俺はニートでいたいのに

いせひこ

文字の大きさ
19 / 27
第一章:剣姫の婿取り

賢姫の襲来

しおりを挟む

 今日は午前中から畑の様子を見に行く。
 麦の方はまだ全然だろうけど、ジャガイモはそろそろ手を入れてやらないといけない筈だ。

「うん、まずまずかな?」

 目の前に広がるジャガイモ畑。
 等間隔に並んだ緑の葉を見て、俺は呟いた。

 草丈は大体8センチくらいだから、やっぱり長年かけて土壌を改良したエルダードの農地と比べると育ちが悪いな。
 と言っても、俺もそこまで詳しい知識がある訳じゃないからね。
 へたにここから違う事をして、ジャガイモそのものをダメにしちゃったら本末転倒だ。

「これは、どのくらい育っているの?」

 流石に見た事の無い作物の生育状態はわからないらしく、同行しているイリスが尋ねて来る。

「まぁ、この時期だと順調かな? あと二ヶ月程度で収穫できると思う」

「二ヶ月って……そんなに短いの!?」

「ああ。しかも、あれ一房で大人2~3日分の食料になるはずだ」

「ええ!?」

「まぁ」

 俺の説明にイリスだけでなく、同じように同行しているアウローラも驚く。
 まぁ、基本小麦くらいしか作物の知識がないとそうなるよな。

 ジャガイモ一つで一食計算だから、物足りないだろうし、間違いなく栄養不足だろうけどな。
 とは言え、ソルディーク領内の食料事情はその程度か、それ以下だからな。

 正直、元気なのは伯爵家と騎士団くらいというかなりヤバイ状況だ。
 
 王室からの援助と、エルダード家からの支援で周辺から食料を買い込み、領内の市場に格安で流してなんとかギリギリ食いつないでいる。

 それにしたって、王国全土で食料が不足気味だからな。限界はやっぱりあるんだ。

 これ、エルダード領内の生産量増加させてなかったら、ヤバかったんじゃないかな。
 戦争が長すぎたんだよ。

「それで、これからどうするの? 確認して終わり?」

「いや、間引きを行うよ」

「折角育ってるのに抜いてしまうんですか?」

「育ちの悪いものを放っておくと、結局全体の収穫量が落ちちゃうからね」

「どの領地でも、農地内に植えられるだけ植えていましたけど、この作物だけの特徴でしょうか?」

「小麦でもなると思うよ。開拓、開墾は大変だけど、土地が余っているようなら植え付け量を変えずに農地を広げるべきだね」

「はぁ~」

 アウローラが感心したように溜息を吐く。
 エルダードで農業改革を行う時も、この辺りの誤解を解くのには苦労したからなぁ。

 まずは与えられた狭い農地で実験して、その結果を基に父さんを説得したっけ。
 懐かしい。

 今はエルダードでの実績とデータがあるお陰で、みんなすんなり納得してくれるから楽でいいわ。
 よくわからないけど、俺が言うならとりあえずやってみよう、的な感じだけどな。

「それじゃ、昼までに終わらせてしまおうか。このあと肥料と土の追加を行うからな」

「うぃーーーす」

 すっかり俺の護衛兼農業従事者が板についたソルディーク家騎士団の皆さんが、特に異論をはさまず返事をして畑に向かって行った。



 ジャガイモの間引きと肥料と土の追加を行ったのち、ライ麦と大麦の畑も見に行く。
 気候が違うお陰で、この季節の種蒔きでもしっかり芽を出してくれているのは助かる。

 大麦は雑草の除去と虫の排除だけだったが、ライ麦はいい感じに育っていたので麦踏みを行った。

 科学的な根拠は流石にこの世界、時代だと判明してないけれど、ある程度麦が育ってから、一月ごとに4~5回麦踏を行うとよく育つ、という知識は広まっていた。
 多分、経験によって発見された栽培方法だな。



「それじゃ、リバーシのルールを把握できてるかどうか、確認のために一度勝負してみるか」

 農地の視察を終えて数日後、二つ隣の領地で出没したらしい山賊退治を終えて帰って来たイリスに俺はそう提案した。

「いいわよ。私も確認したい事があったしね」

 イリスもイリスで何か狙いがあるらしく、快く引き受けてくれた。
 翌日、ランニングを終え、朝食を摂ったのち、俺の部屋にイリスとリーリアがやって来た。

 アウローラもついて来たけど、まぁ気にしないでおく。

「じゃあ早速始めましょうか。考案者の実力、見せて貰うわよ」

 そう言って不敵に笑うイリスは、何故かテーブルを挟んで俺と垂直の位置に座るイリス。
 そして俺の対面に座ったのは、笑顔を浮かべたアウローラだった。

「お手柔らかにお願いしますね、お義兄様」

「……まぁ、いいけどさ。ただ、2~3回はイリスともやるぞ? お前がルールちゃんと把握してるかどうかの確認のためなんだからな」

「ええ、いいわよ」

 どうやら、俺がイリスの実力を測ろうとしていたように、イリスも俺の実力を知りたがっているみたいだ。

 兵に聞いた限りだと、アウローラは『賢姫』と呼ばれているそうだし、強そうだなぁ……。

 さてどうするか。
 決闘でイリスに勝つ確率を上げるには、ここで本気を見せるのは良くないよなぁ。
 序盤の定石だけ崩せば、ある程度誤魔化せるか?

「では、お義兄様からどうぞ」

「ああ」

 俺の実力を見たいからだろう、先攻を譲ってくれるアウローラ。

「さて……」

 俺は黒駒を手に取り、まずは縦5横6の位置に置き、縦5横5の白駒をひっくり返す。
 ちなみに、最初の置き駒が交差しているのはオセロの初期配置なんだけど、名前のこじつけが面倒だったのでオセロルールでリバーシを名乗っている。

「んふふ」

 アウローラは縦6横6の位置に置き、黒駒を一つひっくり返す。
 流石に、縦4横6に置いては来ないか。

 オセロの定石や有利に手を進める方法は幾つかあるけど、やっぱり角、そして端を取る事が重要だ。
 けれど、いきなり狙いにいってもそうそう簡単には取らせて貰えない。
 角や端を巡る攻防は、中盤から終盤にかけて行われる事が多い。

 じゃあ序盤はどうするのかって言うと、色々定石の形はあるから大雑把に言えば、相手の内側に潜り込む事を考えるといい。
 リバーシは相手の駒を、自分の駒でひっくり返すルールだからね。
 中央を自分の駒で押さえる事ができれば、極論、相手はこちらの駒をひっくり返せず、こちらは相手の駒をひっくり返し放題、という状況を作る事ができる。

 それと、リバーシには解放値理論というものがある。
 自分が相手の駒をひっくり返すという事は、相手にひっくり返せる可能性のある駒を一つ増やすという事でもある。
 そのため、これから自分がひっくり返す相手の駒に隣接した、空きマスを数え、少ない方が有利になる。
 これを解放値理論というんだ。

 当然、駒群の外側をひっくり返すより、内側をひっくり返した方が、隣接する空きマスの数は減る。

「このくらいは理解してるか……」

 俺がアウローラの陣地の内側へ入るよう駒を置けば、相手もその更に内側をひっくり返すように駒を置く。
 そのため、盤面が中々端へと進まない。
 お互い、最初に端に駒を置くのを嫌っているみたいだ。

 ちなみに、俺とアウローラが駒を置くたびに、

「え?」

 とか、

「あれ?」

 とか声を発しているイリスがいたけれど、これが演技だったなら大したもんだ。

「35対29か……。意外と差がついたな」

「んふふ。流石はお義兄様。お強いですわ」

 そして遂に決着の時。
 結果はそんな感じになった。

 俺は手の内を見せないようにしていたし、アウローラは俺を探っていたからね。
 お互いこれが相手の実力だと思っていない感じだ。

「じゃあ次、イリス、やろうか」

「え、ええ。相手になってあげるわ」

 どうしてそう強気なのか。
 俺とアウローラの攻防についていけてなかったのに……。

「ちょっと!」

「だめ!」

 そして今度は、アウローラがイリスが駒を置く度に声を発するのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...