さんが、わたしの料理を称賛するのそんなに気に入らないのか。
……それってわたしに対しての嫉妬ってこと?
この人、信長さんのことすっごく好きって事なんじゃ……?
「いいか、小娘! 信長殿がそれほど褒め称える貴様の料理をわしにも食わせてみるがいいっ!」
「あの……どーしてそうなるんですか?」
「それは……わしが喰いたいからだ!」
政宗さんは口から垂れたヨダレを袖で拭き取った。
ただの食いしん坊じゃないの、それ?
嫉妬よりも食欲優先しちゃうんだ。
美味しいものが大好きな政宗さんに、わたしは少し親近感を覚えてなんだか笑えてきた。
「ええ、分かりました。それじゃあ、いっちょ作ってきますから……期待しててくださいね」
「おお、そいつは楽しみだな。今日の料理も期待してるぞ、倫」
「はい、任せてください」
信長さんと政宗さんに向かって、ガッツポーズをしてみせた。
◇
早速エプロンを付けて、料理の準備に取り掛かる。
「……さてと。早速ハンバーグを作りますか」
まずは玉ねぎをおろし金ですり下ろした後、冷ましておいたボールに入れる。
そこに薄力粉を少々入れて、かき混ぜておく。
「んで次は合い挽き肉っと」
牛7と豚3の挽肉。
これを玉ねぎが入ってるボールに入れる。
塩も少々加えてよぉ~く混ぜて捏ねていく。
脂身と赤身が混じって白くなるまで、ひたすら捏ねて混ぜる作業を続ける。
「これが、なかなか大変なのよねぇ」
大変な作業だけれども。
これを乗り越えれば、肉汁が溢れる美味しいハンバーグが出来るのだ。
「——さあ、ラストスパート!」
ひたすら捏ねて、やあっと挽肉が白っぽくなった。
「ふぅ~……じゃ、次は焼く工程だね」
今日はノーマルハンバーグとチーズ入りハンバーグの2種類を作るつもりなのだ。
フライパンを二つ用意して、両方とも中火で温める。
フライパンが十分温まったら、厚み約1センチで作ったハンバーグのタネを3つ乗せていく。
もう片方のフライパンには、チーズを入れたタネを3つ入れる。
まずは片面を1分ほど焼き、それを裏返してまた1分焼く。
次は弱火にしてから片面を約4分ずつ焼いたら、竹串を刺してちゃんと焼けているかを確認する。
刺して、中から透明な肉汁が出てくれば——
「うん、ハンバーグ2種、完成!」
お皿に2種類のハンバーグを乗せて、付け合わせの野菜を並べる。
ハンバーグにかけるソースは、カツ丼にも使った自家製ソースを使用。
このソースは、自慢じゃないけどいろんな料理と合うのよね。
もちろん今回のハンバーグにだって、バッチリ合うのだ。
お肉の焼けたいい匂いがキッチンから流れて部屋中に充満していく。
さっきから信長さんと政宗さんの二人は、ソワソワと落ち着かない様子だ。
しきりにキッチンの方を見て、料理の出来上がりを気にしているみたい。
『もう我慢できん。それを早く持って来い』って顔をしているし。
お皿に二種類にハンバーグを乗せて、さっと作っておいたつけ合わせの野菜を盛る。
それを運んで、食卓テーブルにハンバーグと味噌汁、ご飯を三人分並べて置いていく。
「ん~~この美味そうに焼けた肉の匂いがたまらん! 倫、これはなんと言う料理だ?」
「これはハンバーグですよ。これもまたまたすっごく美味しいんですから」
信長さんは、もう待ちきれないって表情をしている。
「えへへ我慢できないですよね~。それじゃ、食べましょ」
「さあ、喰うぞっ!」
言うと、信長さんはハンバーグに思いっきり齧りつく。
それにしてもだ。
信長さんは、なんともまあ美味しいそうに食べる食べる。
こんなに美味しそうに食べてくれるんだから、わたしも作った甲斐があると言うものだ。
っと、信長さんの食べっぷりに感心してる場合じゃない。
「わたしもいただきま~すっ!」
ガブリと、わたしもハンバーグを一口齧る。
「んふ……んふふふふ」
ハンバーグが超美味しいから自然と微笑みが出てしまう。
ふんわり焼けたお肉。
口の中に入れると、お肉から流れ出る大量の肉汁。
絡み合う肉汁とソースとの相性は抜群だよ。
これを黙って真顔で食べることなんて、わたしには出来る訳がない。
そして——
「ご飯の上にハンバーグの欠片を乗せて一緒に食べるとですねぇ……くぅぅ~!」
肉汁とソースの味を炊きたてのご飯が、しっかりと受け止めてくれる。
わたしの口の中に味の三重層が広がっていく。
「そ、そんなに美味いのか。ふむ、俺もやってみるか……」
同じように信長さんもご飯の上にハンバーグを乗せて、パクリと口の中に放り込んだ。
「ふ……ふははは! なんだこの美味さは! 最高だな、倫!」
「えへへへ。でしょでしょ? こんなに美味しいんですから、政宗さんも美味しくて喜んでいるはず——」
料理の感想を尋ねようと、わたしは政宗さんの顔を見た。
政宗さんは真剣な表情で、ハンバーグを一口、また一口と黙って食べていた。
でも三口目を口にした瞬間——
「うおおおおおお! なんだ、これは!?」
ハンバーグが乗ったお皿を持ったまま。
突然、政宗さんは叫びながら立ち上がった。
その顔は、まるで雷にでも撃たれたような表情だ。
「噛めば噛むほど肉から溢れ出す汁は、まるで瀑布のようではないか!」
政宗さんは取り憑かれたように、一心不乱にハンバーグをバクバクと口の中に放り込んでいく。
一つ目のハンバーグをペロリと食べ終えた政宗さんは、二つ目のハンバーグに手をつける。
「んんんんん! こっちは中から濃厚な味がとろけ出して来たぞ……なんだ、これはっ!? 美味いではないかっ!」
ハンバーグの美味しさに、すっごく感激しているのか。
政宗さんは、ずっと叫びならがチーズハンバーグを食べている。
ハンバーグを食べ終え興奮した政宗さんに、信長さんは、
「どうだ、政宗。倫が作った飯は美味いだろ?」
まるで『してやったり』と言わんばかりの表情でほくそ笑んだ。
「わしは己自身に料理の才があると常に自負しておったが……所詮、井の中の蛙だったようだな。おい、貴様っ!」
「は、はい!?」
悔しそうな表情を浮かべて、政宗さんはわたしを睨んでいる。
「いいか……わしは貴様に負けたとは思わんっ!」
「ええと……はい?」
「必ず貴様にも信長殿にも、わしが作った料理を美味いと言わせてやるから……覚悟しておけっ! いいな、倫っ!」
そう言って、政宗さんの体はフッと消えた。
「ええと……なんだったの?」
困惑するわたしに、信長さんがぽつりと言った。
「つまりだな。奴がお前の実力を認めたと言う事だ」
「それって——」
「ふっ、お前の料理が美味かったと言う事だ。全く素直じゃない奴だな」
「ああ! って、美味しいなら美味しいって素直に言ってよ!」
「はははは。確かにそうだな」
言って信長さんは、大きく笑っていた。
◇
そんな事があってから数日後。
なんとなく伊達政宗さんの事が気になって、ネットで調べてみたのだけれど。
「……うわぁ。めちゃくちゃ負けず嫌いなんだ、政宗さん」
そこに書かれていた内容って言うのが、『伊達政宗は料理の才能を遺憾なく発揮した』とあった。
わたしに美味しい物を食べさせる為に腕を磨いたのかな。
「えへへへ。今度来たときに、美味しい料理を振る舞って貰おうかなぁ」
ずんだ餅に仙台味噌、それに伊達巻とかを作ったとも書かれていた。
「えへへ……次に政宗さんと会うときが楽しみだなぁ」
なんてことを楽しみにしてから数日後のことだった。
◇
「——あなたは……まさか織田信長公っ!?」
「あん……? 確かにそうだが……お前は誰だ?」
久しぶりに我が家を訪れた真田幸村さんと、居間でお酒を飲んでいた信長さんとの出会い。
また一波乱なきゃいいんだけれど……
スーパーで今日の晩ご飯の材料を買って、わたしは家に向かっていた。
「おい、そこの貴様が倫か?」
「……んにゃっ!?」
「ふん。無駄にデカイ胸」
「——はいっ!?」
「馬の尻尾のように纏めた髪。能天気そうな顔……今度こそ間違いないようだな」
目の前に黒い毛並みの大きな馬。
馬上からわたしを見下ろす右眼に眼帯を着けた男の人。
その周囲には、遠巻き気味に通行人や商店街の人たちが集まっている。
「えっと……あなた、誰です?」
「わしは奥州の伊達政宗っ。信長殿の命により貴様を迎えに来てやってわっ!」
