俺はニートでいたいのに

いせひこ

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第一章:剣姫の婿取り

婿取り12番勝負:害虫駆除 前編

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「皆さんお待たせいたしました! ただ今より、レオナール・エルダードとイリス・ソルディークによる一年連続決闘勝負、その三番目を開始したいと思います!
 司会は今回も私、ソルディーク領地軍所属のミリナ。そして解説には、諸事情によりイリス様の侍女である、リーリア様にお願いいたします」

「不慣れですが、よろしくお願いいたします」

 決闘も三回目とあって、観客達も段取りをわかってきたらしく、それぞれの挨拶に合わせて歓声を上げた。
 入場料や賭けの胴元だけでなく、今回はアウローラの人脈を生かして行商人を呼び込み、彼らに露店や屋台を出させていた。
 当然、場所ショバ代もしっかり取っている。

「今回は四人による決闘という変則ルールですね。勝負内容は前回のリバーシと同じく、レオナール様が考案されたゲーム、害虫駆除。こちらも本来は一人負けのゲームなのですが、特別ルールで勝ち残り制となっております」

「レオナール様かお嬢様が一位を取れなかった場合は、先に負けた方が決闘に敗北するというルールですね」

「このゲームはエルダード領内やその周辺でも、貴族より平民の間で流行っているそうですね」

「前回のリバーシもそうでしたが、ルールがシンプルですし、文字を読めなくても遊べますからね。一人負けというのも、賭けを行う場合に丁度良いのでしょう」

 王国内の識字率は決して高くない。それがイコールで頭の良し悪しに直結するわけではないが、ルールを聞いただけで理解できる、というシンプルさは平民の間で流行るのに重要な要素だった。
 分厚いルールブックを必要とするゲームでは、流行りようがないから当然の話ではある。

「今回は四人対戦という事で、レオナール様とイリス様以外のお二人は、それぞれが一人ずつ指名して決定しました」

「四人対戦と言いつつ、チーム戦という事ですね」

「そういう意味では、イリス様が指名なされたのがアウローラ様というのは意外でした」

「お嬢様への忠誠心では誰にも負けないと自負しておりますが、今回のような頭脳勝負では、やはり『賢姫』様には敵いません。そして、これを受け入れられたレオナール様の優しさにも敵いませんね」

「優しさ……ですか?」

「ええ。特にこの一年連続決闘のルールからしてそうですよ。例えばこのルールだったら、お嬢様は最後に一度勝つだけで良いわけです。それまで全敗だったとしても関係ありません。たった一勝でお嬢様の願いは叶います」

「しかしそれは、勝った側が次の決闘内容を決められる、というルールでバランスを取っているのではないでしょうか?」

「いえ、それもレオナール様の優しさです。先に言った通り、最後に勝てばいいのですから、決闘内容を決めるのが前の決闘で負けた側だった場合、最後の決闘の勝負内容を決めるのは誰ですか?」

「え?」

 聞かれてミリナが戸惑う。
 観客達もそれぞれに考えているようだ。
 その空気がしっかりと伝わるだけの間を取った後、リーリアは続ける。

「それはレオナール様です。最初の決闘にレオナール様が勝っていますからね。そのような状態で、さっきの決闘には自分が勝ったから負けたそっちが勝負の内容を決めろ、と言われれば、お嬢様の性格なら間違いなく応じるでしょう」

「目に浮かぶようです」

 そこで観客達の間で笑いが起きる。

「言われてるぞ」

「あなたが言わせてるんでしょ」

「大まかな流れを指示しただけで、内容までは伝えてないよ」

 舞台の中央に座るレオナールとイリスが口論をしていた。
 しかし、ミリナ達とは違って、二人の声は観客達に聞こえない。
 また、歓声でお互いの声が聞こえにくいため、顔を近付けて会話する二人は、仲良くしているようにしか見えなかった。

「つまり一戦目の内容を決めるのがお嬢様だとすれば、間違いなく一対一の武術による勝負を選ぶでしょうから、十中八九レオナール様が負けるでしょう」

「でしょうね」

 その断言に、再び笑いが起きる。

「言われてるわよ」

「言わせてんだよ」

「となると二戦目の内容を決めるのはレオナール様です。これを繰り返していくと、最後の決闘内容を決めるのは?」

「レオナール様ですね」

 ミリナと観客達がようやっとリーリアに追いついた。

「つまりレオナール様は、敢えてイリス様に有利なルールとしているという事ですか?」

「全勝する自信がおありなのでしょうけれど、それ以上に、お嬢様との関係を深めていく事を目的にしているものと思われます」

「これまでの勝利要求を鑑みると、確かにそのようですね」

「勿論、負けた方が決闘内容を選ぶ、というルールでも、レオナール様が何度か要求する事はできるでしょう」

「つまり、イリス様に結婚に納得して貰いたいという思いによる優しさという事でしょうか?」

「少なくとも私はそのように考えております」

 リーリアがそう締め括ると、観客達の間から感嘆の声が漏れた。

「本当?」

「さてね」

 疑惑の目を向けながらも、若干頬が赤いイリス。
 しかしレオナールははぐらかした。

「さて、親を決める訳だが……」

「じゃんけんをしましょう!」

 いよいよ決闘が開始されるという時、イリスがレオナールの言葉を遮ってそんな提案をした。
 レオナールだけでなく、アリーシャとアウローラも冷めた目でイリスを見る。

「ふふ、あの決闘以来、何度かあなたとじゃんけんをしたけれど、その内にあなたの弱点を見つけたのよ!」

「ほう。それは面白い。じゃあ勝った方が親って事でいいな?」

「ええ、勿論よ!」

「「じゃーんけーん」」

 アリーシャとアウローラはそっちのけで、じゃんけんを始める二人。
 決闘の主役は二人なので、アリーシャ達も文句を言わなかった。

「「ぽん!」」

 果たして出された手は、レオナールがパーであるのに対し、イリスがチョキだった。

「お」

「おや」

「あら」

「よっし! ふふ思った通りね、レオナール。あなたは最初の一手でよくパーを出すのよ!」

「…………あー、そうかもな」

 それは、未だにイリスがグー、チョキ、パーの順番で手を出す確率が高いからなのだが、そちらには気付いてないようだった。

「お姉様……」

「ふふ、任せておきなさい、アウローラ。頭脳戦なら確かに負けるかもしれないけれど、観察眼には自信があるんだから」

 アウローラの呟きは、残念な姉に対するものだったのだが、イリスは気付かず胸を張った。

「じゃあ親はイリスな」

「ええ、わかったわ」

 自らの力で親を勝ち取ったイリスは上機嫌だった。
 しかし彼女は忘れている。
 このゲームの敗北条件を。

 敗北条件は三つ。
 自分の前に同一種類のカードが4枚置かれる事。
 自分の前に八種類のカード全てが置かれる事。
 手札が無い状態で勝負に負ける事。

 親は自分の手札から一枚出して、他のプレイヤーに渡す。
 手札が無くなる事が敗北条件にあるゲームで、それは間違いなく不利だった。
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