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婚約解消
しおりを挟む王宮から婚約解消を願う書状が届いたのは、殿下とグレイスさんが関係を持ってすぐのことだった。
「アーシェ…」
娘を心配する眼差しで私の名前を呼ぶお父様。
少し罪悪感がでてくる。
「もしかして、婚約破棄でもされました?」
にっこり微笑んでそんな言葉を口にするとお父様は驚いた様に目を見張り、口をパクパクとさせる。
そして
「アーシェ!!!?!?!?もしかして殿下に何かしてしまったのか!?!!?」
「うるさいですわ、お父様。私は別に何も。手に持っている書状にも殿下の不貞のせいだとでも書いてあるんじゃないですか?」
婚約破棄の旨に加えて謝罪文でも乗せられているんじゃないだろうか。
「確かにそうだが…ええ、でもアーシェはこんなに元気だし、やっぱりアーシェが…んん?わからん!」
「大事な娘が元気ならいいのでは?元々殿下には恋愛感情なんて抱いてませんでしたから、こういう反応になっても仕方ありませんわ」
私の言葉にお父様は納得したようなしてないような微妙な表情を浮かべた。
「謝罪を受け入れると返事を出してください。私もこれでやっとお慕いする方と結婚できます。別にいいですよね?跡継ぎと地盤固めはお兄様達にお任せしますわ」
「っ!?!?婚約を解消したばかりでもう次の結婚の話か!?」
なんのために解消できるよう仕組んだと思っているんですか。
…さすがにカイが学園を卒業するまでは待ちますが。
あーあ、早く名実共にカイのものになりたい。
「どこの馬の骨だ…!」
「馬の骨なんて失礼です。私の愛する人を貶すことはお父様であっても許しませんわ」
カイは優しくてかっこよくて可愛くて一途な私の騎士なんだ。
「だ、だが…」
「ボスマン公爵家の長男、カイ・ボスマンです」
「うんんんんん!?ボスマンってあのボスマンか!?あのたぬき親父の倅か!うちの大事な娘をよくもっ!!」
ボスマン公爵は社交界でもなかなか食えない人物で有名であり、父とは少しばかり犬猿の仲というか、ライバルというか…そういう関係だった。
政敵なんかでなければこの際気にしません。
「殿下なんかよりよっぽど愛のある幸せな結婚です。お父様は娘の幸せを願ってくれませんの…?」
わざとらしく悲しげな表情を浮かべる。
「っ、そんなことはないよアーシェ!お父様はアーシェが幸せになれるのなら大賛成だ!」
「ありがとうございますお父様」
言質はとりました。
「あ、王家から謝罪の品や領地が与えられるかもしれませんが、申し訳ないのでそれらは丁重にお断りしてください」
「……やっぱり何かしたのかい、アーシェ」
ゲンナリした顔を向けられてしまった。
それから正式に私と殿下の婚約は解消され、グレイスさんもしっかりと婚約者の座に収まったようだ。
殿下の誕生日に籍を入れ、卒業後すぐに盛大な結婚式が行われることが決まった。
そして、私とカイの婚約もトントン拍子で進められた。
たまに学園ですれ違う殿下にはじっとりとした目を向けられるが、なんだかんだグレイスさんのことは大切にしているみたいだ。
二人でいる姿がよく見られるようになった。
もちろん私とカイももう人目を憚る必要はなくなり、人目のない場所以外でも堂々とイチャイチャできている。
はあ、幸せだわ。
「嬉しそうだね?アーシェ」
私の腰を抱いて蕩けるような笑顔を浮かべ、カイが私を見つめる。
「ええ、カイの隣にこれからもずっといられるんだもの」
微笑みながら、そう言葉を返した。
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