俺はニートでいたいのに

いせひこ

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第一章:剣姫の婿取り

次の決闘に向けて

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「それで、次の決闘内容はなんなの?」

 握手が終わって手を離すと、イリスがそんな事を聞いて来た。
 ちょっと名残惜しかったけど、彼女の手をこの場でいきなり握るのもおかしいしな。

「そうだな、裁定官がいる間に決めておいてしまおうか。あ、それと、さっきは俺の要求は結婚することだって言ったけど、それは少し返させて貰うよ」

「どういう事?」

「婚約自体は既に決定しているんだから、俺が負けない限り、婚約関係自体は続くだろ?」

「まぁ、確かにそれはそうね。そういう意味では、要求する意味が無いわね」

「と言う訳で、次の決闘に俺が勝った場合、次の決闘までの間、最低でも二十日間分、午前中は俺と行動を共にして貰おうかな」

「? どういう事?」

「そのまんまの意味さ。まぁ、俺との結婚に納得して貰うために、俺の事を知って貰いたいってのがあるからね。そのためには俺が仕事をしているのを見るのが一番だろ?」

「仕事?」

「一年間、屋敷で寝て過ごすつもりはないんだぜ? 君と結婚してすぐに領地が滅んだりしたら目も当てられないだろ」

 できれば寝て過ごしたいんだけど、そのためには領地が潤っていないといけない。
 エルダード家にいた時は、ニートで居続けるためにある程度の才能を示さないといけなかった。
 ソルディーク家では、ニートで居続けるためにある程度領地を安定させないといけない。

 ニートは一日にして成らず、とはよく言ったもんだ。

「ふぅん、まぁいいけれど。正直、変な事を要求されるんじゃないかと思ったし」

「変な事って?」

「し、知らないわよ! 知っているならあなたの方でしょ!?」

 俺が何気なく聞き返すと、顔を真っ赤にしてイリスはそう言った。
 ああ、これは知っている奴だ。
 なんとなくこの反応で何を想像していたかもわかるな。

 つまりはエッチな要求だろ?

 いきなりするかよ、そんな要求。
 今の時点で評価が低いのに、更に下げてどうする。

 いきなりするか、って事はそのうちするかもって事ではあるけどね。
 評価が低いから、って事は評価が上がればするかもって事ではあるけどね。

「という訳で、俺が勝った時の要求はさっき伝えた通り。君は?」

「当然、婚約破棄よ」

「じゃあそれで決定。決闘内容は……」

「内容は?」

「じゃんけんだ!」

「……じゃん、けん……?」

「ああ、それも三回勝負」

「いや、待って。それも、とか言われても……」

 額を抑えるイリス。
 まぁ、その反応はわからんでもない。

「じゃんけんって何よ?」

 この国にはそんなものないんだから。

 何かもめた時に恨みっこなし、として決める場合の方法は、この国では基本的に貨幣投げ、つまりはコイントスだ。
 じゃんけんは勿論、それに類するものも存在しなかった。

 と言う訳で俺が考案し、領地内に広めたのが日本式のじゃんけん。
 交易を通して周辺にも伝わったと聞いたけれど、ソルディーク家までは来なかったみたいだな。

 まぁ王国の南と北の端同士だからな。
 当然、伝わってない事は調査済みだけれど。

「貨幣投げに代わって俺が考案した、物事を決める方法さ。お互い向かい合って、じゃんけん、ぽん、で手を出す」

 イリスの前で、俺とアリーシャで実演する。

 俺とアリーシャは互いにグーの手を出した。

「手はグー、チョキ、パーの三種類。それぞれ三すくみの関係になっていて、グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ」

 言いながら、俺はグー、チョキ、パーと手を変える。

「同じ手が出たならアイコでもう一回だ」

「何? 自分が内容を決められる決闘で、わざわざ運任せを選ぶの?」

「そう思いたければ思えばいいさ」

「どういう意味?」

「それは自分で考える事だ。もう勝負は始まってるようなもんなんだぜ?」

「むぅ……」

 言って俺はにやりと笑って見せる。
 渋々ではあるけれど納得したらしく、イリスは口を噤んだ。

「ちなみに手を出すタイミングも大事だぞ。遅いと後出しで負けになる」

 説明を続けながら、アリーシャにじゃんけん、ぽん、と言わせて俺はじゃんけんを続ける。

「これは相手の手がわかるなら確実に勝てるんだから当たり前だな。逆に早く出してもいけない。これは相手に後出しを誘発させる早出しという反則になる」

「中々厳しいのね」

「なに、慣れたら自然にリズムに合わせて手を出せるようになるさ」

 アリーシャの抑揚のない『じゃんけん、ぽん』が癖になるな。

「とまぁ、これがじゃんけんだ。なにか質問はあるか?」

「……まぁ、あなたがそれでいいというならそれでいいわ。決闘内容はじゃんけん。お互いの要求はさっき言った通りね」

「ああ、それで頼むよ」

 そう言って俺は笑った。
 くくく、かかったな、イリス。既に俺の勝利は確実なものになったぞ。
 勝負は既に始まっている、聞き逃したとは言わさないぜ。

 そして決闘の手続きを行い、その日は解散となった。
 本来なら婚約決定のパーティでも催されるところだったんだが、一ヶ月後には破棄されてしまうかもしれないからね。
 そんな脆い婚約を喜ぶ訳にはいかないらしかった。

