戦国の鍛冶師

和蔵(わくら)

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第60話 注文と遭遇戦

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尾行されていたのだが、俺は構わずに防具組合の門をくぐったのだった。
受付に依頼を頼みたいと伝えてから、俺は何時も通りの応接室で、お茶を
飲みながら担当の者が来るまで、お茶菓子を食べながら待っていたのだ。

そうすると!

「お待たせして、申し訳ありません。私が防具組合で、依頼を請け負っている
 職人長です。この度は、防具組合にお越し下さり有難う御座います。付きま
 しては、早速ですが依頼をお伺いしたいのですが、宜しいでしょうか?」

職人長に、今回の依頼の内容とグローブ銃・グローブ剣に使う籠手の製作を
頼んだのだった。職人長は、依頼の内容を訊くと直ぐに席を外して、奥に消え
行ったのだった。また暫く待たされていると、職人長が戻って来たのだった。

「皮鎧を200に盾を200、それに特注の籠手を300を作れば宜しいのですよね?
 特注の籠手は、1から作らないとなりませんので、お時間が掛かってしまい
 ますが、それでも宜しいでしょうか?日数としては1ヵ月もあれば、数は揃う
 でしょうから、それでも宜しいのであれば、此方は直ぐにでも仕事に取り掛か
 りますよ」

皮鎧と盾は、出来上がった物があると言うので、俺は直ぐに造船所のガレアスに
運び込んで欲しいと頼んだのだった。そしてグローブの方も、なるべく早くして
欲しいと頼んで、出来上がった物を鍛冶屋の黒猫屋に運んで欲しいと、職人長に
頼んだのだった。

「支払いの方は、どうなされますか?現金での支払いでしょうか?それとも、手形
 等の物になるのでしょうか?」

オレークさんから、手形で支払う様にと耳に蛸が出来るくらい、何回も言われてい
たので、職人長には手形で支払うと伝えたのだった。人材は後払いでも良いが、物
を買う時は、現金か手形などでなければ、買わせて貰えないとの事だったのだ。

総額で、70.000ベルクの買い物をしたのだが、手形を交互に渡しておいて、期日に
なったら、支払いをすると言う仕組みなのだそうだ。そして、今回の支払い日はと
言うと、1ヶ月後のグローブが納品された時にとなっている。その時には、領主様
に話をしているそうなので、今までの支払いは、全て領主様が払ってくれるそうなのだ。

「この度は、防具組合をご利用くださり、有難うございました。また、何かありま
 したら、防具組合を御贔屓にしてくださいませ」

職人長は、商談が決まってからと言うもの、顔の筋肉が緩みきっている様で、笑顔
のままの状態が続いている。そんなに大口の取引でも無かろうにな、まっ~向こう
が喜んで居るのだから、こっちも喜べば好いかな?

防具組合の門をくぐって出ると、また、あの視線が俺を刺し始めたのだった。それ
にしても、アンジェなのかダーンなのか、解らないが警戒しないでも良いのだがな
そろそろ、姿を表せば良いものを何時まで、姿を隠している積もりなのだろうか?

そうだ!良い事を思いついた。来る途中に人気の居ない場所があったのだが、そこ
にアンジェかダーンかは、解らないが、誘き出して捕まえて遣ろうではないか!
どちらかは解らぬが、驚く姿が目に浮かぶわ!

芳乃の父親から、伊賀流の忍術を少しだけだが、教わっていたのが、この様な事で
役に立つとは思わなかったな!何が役に立つか解らぬが、覚えて置けば何時かは、
役に立つのだ!それが今だっただけだ。

俺は早足になり、尾行してるアンジェかダーンを撒く素振りを見せたのだった。
尾行者は、急な事に慌てふためき、好成の後を必死になって、追いかけてきていた
のだ。そして、細路地に入るなり、好成は壁を蹴って、壁の上に上ると、更に上に
登って行ったのだった。

そして、呼吸を整えると、尾行してる者が細路地に、遣ってきたのだった。そして
尾行者が、好成の下を通過した頃合に、好成は上から下えと降りたのだった。

「アンジェかダーンかは解らなかったが、中々やるではないか!」

細路地が暗かったせいもあるが、好成が気が付いた時には、相手は剣を抜き放って
いたのだった。

「何者ぞ!名を名乗れ!我は新陰一閃流の来好成ぞ!それを知っての狼藉か!?」

剣を見るなり、好成は急いで後ろに、飛び退いていたのだった。そして、剣の柄に
手を構えると、居合いの構えで相手の出方を伺っていたのだ。

~尾行者視点~

やばい、行き成り後ろから声を掛けられたから、勢いで剣を抜き放ったのだが、
この方と敵対するのは、非常にやばい!私が命じられた事は、この方に張り付き
行動を逐一、上司に報告するだけだったのだが、選りに選って剣を向けた何って
上司に知れたら、私は謹慎だけでは済まないかも知れぬ!

此処は素直に謝れば済むかな?いやいや、相手は怒っている様だぞ!怒ってるのに
間違えて剣を抜き放ったとか、相手に言っても信じて貰えないだろうな?そしてだ
新陰一閃流って、なんだ?

もしかして剣の流派なのか?まさか剣に流派などは無い!聞いた事も無いぞ!
剣は己だけで鍛える物なのだから、誰かから教わるなぞ、ありえぬ事柄であるな!

それより、今の状況を如何にかしなければ、そうしないと私が上司に、お叱りを受
けてしまうではないか!安月給が更に、激安月給になってしまうわ!良し、此処は
逃げるか!それが一番だと、私の勘も言っている。

~好成視点~

振り向き様からの、一息で剣を抜き放つ動作、それを見るだけでも、こやつが手練れ
の者だと言う事が、伺えて来るのだ。足運びも上手い、もしかすると俺より強い
かも知れぬな!そんな相手と出会うのは、久しぶりの事なので、少々心の蔵が激しく
動いておるぞ!

こやつの目的が、俺にはさっぱりと解らぬな!俺を襲って何とする?俺を襲うだけの
価値など無かろうにの?解せぬわ.....

好成と尾行者は、お互いに動けない状態でいたのだった。先に動いた方が負ける!
そんな勝負だったのだ。好成は居合い斬りを狙っており、もとから先に動く気は無く、
相手の出方を待っているだけだったが、居合いでも先に動くことは出来るのだ
だが、好成は先には動かずに、相手の出方を伺っているだけだった。

そして、時が動いた瞬間に、勝負は決したのだった。
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