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身代わりの魔女
しおりを挟む「魔女ウルティア!国王陛下はそなたに聖女様に代わり国の防衛のため尽力することを望まれていらっしゃる!我々と共に来てもらおう。これは何よりも貴い国王陛下直々の命である!拒否権は存在しない」
朝早くから、人里離れた森の奥にひっそりと佇むこんなボロ屋に誰が訪ねて来たかと思えば…国王陛下からの使者だなんて。
驚きすぎて目ん玉が飛び出そうだ。
…しかも、聖女様の代わりだなんて。
いったい国王陛下は何を考えているのだろう。
私は聖女とは対極ともいえる闇の魔力を扱う魔女だというのに。
いや、確かにね。
確かに、魔女だって…本気を出せば、国防に手を貸せたりするかもしれないけどさ。
…きっと魔物なんかに対するような国防だろうし。
過去には魔物を撃退してきた魔女だって存在して、その方法は魔女の間ではそこそこ知れ渡っていたから私だって知っている。
でも、現実問題…やりたくはないよね。
「断ったら、どうなるんですか」
「良くて終身刑だ」
それって悪ければ極刑ってことですよね?
この国の極刑はそれはもう悲惨だ。
拷問を受けた末の処刑。
考えただけで血の気が引いてしまう。
私はただのんびりと好きなことをして生きていたいだけなのに、こんなのあんまりだ。
たまに働いて、薬なんかを街に下ろして…月に一度くらいは少し贅沢なご飯を食べて、まったり森の中で本を読んだり植物を育てたりしていたいだけなのに。
「なに、王宮で三食昼寝つき、少し魔物を討伐するだけの簡単な仕事だ。たっぷり拷問を受けた後に斬首刑を執行させるのとどちらがいいかしっかり考え給え」
そんなのもう選択肢なんてないでしょう。
「………陛下の命を受け入れます」
「おお、よく決心してくれた!賢明な判断だ。この国の未来は明るい!」
唇を噛み締めて使者である男をじっと睨んだ。
「…聖女様は、どうしたんです?」
魔物が湧きやすいこの国には、代々それらを鎮める聖女様がいるはずだ。
「そうか、こんな山奥には噂すらも届いていないのか。もはや国中が知っていることだが、聖女は駆け落ちして王宮から逃げだしたのだ」
「駆け落ち?」
聖女が…?
「今まで従順な様子だったから油断していた。全く、あれは国を守る聖女としての自覚が甘かったのだ。見つけ出したら陛下もただでは済まさないだろう」
聖女に対する言い草に怪訝そうな表情をした私に気づき、男は話題を変えるように言葉を続ける。
…聖女への扱いは、これからの私への扱いだと考えていいだろう。
「聖女と駆け落ちしたのは聖女の護衛を担当している第二騎士団の団長なのだが、あれも捕まれば極刑は免れんだろう。聖女を誑かすなど、国家転覆罪にも値するわ」
「……聖女は恋愛も自由にできなかったんですね」
不自由な生活を強いられていたことは簡単に想像できた。
…ますます王宮になんて行きたくない。
この国で暮らしている以上、国のトップから逃げおおせるとはとても思えない。
それに、何もしないままでは、そもそも国の存続すら危ういのだから仕方ないか。
私は着の身着のまま、使者が乗ってきた馬車に乗り込み、王宮を目指した。
絶対帰ってくるからね。
小さくなっていく我が家を窓から眺めながら、そんなことを思った。
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