44 / 73
二章 獣人の国
44 学校で怪我
しおりを挟む
それは算数の授業中のことだった。
この日は100までの数字の読み方と書き方、数え方を教えていた。
(1から10までの数は覚えたけど、それ以上の数字は必要に応じて調べていたからこれは数字を覚えるいい機会ね)
ストゥフ校長のおかげで、こうして言葉を聞き話す機会に恵まれ、1年生の国語や算数を勉強することで語学力はメキメキ上がっている。
子供たちや社会の教科書からはこの国のことや村のことも知ることができた。
最初はどうなることかと思った臨時教師も、やってみれば勉強になることばかりで、今ではストゥフ校長に感謝している。
なんてことを考えつつ授業をしていると、どこかの教室で騒いでいる音がうっすら聞こえてきた。
(そんなに盛り上がる授業をしてるの? 席替えとか?)
なんて考えていると、誰かが廊下を走る音が聞こえてきて、足音が近づいてきているなんて考える間もなくいきなりこの教室の扉がバンッと開けられた。
「ナオ先生! 助けてください!」
何事かと驚き扉の方を見ると、5年生の担任をしているジェム先生だった。
「どうしたんですか?」
「子供が怪我をして! 血が!」
ジェム先生は相当に気が動転していた。
「落ち着いて。どこですか? 案内を」
「こっちです!」
彼のあとを小走りでついていき5年生の教室に入った。
怪我人はすぐに分かった。
割れた窓ガラスの下でライオンの男の子が腕から血を流し座り込んでいた。
私はすぐに駆け寄った。
「ちょっと見せてね」
人型の腕の外側は肘から手首あたりにかけてざっくり切れて、そこからダラダラと出血していた。
私はその上に手をかざし、
「行使:検査」
検査《スキャン》で傷の具合を見ると大きな血管は傷つけていなかった。
(だったら逆行治療《レトラピー》より再生治療《プロモーティオ》の方が早いし負担が少ないわ)
「行使:再生治療。ちょっと痛むけど我慢してね」
「ううぅぅっ!」
魔法をかけると怪我はみるみる治り、ものの1分程度で終わった。
「治ったよ」
私が腕にべったりとついた血をハンカチで拭ってやると、そこにはもうシミひとつない綺麗な肌に戻っていた。
「ほんとだ……治ってる。先生ありがとうございます」
動物型の顔の彼はヒゲをヒクヒクさせてニカッと笑った。
「あの先生、一体、何があったんです?」
私は後ろで治療を見守っていたジェム先生を振り返って尋ねた。
「彼とこの子が喧嘩を始めてしまいましてね。ほら、理由はどうあれ怪我をさせたんだから謝りなさい!」
ジェム先生の横にいた男の子が涙目だった。
「ごめん、ジャオ」
何かのきっかけで取っ組み合いの喧嘩になったのだろう。そして勢い余って窓ガラスに突っ込んでしまった。そういう状況だったようだ。
(獣人の子同士だと喧嘩のときのパワーも人間の比じゃなさそうね)
気をつけないと人間の私は下手に巻き込まれたら大怪我をしかねない。
「センセーすげー!」
「あっ! あなたたち、教室で待ってなかったの!?」
1年生のみんなが廊下からずっと見ていたようだ。怪我人しか見えていなかった私は今の今まで気づかなかった。
「先生って本当に治療魔法師だったのね」
「……初めて魔法見た」
「ほらみんな、教室に、戻りましょう!」
私はクラスの子供たちを引き連れていそいそと教室に戻った。
翌日、朝の挨拶当番で校門の前に立っていると、何だか多くの視線を集めているような感覚があった。
「おはようございます!」
そして元気のいい挨拶をもらった。
この子は朝良い事があったのかななんて思っていたら他の子も同じように元気な挨拶をしてくれた。
「今日は、何だか皆、元気がいいですね?」
私は同じ挨拶当番で向かい側にいたティナ先生に話しかけた。
「みんなまたあなたの魔法が見られないかって期待してるのよ。聞いたわよ、昨日大活躍だってんですって?」
「また魔法を……? ただ治療しただけですよ?」
昨日の出来事に何か背びれ尾びれのついた噂にでもなっているのだろうか。
「この辺りじゃ治療魔法を見る機会なんてないから大興奮よ。瞬く間に怪我が治ったって昨日からみんなその話をしてるわよ!」
「そっそうなんですか。……でも、治療魔法は使う時が来ない方が、いいんですが」
「それもそうだけどね~」
昨日の話はすでに全校児童に広まっているらしい。
誰も彼もがキラキラした目で私を見ながら学校に入っていく。
本来ならご期待には応えたいが、こればかりはいただけない。『もう治療魔法を披露することがありませんように』と心の中で祈った。
この日は100までの数字の読み方と書き方、数え方を教えていた。
(1から10までの数は覚えたけど、それ以上の数字は必要に応じて調べていたからこれは数字を覚えるいい機会ね)
ストゥフ校長のおかげで、こうして言葉を聞き話す機会に恵まれ、1年生の国語や算数を勉強することで語学力はメキメキ上がっている。
子供たちや社会の教科書からはこの国のことや村のことも知ることができた。
最初はどうなることかと思った臨時教師も、やってみれば勉強になることばかりで、今ではストゥフ校長に感謝している。
なんてことを考えつつ授業をしていると、どこかの教室で騒いでいる音がうっすら聞こえてきた。
(そんなに盛り上がる授業をしてるの? 席替えとか?)
なんて考えていると、誰かが廊下を走る音が聞こえてきて、足音が近づいてきているなんて考える間もなくいきなりこの教室の扉がバンッと開けられた。
「ナオ先生! 助けてください!」
何事かと驚き扉の方を見ると、5年生の担任をしているジェム先生だった。
「どうしたんですか?」
「子供が怪我をして! 血が!」
ジェム先生は相当に気が動転していた。
「落ち着いて。どこですか? 案内を」
「こっちです!」
彼のあとを小走りでついていき5年生の教室に入った。
怪我人はすぐに分かった。
割れた窓ガラスの下でライオンの男の子が腕から血を流し座り込んでいた。
私はすぐに駆け寄った。
「ちょっと見せてね」
人型の腕の外側は肘から手首あたりにかけてざっくり切れて、そこからダラダラと出血していた。
私はその上に手をかざし、
「行使:検査」
検査《スキャン》で傷の具合を見ると大きな血管は傷つけていなかった。
(だったら逆行治療《レトラピー》より再生治療《プロモーティオ》の方が早いし負担が少ないわ)
「行使:再生治療。ちょっと痛むけど我慢してね」
「ううぅぅっ!」
魔法をかけると怪我はみるみる治り、ものの1分程度で終わった。
「治ったよ」
私が腕にべったりとついた血をハンカチで拭ってやると、そこにはもうシミひとつない綺麗な肌に戻っていた。
「ほんとだ……治ってる。先生ありがとうございます」
動物型の顔の彼はヒゲをヒクヒクさせてニカッと笑った。
「あの先生、一体、何があったんです?」
私は後ろで治療を見守っていたジェム先生を振り返って尋ねた。
「彼とこの子が喧嘩を始めてしまいましてね。ほら、理由はどうあれ怪我をさせたんだから謝りなさい!」
ジェム先生の横にいた男の子が涙目だった。
「ごめん、ジャオ」
何かのきっかけで取っ組み合いの喧嘩になったのだろう。そして勢い余って窓ガラスに突っ込んでしまった。そういう状況だったようだ。
(獣人の子同士だと喧嘩のときのパワーも人間の比じゃなさそうね)
気をつけないと人間の私は下手に巻き込まれたら大怪我をしかねない。
「センセーすげー!」
「あっ! あなたたち、教室で待ってなかったの!?」
1年生のみんなが廊下からずっと見ていたようだ。怪我人しか見えていなかった私は今の今まで気づかなかった。
「先生って本当に治療魔法師だったのね」
「……初めて魔法見た」
「ほらみんな、教室に、戻りましょう!」
私はクラスの子供たちを引き連れていそいそと教室に戻った。
翌日、朝の挨拶当番で校門の前に立っていると、何だか多くの視線を集めているような感覚があった。
「おはようございます!」
そして元気のいい挨拶をもらった。
この子は朝良い事があったのかななんて思っていたら他の子も同じように元気な挨拶をしてくれた。
「今日は、何だか皆、元気がいいですね?」
私は同じ挨拶当番で向かい側にいたティナ先生に話しかけた。
「みんなまたあなたの魔法が見られないかって期待してるのよ。聞いたわよ、昨日大活躍だってんですって?」
「また魔法を……? ただ治療しただけですよ?」
昨日の出来事に何か背びれ尾びれのついた噂にでもなっているのだろうか。
「この辺りじゃ治療魔法を見る機会なんてないから大興奮よ。瞬く間に怪我が治ったって昨日からみんなその話をしてるわよ!」
「そっそうなんですか。……でも、治療魔法は使う時が来ない方が、いいんですが」
「それもそうだけどね~」
昨日の話はすでに全校児童に広まっているらしい。
誰も彼もがキラキラした目で私を見ながら学校に入っていく。
本来ならご期待には応えたいが、こればかりはいただけない。『もう治療魔法を披露することがありませんように』と心の中で祈った。
10
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる