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前公爵夫妻
しおりを挟む公爵家に帰ってすぐ、誰にも会わないように自室に閉じこもる。
しばらくすると兄が帰ってきて父や義母に事情を説明したのか、内容は聞こえないまでも、どこか騒がしい音が耳に届いた。
(カティ元気だして~)
(グレンと初めてのけんかねっ!)
(カティ悪くないの~)
妖精さん達は私を慰めてくれているようだ。
ユーリのことを悪く言われた時、燻っていた思いをグレン兄様に少しでも吐き出せたのは良いが、暴力という手段を選んでしまったことには多少なりとも罪悪感を感じた。
(エクルはどうなるのかしら…)
妖精さんなら知っているかもしれないと思って聞いてみると、彼らはまた口を開いた。
(あのアホの子は侯爵家追放だよ~)
(労働階級に落とされるのねっ!)
(カティを虐めた報いなの~)
(そう、労働階級に…)
公爵家の娘として望んだものは全て手に入れてきた彼女にとって、これからの生活は大変厳しいものになるだろう。
少し不憫に思ったが、結果的に彼女をそんな状況に追い込んだ私に同情する資格はない。
その夜はずっと、嘆くような怒ったような叫び声が遠くで聞こえて、私は結局一晩中眠ることができなかった。
ぼんやりとする思考がカーテンの隙間からもれてきた陽の光に少しだけ覚醒する。
窓を全開に開けるお、遠くの海から上ってきたばかり朝日がキラキラと輝いていた。
どうしてか、涙が滲む。
昨日はいろんなことがあって心の整理ができていないのかもしれない。
(カティおはよ~)
(酷いくまねっ!)
(元気にしてあげるの~)
妖精さん達がふわふわと近づいてくると、何やら温かい空気に包まれる。
心地よいこの感覚は回復魔法の一種なんだと思う。
寝てないはずなのに一気に気分が爽快になってしまった。
(いつもありがとう)
(((どういたしまして~)))
それから、食事は自室で済ませ極力誰にも合わないように過ごした。
淡々としと過ぎる時間に、変化が起こったのはあの舞踏会から三日目の朝だった。
(((グレン来るよ~)))
どこか弾んだような妖精さん達の声だった。
とんとん、
その言葉通り、すぐに小さく扉をノックする音が聞こえる。
「…カティア」
「……」
どことなく気まずくて黙りを決め込んだ。
返事が返って来なくともどうでもいいのか、グレン兄様は扉越しに話し始める。
「エクルは侯爵家追放の上で、労働者階級に落ちることが決まった」
それはもう妖精さん達に聞いたわ。
「今日の正午、アボット前公爵夫妻が訪問される」
「…お祖父様達が?」
会うのはもう何年ぶりだろう。
何かと理由をつけて避けていた部分もある。
直接会えば侯爵家での冷遇を見透かされる気がしたから。
優しい人たちだから、心配はかけたくなかった。
それに、公爵家には公爵家の暮らしもあり、小さな子どもたちはまだまだ手のかかる年頃で…私にかまけている時間などないだろう。
「要件は以上だ。到着されたら声をかける。準備をしておけ」
そう言い残して去っていく足音が聞こえてきた。
正午と言えばもうあまり時間がない。
急いで支度をした。
用意が整った頃、使用人に呼ばれ応接間に向かうと、もう既に祖父母がソファに座っている姿が目に入った。
「カティア!」
「ああっ、会いたかったわ」
心配そうに眉を下げて私を呼ぶ彼らに、懐かしさからか瞳に涙が滲んだ。
「…お久しぶりです、お祖父様、お祖母様」
立ち上がった二人は私の元に近寄ってきて優しく抱きしめてくれた。
唇を噛み締めていないと、今にも雫が零れ落ちそうだった。
「カティア、今まで気づけなくてごめんなさい…」
謝罪の言葉を続けようとするお祖母様を、首を横に振って遮る。
アボット公爵家が謝る必要なんてどこなもないのだから。
「それで、今日はどういったご要件で…」
お父様のこれまでにないか細い声が聞こえた。
苦虫を噛み潰したような顔には焦りの色が浮かんでいる。
お祖父様達はお父様を冷たい目で一瞥すると、ソファに座り直した。
最初に口を開いたのはお祖母様だった。
「私達は今日、国王の言葉を借りてあなた方を断罪しに参りました」
凛とした声が響く。
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