9 / 10
やっと貴方のものに
しおりを挟む雲ひとつない青空の下、私達の式は執り行われた。
お互いの家族や友人、カイの騎士仲間など、多くの人の笑顔に包まれる温かい式だった。
「カイ…」
たくさんの祝福に少し照れくさそうな微笑みを浮かべるカイ。
耳元に唇を寄せ、小さく名前を呼ぶ。
「…どうしたのアーシェ?」
くすぐったそうに目を細め、カイは優しい声で私に返事を返す。
ちょっとだけほっぺたが赤い。
ウブなところは全然変わんないなぁ。
「私ずっと、カイと結ばれることはないって諦めてたの。王太子との婚約が私の人生の務めだって思ってた。…ううん、もしかしたら自分自身に言い聞かせてたのかも」
言葉を紡ぎ続ける私を、カイは慈愛のこもった表情を浮かべじっと見つめていた。
深い藍色の瞳と視線を合わせる。
「だけど…最愛の人の傍にいることをこんなにたくさんの人に認められて、祝福されることはこんなにも幸せなことなのね」
「アーシェ、僕もすごく幸せだよ」
カイはおもむろに私の頬に手を伸ばした。
しなやかで、少し固い、剣士の指。
私の隣で幸せだと言う彼を、心の底から愛しく思った。
つーっと一筋流れる涙が彼の指に掬われる。
「今日から私…やっと貴方のものね」
「っ、どうして今そんな可愛いこと言うのさ」
顔を真っ赤にして怒ったような、拗ねたような顔をするカイ。
やっぱり彼はとびきり可愛い。
「だって本当のことでしょう?違うの?」
「違わないっ、けど…ずるいよアーシェ」
カイは頬に手をあてたまま少し屈んで、
そっと私の額に唇を落とした。
「僕ばっかりアーシェにドキドキさせられてる」
「…カイの方がずるい」
私のことが心から愛おしい、そんな表情を浮かべたままキスなんてされたら…私の心臓今にも破裂しちゃいそうだよ。
「僕の奥さんが、世界で一番可愛い」
蕩けそうな瞳でそんな言葉を囁かれ、ぽうっとカイを見つめ返した。
…いつか私、カイのことが大好きすぎて頭がおかしくなっちゃうんじゃないかな。
「愛してるよ、アーシェ」
「うん…私も愛してるよ、カイ」
誰にも隠すことなく、愛しい人に堂々と自分の想いを告げることができることに、
愛しい人が、私だけを見つめて、愛してくれることに、
この上ない程の幸せを感じた。
_____私は、大好きな彼と生きていく。
「二人の世界に入るのは結構ですが、今日は皆様あなた方のために集まってくれているんですのよっ」
いきなり聞こえたそんな声に、思わずむうっと唇を尖らせる。
せっかくカイとの甘い時間を過ごしていたのに。
仁王立ちするグレイスさんは本当に空気が読めない方だ。
「…姉さん、何か用?」
カイも同じことを思ったのか、いつもより一層冷たい声で言葉を返した。
「っ、お邪魔でしたわね!」
「わかっていてどうして邪魔をするんです…」
予想以上に棘のある言葉が口から滑る。
さすがに言いすぎたかな、と口に手を当てると、カイにぽんぽんと頭を撫でられた。
「それはっ、だけど…私だって」
しどろもどろに言葉を紡ぐグレイスさん。
顔を赤らめて涙目になる彼女が言いたいことは、これまでの付き合いでなんとなく予想できる。
「私だって…あなた達に、祝福の言葉くらい…っ、言いたいんですわ」
「はいはいありがとうございます」
「あなたはまたそんなにあっさりと!!」
しれっとしてお礼の言葉を返した私に、グレイスさんは違う意味で顔を真っ赤にする。
だって、なんだか恥ずかしいじゃない。
グレイスさんとは長い間険悪な仲だったのに、今更こんな、仲の良い友達みたいに…
「アーシェ、照れてるの?」
「照れてないっ」
「可愛いね?」
からかうようにそう言うカイ。
そっぽを向くとぎゅっと肩を抱き寄せられた。
「またお二人でイチャイチャと…!」
「別にいいじゃないですか、結婚式なんだし」
ジト目でグレイスさんを見つめると彼女はぐっと唇を噛み締めて黙り込んでしまった。
「あんまり私の妻を虐めてくれるな」
いきなりやって来て白々しくそんな言葉を口にするのは、私の元婚約者様だった。
