列車居酒屋異聞 〜旅が好き〜

夢彩姐

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2.野崎 颯 居酒屋ランチタイム

2.野崎 颯 居酒屋ランチタイム①

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「ねぇ、お母さん。アレなあに?」

 信号待ちで止まった車から外を眺めていたボクは変な建物を見つけた。
 ちょっと見た目は電車の駅。だけど線路なんかここには通ってない。

 お母さんはチラッと頭だけ動かしてボクが指した建物を見る。
「何かしらね…。駅みたいだけど…駅はもう少し離れた所だし……」

 お母さんにもわからないみたいだ。

「あ、お母さん、看板が有るよ。なんて書いてあるの?」
 隣りに座ってた優香が建物の屋根辺りを指す。
「お姉ちゃん読めないの?」
 ボクが意地悪く聞くと
「うるさいわね。知らない漢字が有ったのよ」
 そう言って頬をふくらませる。

「『旅が好き―列車居酒屋―』って書いてあるわね」
 お母さんが読んでくれた。

「『レッシャイザカヤ』? なんだろうね?」
「わかんないね」
 車の後部座席で優香とキャッキャッとしゃべる。

「はいはい、もうすぐ着くからね。クルマから降りる準備して」

 アレ?
 お母さんの声が…なんか…不機嫌そう…?
 変なの。



 まあ、いいや!
 今日はお母さんがちょっとぐらいご機嫌悪くても気にしないもん!

 だって今日はボクのランドセル買いに来たんだ!

 4月になったら一年生!
 春になったら一年生!

 わーい!
 楽っしみだなあ~!

 今まで先生からは『颯(ハヤテ)君』って呼ばれてたけど一年生になったら『野崎(ノザキ)さん』か『野崎君』なんだって!

 お兄さんっぽい?
 ふふふっ~!

 車が駐車場に着いたので、ボクはコートを着てウキウキしながら車から降りる。

 何処からかクリスマスソングが聞こえてきた。
 ちょっと風が冷たい……。
 ボクはコートから手袋を出してはめた。

「ほら! 周りをよく見て! 車が入って来るから轢かれないように!」

 お母さんはうるさい。
 何回も何回も同じ事を言う。

「ちゃんとお姉ちゃんと手をつなぐのよ。迷子にならないようにね」

 わかってるよ。うるさいな……
 僕は赤ちゃんじゃないんだよ。

 前はお母さんと手を繋いでいたんだ。
 でもお母さんと手を繋いで歩いてたのを幼稚園の友達が見ててさ
「赤ちゃんみてー」って笑うんだ。
 だからお母さんとはつなぎたくないって言ったら……
 何故かお姉ちゃんとつなぐ事になっちゃった。

 何でだ?

 考えてもよくわからない。
 わからない事は気にしない事にしてお姉ちゃんと歩く事にした。

 風は冷たかったけどいいお天気だったからそんなに寒くない。
 ウキウキ気分で歩いていたらデパートへ行く道の途中でさっきの変な店の前に通りがかる。

 『旅が好き~列車居酒屋…ただいまランチタイム営業中です』
と、いう声が聞こえてきた。

 声だけで人の姿はない。
 声のした方をよく見るとスピーカーが置いて有った。
 店の入口を見ると背広を着た男の人や若い女の人がちらほら店に入っていく。

 いいなぁ…ボクも入ってみたい……。
 そうだ!

「ねぇねぇ、お母さん」
「何?」
「お腹空いた」
「はい?」
「だぁかぁらぁっ! お腹空いたっ!』
「はいぃ~?」

 お母さんがマヌケな声をだす。
 そして変な顔をしながらスマホを取り出し、時間を確認した。

「うん…まぁ確かに…もうお昼近い……」
 しめた!

「だからぁ。食べてから買い物に行こうよぅ」
 ここぞとばかりにお願いする。

「う~ん…。優香は? お腹空いてる?」
 お母さんは優香にも聞いた。
「え?」
 優香は首を傾げる。
「…そんなに空いてないよ?」

 優香の裏切り者!
 ボクは慌てて
「でも食べられなくはないでしょ? ここ! 入ってみようよ。入ろうよう!」
と、必死に訴えた。

 ……本当はボクだってそんなにお腹空いた訳じゃない。
 でも、この店には入ってみたい!
 だからお腹空いた事にする!
「いいでしょ。入ろうよぅ!」

 お母さんは大きな…大~きなため息を一つつく。
「しょうがないわねぇ…」
 そう言って店の入口へと方向転換する

 やったぁ!

 ボクはウキウキと優香を引っ張るようにお母さんの後に続いて店に入った。



 店の中はあまり明るくなかった。
 壁に少しだけ光った矢印が貼ってあったのでその矢印が指す方向へ迷わず歩いていく。

 途中、切符が買える機械が有った…けど光ってなかった。電気が入ってないのかもしれない。


 少し歩くと部屋があった。
 椅子だらけの部屋だ。
 そして駅の売店の制服っぽい服を着た店員さんがお弁当を売っている。

 『テイクアウトご希望の方はこちらでお求め下さい』

 機械音声が流れていた。
 お弁当を買う人達が何人か並んでいる。
 お店の中じゃ食べられないのかな?


 キョロキョロ部屋の中を見ていたら壁に矢印が貼ってあるのに気がついた。
「お母さん。矢印!」
「あら、ホントね」
 矢印の側には紙が貼ってあって何か書いてある。

「お母さん。何て書いて有るの?」
 ボクは矢印を指差す。

「……『店内飲食ご希望の方はこちら』よ」
「ふ~ん……」
 ボクらはこの部屋には止まらず矢印の指す方へ歩きだした。

 少し歩くと駅の改札が見えてきた。
 え? やっぱりここは駅なのかな?
 ナントカっていうカードが必要?

 ボクはなんか不安になってお母さんの上着をつかむ。

『ランチタイム中、乗車券は必要ありません……。そのまま奥へお進み下さい……」

 機械音声が流れていた。
 あ、何もいらないんだ。
 ボクはそっとお母さんの上着から手を離す。

 辺りにいた人も改札を通って中へと入って行った。
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