42 / 73
二章 獣人の国
42 遠足に行こう(3)
しおりを挟む
獅子族の村の外れにあったのは大きな湖だった。
森に囲まれた中に佇む湖は輝くような深い青色で、サファイアを溶かし込んだような、でも透明度はアクアマリンのような、雪景色とも相まってとにかく宝石のような美しさだった。
「これは……すごい……」
「すごい!! こんなの見たことない!!」
「入ったらどうなるんだろう。冷たい?」
「あったりまえだろ! だってこんな色でも水だろ? 水だよな?」
子供たちもそれぞれが感動を言葉にしている。
「この湖はいつだってきれいだけど、冬が一番きれい。先生も気に入ってくれた?」
「えぇ、すごく! ありがとうスキラさん、スナフくん」
すぅ、と大きく息を吸って吐く。
この神秘的な場所からは何かパワーももらえそうな気がした。
「どうやってこんな綺麗な湖ができたんだろう?」
ハウさんがしゃがんで湖を覗き込みながら言った。
「近くに、川はなさそうだから、森からの湧水? かな。ここの地面の性質が、特殊なんだと思う」
私はハウさんの隣に行って同じようにしゃがんで湖面を見ながら推測した。
「次に行ってもいい?」
イサナさんが皆に聞いた。
全員が肯定の返事をした。
(皆切り替え早いなぁ)
私は歩き出そうとする皆を追って湖を背にした。
イサナさんが案内してくれたのは虎族の村ある自宅だった。
お家には両親とイサナさんの3人暮らしで、上にいる兄や姉たちは一人暮らしをしているという。虎族では15歳になると家を出て村内外に家を持って一人暮らしをするという伝統があると彼女が教えてくれた。
そのお家の一室、元々は一番上と二番目のお姉さんが使っていたという部屋には多くの衣服があった。
虎族の伝統衣装と思われる服からジルタニアで着られているようなワンピースまで様々だった。
「お姉ちゃん達ファッションが好きで、もう着ない服をたくさん置いていったんだ。全部お姉ちゃん達が作ったんだよ。わたし、お母さんが作る服よりここにある服が好き。こんな小さな村にいても、これ着てたら大きな街にいるお嬢様の気分になれるから」
イサナさんは虎族の衣装を着ているときもあるが、ワンピースやジルタニア風チュニックとズボンを着て登校することも多い。
他の子は部族の衣装の子が多いからファッションにこだわりがあるんだなぁと思っていたが、お姉さんからの影響だったのか。
「お姉さん達、すごい。先生も作ってもらいたいくらい」
なにせ手持ちの服は3着しかなく、自分で作る技術はない。
「先生の服は誰が作ったの?」
「これは買ったものだから、分からない」
「買ったもの!? すごい! 先生ってお金持ち?」
「ううん、全然、そんなことはない……」
イサナさんの勢いに少したじろいでしまった。
(ここで暮らすなら服も作れないと先々困るかしら)
薄々そう思ってはいたが、裁縫は苦手意識があって避けてきた。
(でも服を作る時間なんてないよね。今は先生業も忙しいし、普段だって治療師の仕事してるし、時間があったらナラタさんに生薬を教えてもらいたいし……)
服が入り用になったらマルティンさんに持ってきてもらおう。
裁縫はまた今度、問題を先送りにした。
「じゃあ次行くぞ! 俺のばーん!」
ジェスくんが大きく胸を張る。意気込みは十分のようだ。
「俺の秘密基地に案内するぜ!」
「……ボクたちの、だよ」
どうやら最後はジェスくんとエイドくんが秘密基地に案内してくれるらしい。
私達は2人の案内で虎族の村と熊族の村の間にあるという秘密基地へ向かった。
まずは熊族の村に行き、そこから森の中に入った。始めの方はきちんと道があったが次第に獣道になり、とうとう道らしいものがなくなっった。
「迷子にならない? 大丈夫?」
「大丈夫だって! いっつも通ってるとこなんだから!」
「目印があるから……迷子にはならないよ」
「目印?」
「ほら、ここの木、傷があるでしょう?……さっき通ってきたところには石を積んで作った目印があったよ」
エイドくんが言う目印に私は全く気づけなかった。木の傷も指差して教えてもらわないと分からない。
子供でも私よりよほど森歩きに慣れている。
「ねぇ、秘密基地ってどうやって作ったの?」
スキラさんが隣を歩くエイドくんに尋ねた。
「えっと……森で食べるものを探してた時に洞窟を見つけて、そこに毛布とかおやつとか持ち込んで、夜たまにそこで寝る」
「危なくない?」
大人として心配だ。ご両親はいいのだろうか?
「動物が近づいて来てたら気配で分かるし、槍とかナイフも置いてあるから大丈夫」
何が大丈夫なんだろうか?
「大丈夫よね。熊族だし」
スキラさんがそれで納得している。
「えっと、それで野生動物を、倒せる? クマとかが出ても?」
「先生、この辺りの森にクマは出ないわ。熊族や虎族の縄張りだもの」
そういうものなのか。
とにかく子供だけで居ても大丈夫なエリアなんだろうと思うことにした。なんだって親御さんが許可しているのだし。
多分私が思っていた以上に熊族の子達は頑強なのだ。
森に囲まれた中に佇む湖は輝くような深い青色で、サファイアを溶かし込んだような、でも透明度はアクアマリンのような、雪景色とも相まってとにかく宝石のような美しさだった。
「これは……すごい……」
「すごい!! こんなの見たことない!!」
「入ったらどうなるんだろう。冷たい?」
「あったりまえだろ! だってこんな色でも水だろ? 水だよな?」
子供たちもそれぞれが感動を言葉にしている。
「この湖はいつだってきれいだけど、冬が一番きれい。先生も気に入ってくれた?」
「えぇ、すごく! ありがとうスキラさん、スナフくん」
すぅ、と大きく息を吸って吐く。
この神秘的な場所からは何かパワーももらえそうな気がした。
「どうやってこんな綺麗な湖ができたんだろう?」
ハウさんがしゃがんで湖を覗き込みながら言った。
「近くに、川はなさそうだから、森からの湧水? かな。ここの地面の性質が、特殊なんだと思う」
私はハウさんの隣に行って同じようにしゃがんで湖面を見ながら推測した。
「次に行ってもいい?」
イサナさんが皆に聞いた。
全員が肯定の返事をした。
(皆切り替え早いなぁ)
私は歩き出そうとする皆を追って湖を背にした。
イサナさんが案内してくれたのは虎族の村ある自宅だった。
お家には両親とイサナさんの3人暮らしで、上にいる兄や姉たちは一人暮らしをしているという。虎族では15歳になると家を出て村内外に家を持って一人暮らしをするという伝統があると彼女が教えてくれた。
そのお家の一室、元々は一番上と二番目のお姉さんが使っていたという部屋には多くの衣服があった。
虎族の伝統衣装と思われる服からジルタニアで着られているようなワンピースまで様々だった。
「お姉ちゃん達ファッションが好きで、もう着ない服をたくさん置いていったんだ。全部お姉ちゃん達が作ったんだよ。わたし、お母さんが作る服よりここにある服が好き。こんな小さな村にいても、これ着てたら大きな街にいるお嬢様の気分になれるから」
イサナさんは虎族の衣装を着ているときもあるが、ワンピースやジルタニア風チュニックとズボンを着て登校することも多い。
他の子は部族の衣装の子が多いからファッションにこだわりがあるんだなぁと思っていたが、お姉さんからの影響だったのか。
「お姉さん達、すごい。先生も作ってもらいたいくらい」
なにせ手持ちの服は3着しかなく、自分で作る技術はない。
「先生の服は誰が作ったの?」
「これは買ったものだから、分からない」
「買ったもの!? すごい! 先生ってお金持ち?」
「ううん、全然、そんなことはない……」
イサナさんの勢いに少したじろいでしまった。
(ここで暮らすなら服も作れないと先々困るかしら)
薄々そう思ってはいたが、裁縫は苦手意識があって避けてきた。
(でも服を作る時間なんてないよね。今は先生業も忙しいし、普段だって治療師の仕事してるし、時間があったらナラタさんに生薬を教えてもらいたいし……)
服が入り用になったらマルティンさんに持ってきてもらおう。
裁縫はまた今度、問題を先送りにした。
「じゃあ次行くぞ! 俺のばーん!」
ジェスくんが大きく胸を張る。意気込みは十分のようだ。
「俺の秘密基地に案内するぜ!」
「……ボクたちの、だよ」
どうやら最後はジェスくんとエイドくんが秘密基地に案内してくれるらしい。
私達は2人の案内で虎族の村と熊族の村の間にあるという秘密基地へ向かった。
まずは熊族の村に行き、そこから森の中に入った。始めの方はきちんと道があったが次第に獣道になり、とうとう道らしいものがなくなっった。
「迷子にならない? 大丈夫?」
「大丈夫だって! いっつも通ってるとこなんだから!」
「目印があるから……迷子にはならないよ」
「目印?」
「ほら、ここの木、傷があるでしょう?……さっき通ってきたところには石を積んで作った目印があったよ」
エイドくんが言う目印に私は全く気づけなかった。木の傷も指差して教えてもらわないと分からない。
子供でも私よりよほど森歩きに慣れている。
「ねぇ、秘密基地ってどうやって作ったの?」
スキラさんが隣を歩くエイドくんに尋ねた。
「えっと……森で食べるものを探してた時に洞窟を見つけて、そこに毛布とかおやつとか持ち込んで、夜たまにそこで寝る」
「危なくない?」
大人として心配だ。ご両親はいいのだろうか?
「動物が近づいて来てたら気配で分かるし、槍とかナイフも置いてあるから大丈夫」
何が大丈夫なんだろうか?
「大丈夫よね。熊族だし」
スキラさんがそれで納得している。
「えっと、それで野生動物を、倒せる? クマとかが出ても?」
「先生、この辺りの森にクマは出ないわ。熊族や虎族の縄張りだもの」
そういうものなのか。
とにかく子供だけで居ても大丈夫なエリアなんだろうと思うことにした。なんだって親御さんが許可しているのだし。
多分私が思っていた以上に熊族の子達は頑強なのだ。
1
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる