22 / 27
第一章:剣姫の婿取り
剣姫のご機嫌窺い(文字通り)
しおりを挟む「ほら、起きなさい!」
朝、俺は柔らかな朝日と騒がしい声に目を覚ます。
「んん、あと五分……」
もとい、意識が夢の世界から帰ってきただけだった。
自分の体を自分のものとして動かしている感覚が無い。
隣にあるはずの温もりを求めるように手が動き、無意識のうちに声から逃れるように寝返りをうつ。
「ごふん、って何?」
「わかりません。時折レオ様が口になされる謎の単位です。おそらく、もう少し寝かせて欲しい、くらいの意味かと」
「だったら容赦しないわ!」
俺の体から布団が剥ぎ取られていくのを感じた。
即座に、それを掴む。
「こいつ、本当に寝てるの!?」
「無意識に抱き着いて布団に引きずり込んでくることもありますので、お気をつけて」
「あー、もう! 毎朝毎朝、迷惑かけるんじゃないわよ!」
そうして浮遊感を感じたと思ったら、そのままベッドから落下し、今度こそ目を覚ましたのだった。
「なんでこの世界の人間は、時計も無いのに毎日時間が正確なんだ」
「訳のわからない事を言ってないで、さっさと食べなさい」
イリスに叩き起こされたあと、ランニングを終えて俺は朝食を摂っていた。
俺が身支度を整えている間に、イリスは朝食を終えたらしい。
二回目の決闘を終えてから、イリスと朝食の時間が被る時もあったけれど、彼女は頑なに俺と朝食の席を一緒にしようとはしなかった。
昼食は普通に一緒に摂る時もあるから、嫌われているというよりは、意地になってる感じだな。
次の決闘で俺に負けない限り、朝食を一緒にする気は無いんだろうな。
まぁ、そういう要求でもしないと、運任せのニアミスに頼る事になるから、必要な要求ではあったんだけどさ。
「今日は午前中、何をするの?」
「この間やった道化探しから始めようか」
「……遊びの予定しかないの?」
「次の決闘のための布石だよ」
事実だ。
害虫駆除は心理の読み合い。
相手が嘘を言っているかどうかを見抜く必要がある。
イリスが顔に出やすいとは言っても、それはババ抜きという単純なゲームだからかもしれない。
色んなゲームを一緒にやって、イリスの表情と行動の関係性を探るつもりだった。
これは、害虫駆除以外でも役に立つはずだからね。
「もう勝った気でいるの?」
イリスは何やら勘違いをしている。
問題無いので訂正しない。
彼女には害虫駆除を、自分の手札と場の状況、差し出されたカードの情報から、周囲の手札を計算して予測するゲームだと伝えてある。
勿論、練習していればそうではない事に気付くだろう。
練習用にデックを1セット渡してあるので、俺がいない時にも練習は可能な筈だ。
けれど、気付かれたら気付かれたで問題無い。
じゃんけんでの嘘がバレてないから、俺は計算でそういう事ができる、と未だに思われてるからね。
計算して答えを導き出してると思われてれば、表情や仕草への意識が無頓着になるだろうし。
「戦いとは、常に二手三手先を考えて行うものだよ」
「目先の勝負を蔑ろにして、二手目が無駄にならなければいいわね」
通じないとは思いながらも、若干芝居がかった口調で言ったら、そんな返しをされた。
暫く無言で見つめ合い、お互いにやりと笑った。
朝食を摂ったあとは俺の部屋でババ抜き開始。
最初は俺とイリスとアリーシャとリーリアの四人だけだったが、何戦かした後にレフェルを伴ったアウローラが参戦。
すっかり定番の流れになったな。
何気にアウローラって昼まで寝てる時もあるし、俺以上にニートしてるんだよな。
まぁ、実家にいた頃は俺もこんな感じだったし、そんなもんか。
貴族の兄弟総ニート説。
言ってみれば自営業、それも時間の制約は文筆業やアーティスト的なものに近いからね。
しかしイリスの表情は本当にわかりやすいな。
アウローラはいつも柔和な笑みを浮かべていてわかりにくいって言うのに。
アウローラの笑顔は、領地内じゃ花の咲いたような笑顔、と評されているんだけど、もう俺には暗黒微笑にしか見えないよ。
細められた目の奥から、こっちの胸の内を覗き込んでいるように見えて怖い。
ババ抜きのあとはジジ抜きもやってみる。
更に、こっちの世界に既にあったポーカー擬きでも遊んでみた。
ルールがシンプルで役も少なくなっているけど、基本はポーカーだ。
これをやってみて、表情だけでなく、性格もイリスはわかいやすいんだと実感した。
「ベットよ」
例えばイリスがベットを宣言した際、俺の目を真っすぐに見て来るようならそれは勝負手だ。
ただし、
「ベット」
「ベット」
「ベット」
「ベット」
「ベット」
「…………」
全員で即座に応じてやると不安そうな表情で黙り込む。
これでそれなりに強いが絶対ではない事がわかる。
まぁフラッシュかストレートあたりだろう。
ここでもう一度載せて来るようならフォーカード以上。
ただし、もう一回全員で乗ってやると降りる可能性の方が高い。
慎重なのは指揮官向きかとも思うけれど、しかしそれは自分がベットを宣言した場合の話。
「ベットだ」
例えば俺からベットを宣言してみる。
「随分良い手なのかしら?」
なんて探りを入れて来るけれど、イリスが相手の表情などから思考や心理を読めない事はこの場の人間なら全員わかっている。
ミリナに聞くと、戦いの時なんかは自分の手の内全てバレているかのような錯覚に陥る、とか言ってたけどな。
多分、必要なセンサーが違うんだろうな。
「そう思うんなら素直に降りたらどうだ?」
「ふん、後悔しない事ね。ベット!」
こんな風にちょっと煽ってやると簡単に乗って来る。
とは言え、半日遊んで、イリスの成績は圧倒的だった。
ババ抜きは全敗だったけど、ジジ抜きは無敗。一位率も八割以上。ポーカーに至っては二位のアウローラにダブルスコアの大勝である。
まぁ、引きがやたらと強いせいなんだけどね。
ババ抜きの初手の少なさはこの間説明した通り。
こっちも何がジョーカーなのかわからないジジ抜きでは表情関係ないからその引きの強さを存分に発揮していた。
ポーカーでも初手でツーペア以上の手はほぼ確定で入っている。
ロイヤルストレートフラッシュを三連続で出された時はマジで目が点になったからね。
ただまぁ、害虫駆除は引きの強さ関係無いからね。
この半日で随分と情報を集めさせて貰った。
あとは、数日ごとに同じように遊んで、情報を更新していけばいい。
となるとやっぱり問題はアウローラだな。
表情が読みにくいし、感情も思考もわかりにくい。
そのうえで、今回は上手く実力を隠されていたように思う。
多分俺の狙いに気付いていたんだろうな。
ババ抜き、ジジ抜きでは特に小細工せず、ポーカーでも手の強さでラインを引き、これ以上なら攻める、未満なら降りる、という動きを徹底していた。
次の決闘は特殊な四人勝負だけど、実質2対2のチーム戦だ。
害虫駆除は本来一人負けのゲームだけど、特別ルールで誰か一人の勝者が決まるまで続けることになってる。
イリスは、俺とアリーシャで集中攻撃すれば簡単に沈むだろう。
だから問題はアウローラだ。
一人で俺達相手に無双するだけの実力があるのか。
それとも、イリスをフォローしつつ戦えるほどの実力があるのか。
ただ、次の決闘までにそれを探ったとして、対策できるかどうかの問題があるからなぁ。
さて、どうするか……。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる