[本編完結]私に嫌がらせする公爵令嬢の弟が大好きなので、王子との婚約は解消したい。

ゆき

文字の大きさ
6 / 10

罠に嵌めたのは

しおりを挟む

初めてやって来たボスマン公爵家。

良い意味で時代を感じさせる素敵な御屋敷に、カイはこんなところで生まれ育ったのかと感慨深い気持ちになった。


「ごめんねアーシェ、わざわざ家まで来てもらっちゃって。姉さん、あの日は幸せそうな顔で帰ってきたと思ったら日が経つに連れて罪悪感が募ってきたみたいで…」

「謝らないで?グレイスさんも同性の方が話しやすいこともあると思うし。アフターケアは任せて!」

元気よくそう言う私を、カイはいつもの優しい瞳で見つめていた。


「ありがとうアーシェ。だけど姉さんのことが終わったら僕にもしっかり構って欲しいな」

「それもばっちり任せて!私の本分はそれだからね?」

どこまでも自分達本位な私とカイ。

今回ボスマン公爵家に足を運んだのも、グレイスさんを思ってのことというより、自分達の計画のためというのが大きかった。


自分の姉まで利用してしまうカイと、婚約者を簡単に切り捨てる私。

決して正しいとは言えない道を私達は選んだんだ。


誰かを巻き込む最悪な形で。



「じゃあ、カイはここで待っててね?」

グレイスさんの部屋の前に来ると、なんとなく扉の中から陰鬱な空気を感じた。

センシティブな内容になるだろうから、カイにはここで待っていてもらった方が良いだろう。


「うん、ごめんね。よろしくお願いします」

申し訳なさそうな顔でそう言うと、カイは私をぎゅっと抱きしめ、額にそっとキスを落とした。

パワー満タンだ。



コンコン、


「グレイスさん、入っても大丈夫ですか?」

「……」


返事は無かったが、確かに人の気配を感じる。

拒絶の言葉が聞こえないのは、入っても良いということだろう。

都合の良い解釈は得意だ。


「入りますね」

「え、ちょっ…!」


焦ったような声は無視して部屋の中に入る。

扉を閉めると二人っきりだ。



「グレイスさん、泣いてるんですか?」

目を真っ赤に腫らした彼女は、頬にしっかり涙のあとを残している。

次から次に零れる雫が痛々しい。


「どうしてあなたが泣くんです?」

「っ、私、最低だもの…」


自分を最低だと罵る彼女。

私だって自分のやったことは最低だと自負しているが、それ以上に幸せいっぱいだからこの先今回のことで泣くことなんて絶対にないと胸を張って言える。


「グレイスさん、最低なのはこの計画を持ちかけた私達ですわ」

「それでもっ、この計画に、自分から乗っかったのは…私だわっ」

「目の前に人参をぶら下げられたら馬は勢いよく走り出すに決まってます。あんまり気にしない方がよろしいのでは?」

自分を馬に例えられたからか、少しだけムッとした表情に以前のグレイスさんの面影を感じてホッと息をついた。


「媚薬を使ったから何なのです?自分から手を出したのは殿下でしょう?」

「媚薬なんて使われた状態で女性と過ごせば誰だってそういう行為に走ってしまいますわ…」


「それは据え膳を食らってしまった殿下が悪いのですよ。そもそも殿下の普段の行いが良ければ媚薬を盛られて罠に嵌められた被害者で十分通用したはずですわ」

それができなかったのは、普段から信頼を失うような行為に明け暮れた殿下の責任だ。


「それに、本当にまずいと思っていたのなら、自力で媚薬の効果を打ち消すくらいの些細な治癒魔法をあの殿下が使わないわけありません。グレイスさんに渡した耐魔のブレスレットは付けた本人にしか効きませんから」

彼が据え膳をしっかり平らげる性格で心底安心した。


「…でもっ」

「殿下は日頃から扱いにくい私に不満をもらしていましたわ。グレイスさんが婚約者になった方が殿下にとっても都合が良かったのだと思います」

お茶をしている時も、私には面白みがないなどと常々ぼやいていた。

それが嫌だったのかどうかと言われたらよくわからないしどうでもいいけど。

グレイスさんの気持ちを晴らすためだ。


「…殿下は、アーシェさんと破談になってもよろしかったと言うの?」

「そうですね。殿下は私に特段固執なんてしていませんし…私の前で堂々と女遊びを公言する方ですわよ?」


これで破談したくなかったと言うのならば殿下は完全に頭がおかしいと思うし。


「だからグレイスさんは何も気にせずお腹の子のことを考えて、健やかにしていて下さい。せっかく大好きな殿下と結婚できるんですから!」

「まだ子どもができたとは限りません!…でも、ありがとう、アーシェさん。私頑張ります。いつか殿下が私に振り向いてくれるろうに、努力しますわ!」

「それでこそグレイスさんです!」


うんうん、元気な方がグレイスさんらしい。



「ちなみに…初めてってやっぱり痛いんですか?」

これは絶対に聞いておきたいと思っていた。


「っ、下品ですわ!」

「教えてくださいよぅ…将来の妹ですよ、私」

「弟とのそういう話題は想像したくありませんわ…」


私はカイのことではなく、ディラン殿下とグレイスさんのことを聞いているのに。

顔を真っ赤にするグレイスさんに収穫はなしかと諦めかけた時、彼女は小さな声で口を開いた。



「その、殿下は、本番の前に…たくさん愛してくれたから…痛くは、なかったですわ」

「生々しいっ!!!」

「っ、アーシェさんが聞いてきたんでしょう!?カイがそういうことが下手でも知りませんわよ!」


うっ…不吉なことを!

ちょっとだけ怖くなってしまったじゃないか。



「グレイスさんも元気になったみたいですし、私はカイのところに戻りますね」

「ええ、本当にありがとう。殿下を罠に嵌めてしまった私が幸せになれるかなんてわからないけど…まずはしっかり謝って、誠意を伝えていくしかないわ」


「そうですか」


罠に嵌めた、か。

グレイスさんは殿下を罠に嵌めたと言うが、私からすると、グレイスさんも立派な被害者だ。


例えそれが彼女の望む未来だったとしても、私達の未来のためにグレイスさんを利用したことには変わりないのだから。


どうか彼女が目一杯の幸せを掴むことができますように。

ついでに殿下も、グレイスさんと一緒に幸せになってほしい。



沈みかけた気持ちを振り払うように、扉を開けて愛しい人に駆け寄る。


「おつかれさま、アーシェ」

「うん…ちょっと疲れちゃった」


カイの温かい胸にそっと体を預けた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~

黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」 派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。 彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。 相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。 「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。 しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!? 無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。 二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

捨てられた公爵令嬢は氷の宰相に愛されすぎて困っています 〜婚約破棄の果てに見つけた真実の愛〜

nacat
恋愛
婚約者の王太子に「平民上がりの令嬢が」と断罪された公爵令嬢・リリアーナ。 居並ぶ貴族の前で婚約破棄を告げられ、家を追放された彼女の前に現れたのは、氷の宰相と恐れられる冷徹な美貌の青年、アラン・グレイス。 無表情で冷たいと噂された彼が見せたのは、誰も知らないほど深い優しさと狂おしいほどの独占欲だった。 最果ての領地で始まる、ざまぁと溺愛の逆転劇。 そして、王国を揺るがす陰謀の真実が明らかになるとき、二人の愛はすべてを変える――。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

白い結婚だったはずなのに、少し糖度が高すぎる気がするのですが。~殿下が今更復縁を懇願してきましたが、もう遅いです~

水上
恋愛
王太子から理不尽に婚約破棄された伯爵令嬢ヴィオラ。 しかし、実は彼女のその知識は、国を支える要だった。 「お前の知識と技術が必要だ」 そんな彼女を拾ったのは、強面で料理上手の辺境伯。 契約結婚から始まった二人は、領地の改革に着手する。 その過程で、二人の関係性も徐々に進展していき……。 一方、彼女を捨てた王宮はボロボロに崩れ始め……?

婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ
恋愛
​「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」 ​婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。 泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。 ​「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」 ​汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。 「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。 ​一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。 自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。 ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。 ​「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」 ​圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

婚約破棄されたはずなのに、溺愛が止まりません!~断罪された令嬢は第二の人生で真実の愛を手に入れる~

sika
恋愛
社交界で名高い公爵令嬢・アイリスは、婚約者である王太子に冤罪をでっち上げられ、婚約破棄と同時にすべてを失った。 誰も信じられず国外に逃れた彼女は、名を偽り辺境の地で静かに生きるはずだった――が、そこで出会った青年将軍が、彼女に異常なまでの執着と愛を向け始める。 やがて明らかになる陰謀の真相、そして王都から彼女を探す“元婚約者”の焦燥。 過去を乗り越え、愛を選ぶ彼女の物語は、痛快な逆転劇と甘く濃密な溺愛とともに幕を開ける。

処理中です...