戦国の鍛冶師

和蔵(わくら)

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第75話 口紅と改良

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お見合いが終わり、仲人の俺が最後まで部屋に残って、皆が帰るのを見送って
居たのだった。部屋に残って居るのは俺と芳乃だけで、静を秋は部屋には居な
かったのだが、芳乃は此れ幸いとばかりに、俺の顔を両手で強引に掴かみ固定
すると、前触れも無く俺の唇い口付けをしていたのだ!

「好成様が悪いのですよ!私に待て何って言うからです。私は少しであっても
今だけは待てませんよ!先程、あの様な姿を見せ付けられた私には、我慢何っ
て出来ませんよ!だから、私の気持ちを受け止めてください」

そう言うと芳乃は、俺に何回も何回も口付けをして来たのである。

芳乃は口紅を付けていたのだが、それが、俺の唇にべったりと付いていた。この
状態を静や秋が見たら、更に大事になりそうな予感がした。だから俺は急いで、
自分の唇に付いている口紅を落とそうとしたのだ。だが、芳乃はそれを許してく
れず、俺に口紅を付けたままで居て欲しいと懇願されてしまったのだが、
俺は芳乃に大事になるから、口紅を落とさせて欲しいと頼んでいた時だった。

《好成さま、好成サマ、》

2人が時と場所を選ばずに、部屋に入ってきたのだった。

「お疲れ様でしょうから、お2人に甘い物をお持ちし....ま....し....た」

「静ちゃん、あれって......好成サマの唇に付いているのって.....」

俺は頭を抱えながら、芳乃に2人に説明する様にと頼んだのだった。そうすると、
芳乃は2人に、事の起こりから説明して行ったのだった。

「芳乃さまだけズルイです!」

「ずるいよね!」

此の後の展開は、皆様のご想像にお任せします。

3人から開放されたのは、それから半刻も過ぎた時であった。唇が少しだが痛む
のだが、これは3人に唇を吸われてしまったのが原因である。

「それにしても、アントンさんが一目惚れした相手が、今回のお見合い相手で
それも従兄弟の相手だったとは、どんだけ世間は狭いんですかね?」

静よ、此処の町は大きい町であるが、堺ほど大きくは無いのだぞ!それならば、
出会いが会っても、おかしくは無いのだ。もしかしたら、3人に思いを寄せて
る人物だって居るかも知れないぞ?

《私は好成様・好成さま・好成サマ・しか、愛していませんからね!》

3人の息はぴったりであった。

此れ程までに、俺は3人から愛されていると思うと、悪るい気はしない、寧ろ
3人の可愛らしい子に、此処まで慕われている事を自慢したい程だな。
誰に自慢したいかと言われると、俺は困るのだが、それ程に自慢出来る事なの
である!

俺は3人と別れて鍛冶場に入ると、そこには、オレークさんと息子のダニエルが
何やら話し合いながら、何やらして居るではないか!俺は気になったので、2人
が作業をしている後ろから、前の2人の手元を覗き込んだのだった。

「だから、ここの場所がいかんのだ!」

「そう言うけどな親父!此処で曲げとけば、持つ時に凄く持ちやすくなるんだよ」

オレーク式銃のグリップ部分の後ろに、何やら木製の物を取り付けながら、2人は
こうでもない、あーでもないと、試行錯誤しながら作業をしていたのだ。

俺がそれは何かと聞くと、オレークさんが俺の質問に答えてくれたのだった。

「おっ!好成じゃね~か!良い所に来てくれたな!ダニエルがな、グリップの後ろ
に何やら取り付けだしてな、それは何かと訊くとだな、ストックって言う物らしくて、
そのストックを肩に当ててから射撃をすると、命中精度が上がるんじゃね~か
とか言い出した訳よ!それで、儂がなダニエルに形は、こんな風な物が良いと言うとだな
ダニエルは儂が言った形は駄目だと言うんじゃよ!好成は、どう思うかの?意見を訊かせて
欲しいんじゃが良いか?」

えっ!?何だって?ストックって物を取り付けると、銃の命中精度が上がるのか?
何でもっと早く、俺に教えてくれなかったんだ。

「好成さん、苦しい苦しい!」

俺は我を忘れてしまい、ダニエルの襟首を持ち上げていたのだった。

「好成よ!ダニエルを放してやらんか!苦しがっているだろうが」

オレークさんの言葉で我に帰ると、ダニエルに直ぐに謝りを入れてから、直ぐに
ストックと言う物を見せてもらったのだ。

鋳物の部分に、はめ込める作りになっていて、ストックと本体を繋げている部分は、
木の棒で動かない様に、棒を差し込んで固定されていた。そして、ストックを付けた
オレーク式を持って構えると、ストックが肩に当る事で、此れまで似ない程の持ちや
すさになっているのだった。そして、照準を付ける為に照準器を覗き込むと、
今までの照準より揺れが少なくなっているおかげで、照準器が見やすくなっているのだ。

俺は直ぐに試射をする為に、裏庭に出るとオレーク式を目標に構えたのだった。
そして、射撃を開始したのだが、今までのオレーク式は、短い距離でも的に当て
る事が難しかったのだが、ストックと言う物がオレーク式銃に付いた事に因り、
今までの命中精度を凌駕していたのだった。

やばい、これは非常にやばい!

来式の一番の売りは、命中精度だったのだが、オレーク式に此処まで差を詰められると、
正直言ってしまえば、来式の売りが無くなってしまうのだ。

でも考えを変えると、来式にもストックなる物を取り付けたら、来式の命中精度は
今以上の物になると言う事ではないのか?発想の転換とは此の事だな!

オレーク式が付けているストックは、凄く小型であり、小回りを重視した作りだが
来式は、小回りなど度外視した作りにしてしまって、大きなストックを採用する事
で、射程を延ばす事になるのではないだろうか?

まだまだ、オレーク式には射程でも命中精度でも、負ける訳には行かないのである!
だから、出来る事は何でもするつもりだし、これからも、来式を改良を続ける事に
なるだろう!


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