1 / 27
プロローグ
あるサラリーマンの最期
しおりを挟む俺、田中翔太は半ブラック企業に勤めるサラリーマンだ。
早朝に出社して深夜に帰宅する。
一応週五日勤務だが、休日出勤は当たり前。
日曜日が休みなんて月に一回あるかないかだ。
これでどこが『半』ブラックなのかと言えば、金はきっちり払われるからだ。
残業代は勿論だが、休日手当も早朝手当もしっかり出る。
金は払うからしっかり働け、がうちの会社のモットーだった。
三六協定? 何それおいしいの?
とは言え労組に訴える人間はいない。
それで業務が改善されても誰も得しないからだ。
人数が増えるにしろ仕事が減るにしろ、会社が倒産するのは間違いないだろう。
それで残るのはなんだ?
会社の業務内容に不満を持ち、訴えを起こして会社を潰した三十前の無資格の無職だ。
果たして再就職できるだろうか?
そんなリスクを負うくらいなら、おとなしく働いて小銭を稼いでいた方が良い。
ああ、こうして社畜はできあがっていくんだな。
今日も終電間際に帰宅した俺は、そのままベッドにダイブする。
暫くそのまま倒れた後、夕食を摂り、風呂に入るのがいつものルーティーンだ。
ゆっくりと息を吐き、そしてゆっくりと吸い込む。
それを繰り返すと、疲れた体に活力が戻って来るように感じられた。
だが、今日はいつもと違っていた。
体が、動かない。
あれ? これってまずくないか?
起き上がろうと思っても体に力が入らない。
そして頭のどこか
本能を司る部分が俺に教えてくれる。
このまま寝ていると、死ぬ、と。
やばいやばいやばい。
過労死? 過労死しちゃうのか?
やばいやばいやばい。
ん? やばいか?
いや、確かに死んじゃうのはやばい。
それは間違いなくやばいだろう。
けど、死ぬ事に何か問題があるか?
俺は半ブラック企業に勤めるサラリーマン。
社長の次が課長の小さな会社。
潰れるとは思わないが、劇的に大きくなるとも思えない。
四十を過ぎても平社員のままの同僚先輩は周囲に大勢いる。
勤続年数により多少色がつくとは言え、結局は平社員の給料だ。
長く働けるが上に行ける会社ではない。
長く働く事に関しても、こんな勤務形態ではいつ体か心を壊してもおかしくない。
あれ? 別にここで死んでも問題なくね?
恋人も家族もいない。
親はいるが、もう何年も会ってない。
別に仲が悪い訳ではない。
成人して一人暮らしをしていればそんなもんだ。
盆暮れ正月も普通に仕事で忙しいからな。
俺が死んだら悲しむだろう。
でもそんなもんだ。
悲しんで、終わり。
後追いで自殺するとか、何も手がつかなくなるほど落ち込むとか、そんな事はないだろう。
一年に一回、俺の命日に少し悲しくなるだけ。
多分、そんなもんだろう。
果たしてここで死ぬ事に問題あるだろうか?
このままなら眠ったように死ねるだろう。
痛くも苦しくもなく逝ける。
これはかなり良い死に方なんじゃないか?
うん。
じゃあいいんじゃないかな?
俺の人生ここまで。
何かを成した訳でも、何かに成れた訳でもない。
童貞ですらないからな。思い残すような事もないんだよな。
じゃあ、今回の人生はこんな感じで。
もしも生まれ変わりというものがあるのなら。
来世はできれば、ニートがいいなぁ。
せめて一日の勤務時間が十時間を超えないような仕事で生きていけたらいいな。
あれ? 明るい?
なんだよ、死ななかったのかよ。
来世はできれば、とか言っちゃって結局生きてるとか。
かなり恥ずかしいんですけど。
まぁ、生きてるんならそれはそれでいいや。
俺の人生まだ続きまーす。
ん、でもなんか体がうまく動かないな。
あのまま寝ちゃったから風邪でも引いたか?
まぁ、あんな事になったんだ。体が休めって言ってるのかもな。
流石に病欠の連絡をした人間に対して、這ってでも出てこいなんて言う程ひどい会社じゃない。
お大事に、の前に少々嫌味を言われるかもしれないがその程度だ。
今日は会社を休んで病院へ行こう。
それとも今日は家でゆっくりして、明日病院へ行こうかな?
有給の消化はくどく言われてるからな。
入社から四年、一度もきちんと有給を消化できた事なんてないけど、まぁ丁度良い機会だ。
振って湧いた連休、堪能させてもらおうじゃないか。
とりあえずもう一回眠ろう。
ふふ、二度寝なんて何年ぶりだろうな。
あ、ちゃんと布団で寝ないとまずいな。
スーツも脱がないと。
ん、でも体がうまく動かないからなぁ。
まぁ、このままでもいっか。
それじゃ、お休みなさーい。
なんかうるさいなぁ……。
隣で騒いでんのか?
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる