8 / 27
第一章:剣姫の婿取り
決闘に向けての準備
しおりを挟む「俺たちゃ最強ソルディーク!!」
「「「俺たちゃ最強ソルディーク!!」」」
「どんな手強い相手でも!!」
「「「どんな手強い相手でも!!」」」
「勇敢に戦い負けないぜ!!」
「「「勇敢に戦い負けないぜ!!」」」
兵士達との顔合わせを終えた翌日、早速俺は彼らとの訓練を開始した。
恐らく世界一有名なランニング中に歌う唄を替え歌で歌いながら、一昨日イリスに教えられた道を走る。
俺が先頭を走り、兵士達がその後に続く。更に最後尾から、操る馬車が続く。
馬車は俺の私物で実家から持ち込んだものだ。同じく、実家から持って来た色々な道具や資材を乗せている。
毎日のランニングを続けていたお陰で、体力だけなら俺はソルディーク家の兵士達より上らしかった。
とは言え、碌に舗装されてない道を5キロのランニングは少々どころかかなりキツイ。
まぁそれは兵士達も同じだ。
鎧こそ装備していないけれど、普段やり慣れていない訓練に加えて、道中妙ちきりんな歌まで歌わされちゃな。
だがそこは王国最強を誇るソルディーク伯爵軍。
いかにも運動能力の低そうな俺が歌とランニングを続けているのに、自分達がリタイアする訳にはいかない、とペースと声を落とさずついてくる。
ランニングを始める前に、
「きつかったらいつでも馬車に乗っていいぞ」
と煽っておいたのもプラスに働いているみたいだ。
「よし、小休止」
演習場に到着し、整列したのを確認してから、俺は命じる。
深い息を吐いて、めいめいに休憩する兵士達。
「アリーシャ、ご苦労」
「勿体無いお言葉です」
みんなが休んでいる間に次の訓練の準備をする。
馬車から降ろした木箱には、人数分のスコップが入っていた。
アリーシャは水の入った革袋を兵士達に手渡している。
女性兵士がいるとは言え、どうしたって彼女達は武骨だ。
それに戦闘訓練などを行い、行軍訓練を共にし、野営を一緒にしていれば、女性という事を忘れるだろう。
そこへ、いかにも女性らしい服装を纏った美少女が、微かに花の香を漂わせて現れれば、彼らの心情は推して知るべしだ。
確かに、綺麗さで言えばイリスの方が上だろうけれど、やっぱり女性を感じさせるかどうかは男性にとって重要な要素だ。
その間にも俺は、スコップを使って地面に線を描いていく。
横十メートル、奥行き五メートルほどの長方形を描き終えたところで、アリーシャが近付いて来て、革袋を差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
受け取る際に両手を一瞬包まれたようだ。
「他の兵士にもそれを?」
「まさか」
言って微笑むアリーシャは妖艶で魅力的だった。
例え嘘だったとしても、その嘘が心地良い。
「よし、水を飲んだらこの装備を受け取りこちらへ集合だ!」
俺が命じると、渋々ながらも立ち上がる兵士達。
しかし、アリーシャからスコップを受け取る時には表情が崩れていた。
ミリナを始め、数人の女性兵士がそれを見て眉根を寄せる。
「よし、ここに穴を掘れ。大きさは線の通り。深さはこのくらいだ」
そう言って俺は自分の胸の高さを示す。
「この大きさで、その深さ……!?」
それを聞いたミリナの顔が蒼褪める。
「安心しろ、そのためのこの装備だ。私が考案し、エルダード伯爵家で開発、量産された土木作業用の道具だ。スコップという」
スコップの先を地面に突き刺し、足を乗せて更に深く食い込ませながら、土を掬って見せる。
「このように、簡単に穴を掘る事ができる」
「「「おお」」」
疲労で多少素直になっているのか、反応が良い。
「では、開始!」
そして穴掘りが始まった。
スコップは確かに穴を掘るのに適した道具だ。
けれど、この場所は硬く乾いた土の土地であり、穴を掘るのには向かない。
更に言えば、演習場として使われていたせいで、大勢の兵士によって踏み固められてしまっている。
最初のうちは簡単に掘れるからついつい勢い良く掘ってしまいがちだけど、穴が深くなれば腕にかかる負担は大きくなる。
ましてや、穴を掘るという作業は全身運動だ。
疲労の蓄積はランニングの非じゃない。
「待て、一部だけを掘り続けるな! 高さが合わないと余計な労力を使うぞ!」
「階段のように掘って行こう!」
「それぞれの担当区域を決めて、交代しながら掘った方がよくないか?」
暫く無言で掘り続けていた彼らだったが、そこは流石に精鋭部隊。
それぞれに声を掛け合いながら、効率的な掘り方を模索し始めるようになった。
「よし、一旦そこまで! 飯にするぞ!」
俺がそう声をかけると兵達の間から歓声が上がった。
彼らが穴を掘っている間、アリーシャは竈を作り、事前に作ってあったスープを温めていた。
今日の昼食はスープと白パン。
アリーシャから給仕を受ける兵達は嬉しそうだ。
スコップを受け取る時は表情を引き締めていた女性兵士達も、今回ばかりはとりつくろわなくなっている。
疲れてるんだろうね。
「食事を終えた者は暫く休んでいて良い。それから穴掘りを再開するぞ」
気の無い返事が返って来る。
俺も適当なところに腰を下ろして昼食を摂り始めた。
アリーシャがその隣に座り、同じように食べ始める。
そんな様子を兵達がちらちらを盗み見ていた。
彼女が俺の『側付き』である事は知られているから、その関係性もわかっているだろう。
それでも、主人とメイドが同じ席で食事をするというのは、非常に珍しい事なんだ。
アリーシャが兵士の恰好をしていたら別だけど、ロングスカートのエプロンドレスだからな。
俺が食事を終えると兵士達がにわかに緊張し始めた。
その反応が少し面白かったけれど、気にせずごろりと横になる。
暫くは兵士達のいる方向から緊張感が漂って来ていたけれど、いつからか呼吸と話し声に、いびきが混ざるようになっていた。
昼食後の昼寝は午後の活力になるからな。
まぁ、そりゃつまりその分働かせるって事なんだけど。
大体二十分くらい眠ると、アリーシャが起こしてくれた。
「すまん」
「いえ」
体を起こして立ち上がる。兵士達を見ると、数人を残して横になって眠っていた。
その数人も、座って何やら話しているだけで、緊張感は皆無だった。
「起立! 全員起立!!」
俺の号令を受けて、眠っていた兵士達がはねるように起き上がり、慌ててその場で立ち上がる。
「よし、作業再開!」
そして再び彼らに穴掘りを命じる。
その命令を受けた兵士達の動きはばらばらだった。
小走りで穴に向かい、すぐに作業に戻る者もいれば、だらだらと歩いて行く者もいる。
こういう時、個性が出るね。
「よし、そこまで!」
それから二時間ほど穴を掘らせて、終了を宣言する。
見ると、穴の深さは平均して俺の腰くらいまでしかなかった。
うん、まぁ初日はこんなものかな。
「よし、埋めろ!」
「え……?」
「使った場所は片付けていかないとな。埋めろ。土を被せたあとはしっかりと踏み固めるんだぞ」
俺がそう命じると、兵士達の間でアイコンタクトが為されたのが見えた。
一瞬の無言の会話の後、彼らは穴を埋め始める。
しっかりと踏み固めつつ、何度も土を被せてしっかりと埋めていく。
ように見せかけて、手抜きをしているのはわかった。
俺の命令から、明日も同じ訓練をやらされると思ったんだろう。
少しでも楽をするために、土を柔らかいままにしておくつもりなんだ。
いや、それ自体は別にいい。
目的は穴を掘る事じゃないからな。
穴を埋めさせて装備を回収。
朝来た時と同じように歌を歌いながらランニングで屋敷まで戻る。
屋敷の庭で俺が解散を宣言し、この日の訓練は終了となった。
ふぅ、俺も疲れたぜ。
もう日が落ちそうだ。さっさと夕食にして、体を洗ってとっとと休もう。
明日も早いんだからな。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる