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プロローグ
ある子供の誕生から幼少期まで
しおりを挟むドーモ、ミナ=サン。田中翔太です。
どうやらやっぱり俺、死んでたらしい。
なんでわかったかって言うと、俺赤ん坊になってた。
いわゆる生まれ変わりってやつだな。
とは言え赤ん坊の頃から流暢に言葉を喋ったり、色々考察しつつ活動していた訳じゃない。
色んな意味で体ができていないせいか、目もあんまりよく見えないし、耳もよく聞こえない。
喋ろうと思っても上手く声が出ず、大きな声を出そうと思うとどうしても叫び声のようになってしまう。
オムツでも御飯でもないのに泣き叫ぶ俺を、可哀想な人を見る目で見た乳母の表情が忘れられない。
そう、乳母。
俺ってばなんと貴族の三男だった。
神はいた!!
俺はニートになる資格を得て生まれて来たのだ!
長男は家を継ぐために色々面倒が多いし、次男はその予備だ。
しかし俺は三男!!!
適度に自由で適度に家の恩恵を受けられる立場。
素晴らしい!!!!
ただ、あまりボンクラ過ぎると放逐されちゃう可能性があるし、平凡なだけではよその家に婿に出されちゃう可能性がある。
俺を実家に囲い込みたいと思わせるだけの優秀さを見せないといけない。
そういう点でも三男という立場は丁度良い。
何せ俺は長男ほど厳格に育てられないし、次男のように厳しく監視されない。
与えられた課題さえこなしていれば、好き勝手に過ごせる立場にあるんだ。
という訳で幼少期の俺は、言いつけを守る良い子であり、大人の言う事はしっかりと聞く賢い子を演じる事にした。
また自由時間は基本的に書庫で読書三昧。
本当は屋敷の外に出て、世界の事を色々と知りたいのだけれど、流石に幼児では一人での外出を許されなかった。
まぁ、これは仕方ない。
俺の中身の事なんて誰も知る訳がないし、それを伝える訳にはいかない。
信じて貰えないだけならいいけれど、気が触れたとか思われたら最悪だ。
しかも本を読むと、そういう人間は『悪魔憑き』と言って隔離されてしまうそうだ。
そんな感じの物語が幾つもあった。
うん、まずいね。
これはまずい。
という訳で何かの知識を披露するためにも、俺は読書に勤しむ事にした。
どこで知ったかと聞かれたら、本で読んだと答えるためだ。
二十一世紀の日本の感覚で言えば、大人は全員読み書き計算ができて当たり前だった。
しかし、どうも違うらしい。
うちの屋敷で働いている人達も、必要最低限の教養は身に着けているみたいだけど、その程度は決して高くない。
日本風に言えば、ひらがなとカタカナは読めるけど、漢字は無理、みたいな感じだ。
まぁ、日本でも、江戸時代や明治時代、簡単に言えば義務教育が施行されるまではそんな感じだったらしいから、文明レベルが低いとそんなもんなんだろう。
習っていないならわからなくて当たり前だし、親が習っていないなら子供に教えられるわけがない。
そして平民にとって、子供とは貴重な労働力だ。
わざわざ金を払ってまで学校に行かせる余裕がないってことだな。
二十一世紀の地球でも、発展途上国に義務教育を根付かせる場合、教育の大切さを説くより、給食を完備した方が効率が良いってんだから、まぁ推して知るべし。
結局何が言いたいかと言うと、本を読んでるだけで褒められるんだよ。
一人で絵本を読んでかしこいねー、かしこいねーって感じじゃない。
なん……だと……?
って感じで驚愕と共に俺を褒め讃えてくれるんだ。
その上でサラリーマン時代に培った社交術を使い、使用人達にも気さくに接するようにした。
ニートになるからってひきこもり過ぎて、コミュ障になっても困るからな。
こういうのは幼少からの訓練が大事だ。
ただ、これは逆効果だった。
まぁ、貴族には貴族らしい振る舞いがあるって事だな。
使用人にも気さくに接する俺は、頭は良いが、貴族の常識を知らない変人、だと思われるようになっていた。
それでも日々の課題はちゃんとこなすし、礼儀作法もしっかり覚えていたから、大人になれば自然と貴族らしくなるだろう、という事で排斥されずに済んだ。
そういう意味では、頭の良さが独り歩きして異常に高まってしまっていた評判が下がって、丁度良かったのかもしれない。
俺が書庫に籠って本を読んでるって噂が屋敷内に流れてた時、上のにいちゃんや下のにいちゃんからの視線、かなり怖かったもんな。
後継者争いなんてする気ないよ。
俺はニートになりたいんだ。
くわばらくわばら。
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