 俺も今日は疲れたので丁度良かった。

 アリーシャに体を拭いて貰い、そのままベッドに倒れ込むと、早々に意識を失ってしまった。



「おはよう、よく眠れたみたいね」

 明けて翌日。
 先に起きて身支度を終えたアリーシャに起こされて食堂に向かった俺を、イリスが出迎えた。

「ああ。昨日は疲れたからね。お陰で今日のランニングも中止さ」

「そういう事は先に言っておいて欲しかったんだけど?」

「え? なんで?」

「午前中は行動を共にするって言うから、朝から待ってたんでしょうが!」

「え? なんで?」

 イリスが何を言っているのかわからなかった。
 そんな約束したっけな?

「あなたがそう要求したんでしょう!? 次の決闘までの間、最低二十日分は午前中一緒にいるようにって!」

「…………」

「…………」

「……なによ? 忘れたの?」

 思わず俺はアリーシャに顔を向けた。
 アリーシャは無言で顔を横に振った。

「イリス、落ち着いて聞いてくれ」

「何よ?」

「それは、次の決闘に勝った場合の要求だ」

「……………………あ」

 どうやら勘違いしていたらしい。
 疲れていたのはイリスも同じだった訳か。

 いや、彼女の場合は色んな事が起き過ぎて混乱していたとみるべきか。

「リーリア!」

 イリスは、彼女の傍に控えていた専属の侍女の名を呼んだ。

「てっきり、お嬢様がレオナール様の傍にいたいがための方便かと思いまして」

「そんなわけないでしょ!」

 どうやらその侍女さんはイリスが勘違いしている事を知っていたようだ。
 知っていて、そんな頓珍漢な勘違いをするなんて。
 ……確信犯だな。

「まぁでも丁度良かったよイリス。君が訓練に行く前に話せて良かった」

「な、なによ……」

 その顔が赤いのは、勘違いがバレて恥ずかしいから?
 それとも、俺の言葉に『君に会いたかった』的なニュアンスが含まれていたから?

 そう言えば、恋愛英雄譚が好きなんだっけ。

「いや、昨日まで俺が訓練してた兵士達、自分達がイリスから、兵の中で実力が下から五十番目だ、と思われてると思ってるから、それとなく誤解を解いておいてくれ」

「なんでそんな事になってるのよ?」

「士気を上げるために説明を工夫したから」

「……わかったわ。まぁ、折角だから利用させて貰うけど」

 敢えて誤解を解かずに、発奮材料にでもするつもりだろうか?

「ああそれと、あとで言いに行こうと思ってたんだけど、俺の護衛としてこれから数人貸してもらっていいか?」

「何をするの?」

「だから仕事だよ。仕事のための実験かな? 俺の持つ農業知識が、この土地でも通用するかどうかを確認しようと思ってな」

「……ひょっとして、一年の期間を設けたのってそれが目的?」

 おっと、やっぱり頭の回転が早いな。

「それ目的。一番は君と仲良くなることだからな」

「な、なによ、それ……」

 とは言うものの、真っ赤になった顔を背けて、毛先を指でいじっていては迫力が無い。
 閨を共にして寝首を掻かれないようにするためだったんだけど、まぁいいか。
 良い方に誤解してるみたいだから、ほっとこう。

「昨日の俺の部隊から数人、君の部隊から数人。そして、どっちの部隊にもいなかった中から数人、適当に選別しておいてくれ」

「……私だけじゃなくて兵士も取り込むつもり?」

「君と結婚したら、最終的には俺がソルディーク伯爵家を継ぐだろう? という事は、何かあったら彼らを指揮する立場になるわけだ」

 勿論、実際に指揮を執るのはイリスになるだろうけど。

「その時、兵との間に信頼関係が築かれてなかったらまずいだろう?」

「まぁ、わかったわ。すぐに呼ぶ?」

「いや、俺が出掛けるまで……昼食後までに選んでおいてくれればいいよ」

「……昼まで寝る気なの?」

「昨日は疲れたんでね」

 中々鋭いね、イリス。

「あなた殆ど何もしてなかったじゃない。私を、討ったくらいで……」

 言いながら歯を食い縛るイリス。

「気疲れかな。どっちかって言うと。相手が相手だったからね」

「む……」

 遠回しに強敵だったと伝えられて、イリスは照れたようだった。
 やっぱこの世界の人間、ちょろいぞ。

「まぁ、一応あなたの身分は客分だからね。どういう行動をしようと自由な訳だから、強くは言わないけどね」

 そう言うと、早足でイリスは食堂から立ち去って行った。
 リーリアは食堂を出る際、一度こちらに頭を下げてから、イリスについていく。

「……朝から元気だな」

「レオ様を見ていると忘れがちになりますが、日が昇ってから活動的になるのは普通の事ですからね」

 俺の呟きに、アリーシャは半眼でツッコミを入れるのだった。
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