「だ……伊達政宗さんっ!?」
突然な出会いにわたしは周囲にいる人のを忘れて、おもわず大きな声で叫んでしまった。
少年のように幼さが残るイケメンさん。
この人があの伊達政宗さんなのか、と。
周囲の人たちから、『伊達政宗?』『え、役者さんでしょ?』と言う声が漏れてくる。
「——ちっ、騒がしくなって来たな。おい女、さっさと馬に乗れ」
「ええと……どうやって馬に乗ればいいんです?」
自慢じゃないけど、わたしは馬に乗った事がない。
どうやって乗ったらいいのよ。
「——ふん。馬の乗り方も知らんのか……ずいぶんと世話の焼ける女だ」
ブスッと無愛想な表情をした政宗さんは、スッと馬から降りると——
「え、えええ!?」
わたしの身体を抱きかかえ、馬の背に乗せてくれた。
「——落ちるなよ、女っ」
「は、はいっ!」
わたしの背中と政宗さんの体が密着させているけど——
これって落馬しないように気を遣ってるの?
うむむ……政宗さんって、口はアレだけれど意外と紳士な人かもしれない。
「ではゆくぞ」
「ええと……はい」
ヒヒンと嘶き馬が進むにつれ、人混みの真ん中が割れていく。
「馬の上って、案外視界が高くなるし気持ちがいいんだ」
わたしは身長がそれほど高くないから、馬から見て広がる視界には感動しかない。
もちろん初めて馬に乗ったっていう体験にも感動している。
ふと我に返ると、周囲からはたくさんの奇異の視線が向けられていた。
「……う」
わたしにはめちゃくちゃ恥ずかしくなり、家に着くまでの間ずっと俯いていた——
これは後から聞いたんだけど。
政宗さん、わたしを探して数十人の女性に声をかけまくってたそうだ。
……よく警察を呼ばれなかったな、この人。
◇
「お。戻ったな、倫」
「戻ったな、じゃないです。なんで馬で迎えに来させるんです?」
「どうしてって……馬なら早く帰って来れるだろうが。当然の事だろ?」
信長さんは不思議そうな表情をして、わたしを見ている。
「いや、そう言うことじゃなくてですね。そもそもどうして政宗さんを馬で迎えに寄越すんです?」
ただでさえ変わった男の人と同棲してるとか。
複数の男の人を家に連れ込んでるとか噂されているのに……
今回は馬で帰宅したのを、バッチリと見られてしまったし。
これ以上近所になんて言われるのか、分かったもんじゃない。
「とにかくわたしが納得のいく説明を求めます!」
「ふむ。そうか……では理由を話してやるからな、よぉく聞けよ。いいか、そもそもそれはだな——」
と、信長さんの話を掻い摘んで説明するとだよ。
この家で信長さんと出会った政宗さんの二人は、お互いに名乗りあった。
その瞬間——
政宗さんは感激し、『信長殿はオレの憧れであり尊敬する人物なのです』と言ったみたい。
で、お互いが立てた武勲の話で盛り上がっていたそのとき。
何気に信長さんがわたしの帰りが遅いな、と呟いたところ——
『信長殿のお役に立てるなら、この政宗がその倫と云う女を迎えに行ってきましょう!』
と言い放ったそうだ。
「はぁ……だからと言ってですね。政宗さんにお願いしなくてもいいじゃないですか?」
「奴がどうしてもやらせてくれと云うもんだからな」
信長さんは、にっと悪戯っぽく微笑む。
「——おい、女」
「え? あ、はい。なんです、政宗さん?」
「信長殿に聞いたが……貴様は料理はなかなかの腕前だそうだな?」
政宗さんの鋭い眼がギラリと光った。
「ふ、政宗。さっきも言ったが、この倫の料理はまさに天下一品よ!」
「——ほう、信長殿にそこまで言わせるとはな……」
う、なんかすごく敵視されてるよいな。
政宗さんの表情がますます険しくなっていく。
「良いか、女! わしは信長殿の生き様に憧れ、尊敬すらしておる!」
「そ、そうなんですか……?」
「そうだ! だからわしは貴様が気に入らん!」
「ええと……?」
政宗さん。めちゃくちゃ悔しそうな表情。
あーあれだ。
憧れの信長さんが、わたしの料理を称賛するのそんなに気に入らないのか。
……それってわたしに対しての嫉妬ってこと?
この人、信長さんのことすっごく好きって事なんじゃ……?
「いいか、小娘! 信長殿がそれほど褒め称える貴様の料理をわしにも食わせてみるがいいっ!」
「あの……どーしてそうなるんですか?」
「それは……わしが喰いたいからだ!」
政宗さんは口から垂れたヨダレを袖で拭き取った。
ただの食いしん坊じゃないの、それ?
嫉妬よりも食欲優先しちゃうんだ。
美味しいものが大好きな政宗さんに、わたしは少し親近感を覚えてなんだか笑えてきた。
「ええ、分かりました。それじゃあ、いっちょ作ってきますから……期待しててくださいね」
「おお、そいつは楽しみだな。今日の料理も期待してるぞ、倫」
「はい、任せてください」
信長さんと政宗さんに向かって、ガッツポーズをしてみせた。
◇
早速エプロンを付けて、料理の準備に取り掛かる。
「……さてと。早速ハンバーグを作りますか」
まずは玉ねぎをおろし金ですり下ろした後、冷ましておいたボールに入れる。
そこに薄力粉を少々入れて、かき混ぜておく。
「んで次は合い挽き肉っと」
牛7と豚3の挽肉。
これを玉ねぎが入ってるボールに入れる。
塩も少々加えてよぉ~く混ぜて捏ねていく。
脂身と赤身が混じって白くなるまで、ひたすら捏ねて混ぜる作業を続ける。
「これが、なかなか大変なのよねぇ」
大変な作業だけれども。
これを乗り越えれば、肉汁が溢れる美味しいハンバーグが出来るのだ。
「——さあ、ラストスパート!」
ひたすら捏ねて、やあっと挽肉が白っぽくなった。
「ふぅ~……じゃ、次は焼く工程だね」
今日はノーマルハンバーグとチーズ入りハンバーグの2種類を作るつもりなのだ。
フライパンを二つ用意して、両方とも中火で温める。
フライパンが十分温まったら、厚み約1センチで作ったハンバーグのタネを3つ乗せていく。
もう片方のフライパンには、チーズを入れたタネを3つ入れる。
まずは片面を1分ほど焼き、それを裏返してまた1分焼く。
次は弱火にしてから片面を約4分ずつ焼いたら、竹串を刺してちゃんと焼けているかを確認する。
刺して、中から透明な肉汁が出てくれば——
「うん、ハンバーグ2種、完成!」
お皿に2種類のハンバーグを乗せて、付け合わせの野菜を並べる。
ハンバーグにかけるソースは、カツ丼にも使った自家製ソースを使用。
このソースは、自慢じゃないけどいろんな料理と合うのよね。
もちろん今回のハンバーグにだって、バッチリ合うのだ。
お肉の焼けたいい匂いがキッチンから流れて部屋中に充満していく。
さっきから信長さんと政宗さんの二人は、ソワソワと落ち着かない様子だ。
しきりにキッチンの方を見て、料理の出来上がりを気にしているみたい。
『もう我慢できん。それを早く持って来い』って顔をしているし。
お皿に二種類にハンバーグを乗せて、さっと作っておいたつけ合わせの野菜を盛る。
それを運んで、食卓テーブルにハンバーグと味噌汁、ご飯を三人分並べて置いていく。
「ん~~この美味そうに焼けた肉の匂いがたまらん! 倫、これはなんと言う料理だ?」
「これはハンバーグですよ。これもまたまたすっごく美味しいんですから」
信長さんは、もう待ちきれないって表情をしている。
「えへへ我慢できないですよね~。それじゃ、食べましょ」
「さあ、喰うぞっ!」
言うと、信長さんはハンバーグに思いっきり齧りつく。
それにしてもだ。
信長さんは、なんともまあ美味しいそうに食べる食べる。
こんなに美味しそうに食べてくれるんだから、わたしも作った甲斐があると言うものだ。
っと、信長さんの食べっぷりに感心してる場合じゃない。
「わたしもいただきま~すっ!」
ガブリと、わたしもハンバーグを一口齧る。
「んふ……んふふふふ」
ハンバーグが超美味しいから自然と微笑みが出てしまう。
ふんわり焼けたお肉。
口の中に入れると、お肉から流れ出る大量の肉汁。
絡み合う肉汁とソースとの相性は抜群だよ。
これを黙って真顔で食べることなんて、わたしには出来る訳がない。
そして——
「ご飯の上にハンバーグの欠片を乗せて一緒に食べるとですねぇ……くぅぅ~!」
肉汁とソースの味を炊きたてのご飯が、しっかりと受け止めてくれる。
わたしの口の中に味の三重層が広がっていく。
「そ、そんなに美味いのか。ふむ、俺もやってみるか……」
同じように信長さんもご飯の上にハンバーグを乗せて、パクリと口の中に放り込んだ。
「ふ……ふははは! なんだこの美味さは! 最高だな、倫!」
「えへへへ。でしょでしょ? こんなに美味しいんですから、政宗さんも美味しくて喜んでいるはず——」
料理の感想を尋ねようと、わたしは政宗さんの顔を見た。
政宗さんは真剣な表情で、ハンバーグを一口、また一口と黙って食べていた。
でも三口目を口にした瞬間——
「うおおおおおお! なんだ、これは!?」
ハンバーグが乗ったお皿を持ったまま。
突然、政宗さんは叫びながら立ち上がった。
その顔は、まるで雷にでも撃たれたような表情だ。
「噛めば噛むほど肉から溢れ出す汁は、まるで瀑布のようではないか!」
政宗さんは取り憑かれたように、一心不乱にハンバーグをバクバクと口の中に放り込んでいく。
一つ目のハンバーグをペロリと食べ終えた政宗さんは、二つ目のハンバーグに手をつける。
「んんんんん! こっちは中から濃厚な味がとろけ出して来たぞ……なんだ、これはっ!? 美味いではないかっ!」
ハンバーグの美味しさに、すっごく感激しているのか。
政宗さんは、ずっと叫びならがチーズハンバーグを食べている。
ハンバーグを食べ終え興奮した政宗さんに、信長さんは、
「どうだ、政宗。倫が作った飯は美味いだろ?」
まるで『してやったり』と言わんばかりの表情でほくそ笑んだ。
「わしは己自身に料理の才があると常に自負しておったが……所詮、井の中の蛙だったようだな。おい、貴様っ!」
「は、はい!?」
悔しそうな表情を浮かべて、政宗さんはわたしを睨んでいる。
「いいか……わしは貴様に負けたとは思わんっ!」
「ええと……はい?」
「必ず貴様にも信長殿にも、わしが作った料理を美味いと言わせてやるから……覚悟しておけっ! いいな、倫っ!」
そう言って、政宗さんの体はフッと消えた。
「ええと……なんだったの?」
困惑するわたしに、信長さんがぽつりと言った。
「つまりだな。奴がお前の実力を認めたと言う事だ」
「それって——」
「ふっ、お前の料理が美味かったと言う事だ。全く素直じゃない奴だな」
「ああ! って、美味しいなら美味しいって素直に言ってよ!」
「はははは。確かにそうだな」
言って信長さんは、大きく笑っていた。
◇
そんな事があってから数日後。
なんとなく伊達政宗さんの事が気になって、ネットで調べてみたのだけれど。
「……うわぁ。めちゃくちゃ負けず嫌いなんだ、政宗さん」
そこに書かれていた内容って言うのが、『伊達政宗は料理の才能を遺憾なく発揮した』とあった。
わたしに美味しい物を食べさせる為に腕を磨いたのかな。
「えへへへ。今度来たときに、美味しい料理を振る舞って貰おうかなぁ」
ずんだ餅に仙台味噌、それに伊達巻とかを作ったとも書かれていた。
「えへへ……次に政宗さんと会うときが楽しみだなぁ」
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「——あなたは……まさか織田信長公っ!?」
「あん……? 確かにそうだが……お前は誰だ?」
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私が執筆した小説は、思想と言論の自由に基づいています。また、特定の人物、団体、機関を否定し、批判し、攻撃するものではありません。
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