その悪役令嬢はなぜ死んだのか

キシバマユ

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二章 獣人の国

43 遠足に行こう(4)

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 森に入り20分ほど歩き、秘密基地の洞窟に到着した。
 入り口は木の蔦で作ったらしいカーテンが掛けられていて、中を見せてもらうと床には布が敷いてあり、話の通り毛布も置いてある。他にもコマがあったり、木の板にくぼみが上下5つずつ、左右にはそれよりも大きなものが1つつけられたものと、おはじきのようなきれいな石がそのくぼみに入っていた。
 何かのボードゲームだろうか。
 とにかくワクワクするような空間が作られていた。

 「思ったより広いかも」
 「だろ?」

 ハウさんは興味深そうに辺りを見回している。

 「でも11人で入るとちょっと狭い」
 「いつもはボク達だけだからねぇ」

 狭苦しいのが嫌になったのかカーグさんが出て行ってしまった。

 「いいなーー! オレも秘密基地ほしー!」

 羨ましくなったらしいスナフくんは地団駄を踏んだ。

 「ここの秘密基地使う?」
 「オレの家からじゃ遠すぎる」
 「そうだよねぇ」
 「スキラ! オレ達も秘密基地作ろうぜ!」
 「うーん、まぁいい場所が見つかったらね」

 スキラさんは少し面倒くさそうに返事をしていた。

 (これで全員の紹介が終わったわね。皆のことを深く知られて、遠足をやってよかった)

 それに狼族の村の外に来られたことも有意義だったが、それぞれの村の伝統や習慣も知られてよかったと思う。
 私はここから学校に帰るまでにかかる時間を考えながらスカートのポケットから懐中時計を取り出した。
 その時刻、12時半。

 「っ、大変! もう帰る時間、過ぎてる!! みんな、早く戻りましょう!」
 「センセー、また学校に戻って家に帰るの面倒だしここから帰っていいー?」

 ジェスくんがすごくだるそうに両手を頭の後ろに組んで言った。

 「水筒も持ってきたから学校に取りに戻るものもないしそれがいいな」

 イサナさんや他の子も同意見のようだ。
 確かに今から学校に帰るより直帰の方が皆楽だろう。

 「そうね。そうしましょう。では、みなさんさようなら。気をつけて帰って」

 私も皆と一緒に今日は帰ることにした。
 今日の良き日のことは手紙に書いてマルティンさんに送ろう。そう思いながら。




 その夜、夕食を終え、今日は疲れたから何もせず早く寝ようとベッドに潜り込んだものの、なんだかいつも以上に寒くて体の震えが収まらず、まさかと思い体温計__もちろんデジタルではなく水銀式__で測ったら39度あった。
 完全に風邪だ。

 (ナラタさんに薬を作ってもらおう……)

 私は部屋を出てナラタさんの私室をノックした。

 「どうしたんだい?」

 私が居候を始めてから初めての夜間訪問に、ナラタさんは怪訝そうな顔をして出てきた。

 「熱が出て、薬を、作ってもらえないかと」
 「熱? 待っといで。すぐに作るよ」
 「ありがとう、ございます」

 ナラタさんはすぐに階段を下りて薬局に行こうとしたが、忘れてたというように私の方を振り返って、

 「他に症状は?」
 「ないです」

 それを聞くと階段を下りていった。
 私は一度部屋に戻って毛布に包まってから薬局に下りた。
 ナラタさんは蝋燭をつけてすでに薬草を煎じていた。

 「アンタが風邪なんて、ここに来て初めてだね。最近忙しかっただろ。疲れが出たのさ」
 「それもあると、思いますが……今日は遠足でずっと外に出てたから」
 「遠足?」

 私はナラタさんに午前中の間ずっと外を歩き回っていたことを話した。

 「ここらに住む獣人はそんなことじゃ熱は出さないけどねぇ。人間は寒さに弱いね」

 むしろ私からしたらここに住む人達は寒さに強すぎると思うのだが。

 「お湯を沸かしてきな」

 言われるままに台所に行って火を起こして鍋に火をかけた。
 そうしているうちに薬が出来上がり、薬草を袋に入れてお湯の中に入れて煮出し飲み薬が出来上がった。
 漢方のような、夏前の河川敷のような、強い草の匂いがする。
 一口飲むと強烈な味に髪の毛が逆立ちそうな気がした。

 『うぐっ……ニガッ……』
 「ちゃんと飲むんだよ」

 ナラタは言い残してさっさと部屋に戻ってしまった。
 私は時間をかけて息も絶え絶えになりながら飲み干した。
 その効果は抜群で、翌日には微熱程度に下がっていた。
 良薬は口に苦し、とはまさにこのことだと実感した。
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