グレイスさんを妻と呼んでいる通り、二人は私達よりも早く正式に籍を入れていた。
ちなみに子どもはまだできていないようだ。
この様子じゃ、秒読みだろうな。
「あら、私が嫌がらせをされていた時は放置していたくせに…どういう風の吹き回しです?」
「本人が気にもしていないのに、私が助ける必要があったか?」
「気にはしていませんでしたが、あなたには助ける義務があったのでは?全てあなたのせいだったのですから」
私の言葉に殿下は肩を竦めて、まるで駄々を捏ねる子どもを相手にするように、困ったような顔で笑った。
…本当に腹の立つ人間だ。
「アーシェ、あんまり他の男と仲良くしてたら僕妬けちゃうな」
「私が愛しているのはカイだけよっ!こんな人今も昔も好きでもなんでもなかったわ」
「うん、知ってるよアーシェ」
ふう、良かった。
カイに変な誤解をされたらたまったものではない。
「…言葉の節々に私に対する悪意があるような気がしてならないのは私だけか?」
「ディラン様も、あんまりアーシェばかり気にかけてたら…私だって、妬けますわっ」
「あんまり可愛い顔でそんなことを言うな。私も男だ、下半身にくるものがあるぞ」
「っ!?!!?」
この国の時期王がこんなに下品な男でいいのか。
と言うか、私もって…殿下以上に見境ない節操なし男なんて存在しないわ。
その点…
「ん?どうかした、アーシェ」
私の天使は、一途で優しくて、私になんて勿体ないくらいの素敵な人だ。
笑顔が眩しいよ、カイ。
「ううん、カイと結婚できて、私は世界で一番の幸せ者だなって思ってただけ」
「…っ、ありがとう。だけど、一番の幸せ者は僕だと思うよ?」
はい、きゅん。
「相変わらず、反吐が出そうな程甘いなお前達は」
殿下がげんなりとした顔でそう言う。
「だったらもう王宮に帰られた方がよろしいのでは?」
「お前らは私に冷たすぎるんじゃないか?」
にこにこと微笑みながら進言するカイに、殿下が言葉を返す。
「殿下のことを思ってのことですよ」
「せっかくのカイの優しさを…最低ですわね、ディラン殿下」
「…お前らなあ」
「ディラン様、この方達は仕方ありませんわ」
悟ったように言うグレイスさんだった。
「はぁ、何はともあれ、今日は友人のめでたい門出の日だ。…おめでとう、二人とも」
「…いつになく素直ですわね」
「殿下、気でも触れたのですか?」
私達の言葉に殿下は心底嫌そうに顔を歪めた。
「お前らは本当に。もう勝手に二人で幸せにでもなっていろ」
「既に幸せですわよ?」
「アーシェの婚約破棄に素直に応じて頂きありがとうございました。殿下のことを憎むことはあっても、心から感謝する日が来るとは夢にも思いませんでしたよ」
満面の笑みでそう言う私達に、遠い目をした殿下はもう何も返さず、あたふたとするグレイスさんの肩を抱いて去っていった。
「え、あの、ディラン様…?私まだお二人にお祝いの言葉を…」
「私がもう十二分に伝えただろう?」
「それはあなたの言葉で…っ、お二人とも、結婚おめでとうございますっ。それと、アーシェさん…本当に、たくさん酷いことをして、申し訳ありませんでしたわっ」
殿下の腕から必死に逃れたグレイスさんが、私達に向き直りそう言葉を紡ぐ。
…もう、いいのに。
あんな些細な嫌がらせで傷つく程繊細な心は持ち合わせていない。
「いつまでもそんなことを気にしていたら、あなたの望む友人になんて到底なれませんよ?」
「っ…そうね。ごめんなさい。ありがとう、アーシェさん」
「これからよろしく、お義姉様」
「…こんな生意気な妹なんて、ゾッとしますわ」
グレイスさんはそう言っていつも通りの勝ち気な笑顔を浮かべていた。
グレイスさん達を皮切りに、たくさんの人が次々と祝福の言葉を言いに来てくれる。
嬉しいけど、結婚式って結構大変なのね。
「アーシェ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも…」
「ちょっと控え室で休む?」
心配そうなカイの優しさに少しだけ回復した気持ちになった。
「ううん、平気。カイが隣にいてくれたらどんな疲れも吹っ飛んじゃうわ」
「…僕はアーシェが可愛くて今すぐどこかに隠しちゃいたいな」
「もう、カイったら」
今日も最愛の人が尊いです神様。
ずっとずっと、カイの隣で笑っていたい。
私の隣で、カイに笑っていて欲しい。
見つめい、どちらからともなくそっと唇を合わせた。
0
あなたにおすすめの小説
追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~
黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」
派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。
彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。
相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。
「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。
しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!?
無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。
二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
捨てられた公爵令嬢は氷の宰相に愛されすぎて困っています 〜婚約破棄の果てに見つけた真実の愛〜
nacat
恋愛
婚約者の王太子に「平民上がりの令嬢が」と断罪された公爵令嬢・リリアーナ。
居並ぶ貴族の前で婚約破棄を告げられ、家を追放された彼女の前に現れたのは、氷の宰相と恐れられる冷徹な美貌の青年、アラン・グレイス。
無表情で冷たいと噂された彼が見せたのは、誰も知らないほど深い優しさと狂おしいほどの独占欲だった。
最果ての領地で始まる、ざまぁと溺愛の逆転劇。
そして、王国を揺るがす陰謀の真実が明らかになるとき、二人の愛はすべてを変える――。
白い結婚だったはずなのに、少し糖度が高すぎる気がするのですが。~殿下が今更復縁を懇願してきましたが、もう遅いです~
水上
恋愛
王太子から理不尽に婚約破棄された伯爵令嬢ヴィオラ。
しかし、実は彼女のその知識は、国を支える要だった。
「お前の知識と技術が必要だ」
そんな彼女を拾ったのは、強面で料理上手の辺境伯。
契約結婚から始まった二人は、領地の改革に着手する。
その過程で、二人の関係性も徐々に進展していき……。
一方、彼女を捨てた王宮はボロボロに崩れ始め……?
婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
婚約破棄されたはずなのに、溺愛が止まりません!~断罪された令嬢は第二の人生で真実の愛を手に入れる~
sika
恋愛
社交界で名高い公爵令嬢・アイリスは、婚約者である王太子に冤罪をでっち上げられ、婚約破棄と同時にすべてを失った。
誰も信じられず国外に逃れた彼女は、名を偽り辺境の地で静かに生きるはずだった――が、そこで出会った青年将軍が、彼女に異常なまでの執着と愛を向け始める。
やがて明らかになる陰謀の真相、そして王都から彼女を探す“元婚約者”の焦燥。
過去を乗り越え、愛を選ぶ彼女の物語は、痛快な逆転劇と甘く濃密な溺愛とともに幕を開ける。
さようなら、白い結婚。私は自由になります。
Ame
恋愛
一年間の白い結婚で心を失いかけたリディア。
離縁を決意し実家へ戻った彼女を迎えたのは、誠実な騎士団長ユリウスの温かなまなざしだった。
そして、遅すぎる後悔と向き合う元夫アラン。
『役割としての妻』をやめたとき、
リディアは初めて「愛される」という意味を知る――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる