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王太子の思い
しおりを挟むSide ディラン
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
怒られた。
すごく。
未だに怒りを抑えきれないといった両陛下を前に小さくため息をつくと目ざとくそれに気づいた母上に思いっきり睨みつけられる。
「どうしてあなたはそうフラフラと!もう少し地に足をつけて行きなさい!!」
「申し訳ございません母上」
「ヘラヘラしない!」
そうは言っても笑うしかない状況である。
いくらあちらが仕組んだこととはいえ、それを証明するにはグレイスに証言してもらうしかないだろう。
…それはあまりにも、可哀想だしねえ?
「アーシェに申し訳が立たないわっ、息子が不甲斐ないばかりに…」
母上、原因はそのアーシェです。
「アーシェは私に興味などありませんから、今回のことにそう心を痛めている可能性は低いかと」
「あなたに興味がなくとも婚約者が不貞を働き傷つかない女の子などいません!そうでしょう、あなた!」
…傷つきませんよ彼女は。
それだけは断言できる。
母上にジト目で見られ、父上は気まずそうに視線をそらす。
そもそも私のこの貞操観念の緩さは父親譲りだった。
今でこそおしどり夫婦とも言われる二人だが、結婚する前は父上の女遊びに母上は随分悩まされていたと聞く。
「もう!王家の男というものは!しかし、こうなればもう仕方ありません。アーシェ嬢には誠心誠意謝罪し、公爵家にもそれ相応の態度を示さなくてはいけません」
………不要では?
なんてことは言えず沈黙を貫く。
まあ、元はと言えば他の女にふらふらしてアーシェの心を自分のものにできなかった私が悪いわけだが。
しかし、まあ…罠に嵌めたアーシェにも充分問題はあると思う。
「男としては多少の女遊びも仕方ないとは思うが、避妊もしていないとはなんと不甲斐ない…!」
それまで黙っていた父が初めて口を開く。
父上、母上が隣で睨んでいますよ。
「ディラン、そなたはもうグレイス嬢を娶り、一生寄り添っていくしかないのだぞ」
「わかっております父上」
「…アーシェのことは良いのか?」
今更そんなことを聞いてもしかたないのに、あえて口にする父上。
「もとよりアーシェのことは妹のようにしか見ておりませんでしたよ。それは彼女も同じだと思いますし」
長い付き合いで、確かに絆はあったと思う。
しかし、自分の気持ちは自分が一番よくわかっているというもの。
恋情なんてものではなかった。
幸せを願うくらいの情はあれど、彼女が他の令嬢に絡まれていてもそばを素通りすることができるくらいには彼女に対して薄情な部分だって持っている。
それは彼女が令嬢達のことを面倒に思えど、それだけで傷ついてしまうほど弱くないとわかりきっていたからだが。
彼女自身私に助けを求めることもなかった。
そして、今回のことは、彼女を放っておいたツケが回ってきただけに過ぎない。
「私はグレイスと一緒になります。理由は言えませんが、アーシェはこの件で間違いなく一ミリも心を痛めていませんから安心してください」
笑顔でそう言い謁見の間を後にした。
後日公爵家へ謝罪の品として与えたものや領地が次々と受け取り拒否を示された時、両陛下は謝罪が無下にされたのではないかと焦っていたが、きっとアーシェが断っただけなのだとわかった。
グレイスはすぐに王妃教育をはじめ、彼女のひたむきな努力に母上もそろそろ陥落しそうな頃合だろう。
思いのほか落ち着いている現状だった。
「殿下…!」
王宮の廊下を歩いていると、最近聞き慣れてきた凛としたソプラノの声が耳に届く。
「やあグレイス、今日も王妃教育か?」
「ええ、そうですわ。殿下の隣に立てるよう、精一杯がんばりますっ」
頬を赤らめてそう言うグレイスは可愛い。
少し一途になってもいいかもしれない。
「無理はしすぎないようにな」
ポンっと小さな頭に手を乗せてそう言うと彼女は目を見張って驚いたように固まった。
面白くなった私は彼女にそっと顔を近づけ、その狭い額に口付けを落とす。
「っ、!?」
「ではまたお茶の時間に会おう」
そう言うと彼女は嬉しそうに笑み浮かべた。
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