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第9話 鬼と蛇
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明るいところから室内に入ったので、一瞬視界が奪われた。
「なんだお前か」
サクラに対して向けられた声は若い男性のものだった。
ちっ、男か。
残念がる篠宮の目が慣れるにつれ、あたりの様子がわかってく——。
「な?」
目の前にいたのは、身の丈2メートルはあるガタイの良い男——というよりその額にある二本の角と口元から見える牙を見る限り——鬼。
赤みがかった肌の筋骨逞しい身体を制服に無理やり詰め込んで、胸元を開けたノーネクタイ姿で篠宮を見下ろしている。
「鬼ぃ⁈」
篠宮が叫ぶと、鬼は翡翠色の瞳でギロリと睨んだ。反射的に篠宮はサクラの背後に隠れる。
「ひいいい!」
「情けない声を出すな」
「なんだそいつは?」
鬼は篠宮に指を突きつけてくる。その先には鋭い爪が付いていた。目の前にそれを見せられて、篠宮の血の気はさらに引いて行く。
サクラは片脚で背中に引っ付いた篠宮を剥がしながら、何ということもなく話を続ける。
「今日、赴任してきた新任教師の篠宮ツカサだ。好きに使ってくれ」
えええ?
好きにってどういうこと!?
鬼は、ギョッとする篠宮の襟首を摘むと軽く持ち上げた。まるで捕まった猫みたいだ。
「あは、あはは……」
愛想笑いをする篠宮は早く下ろしてくれと願うばかりだ。足が床についてないせいで不安が更に増す。
鬼はつまらなそうに篠宮をヒョイと投げると、サクラに向き直った。投げられた篠宮は「ばふっ」と何か柔らかい物に受け止められた。
「人の教員は要らねぇ。連れて帰れ」
鬼はゴツい指先をサクラに向けると、そう言い放った。
「そう言うな、鬼丸。こう見えてもShinomiya の跡取りらしいぞ」
怯える風もなく、サクラは無表情のままだ。その堂々とした凛々しい姿に見惚れながら、篠宮は自分を受け止めてくれた柔らかい物に手を付いて立ち上がろうとした。
ふにっ。
「え?」
彼が触れたのはひんやりと冷たく、でも柔らかで滑らかだった。
生き物の感触。
ゆっくりと目線を向ける。
自分が触ったのは、滑らかで青と緑との妖しい光を放っている。でもこのふわふわの感触は——。
「ふうん、Shinomiya の人間なんだ?」
それは彼に声をかけてきた。
篠宮が目線を上げて行くと、そこには美しい顔がある。ほっそりとした小さな顔に明るい色の瞳。
しかしその瞳の中の瞳孔は細い縦の三日月型。顔以外の場所は細かな鱗で覆われている。そして亜麻色の髪をショートカットにしていて、こめかみから生えている少量の羽毛がその異形の美しさに彩りを加えていた。
——どちらかと言えば、蛇。
全身青と緑の鱗を身に纏っている彼女は衣服を身につけておらず、そのバランスの取れたプロポーションの見事さがあらわになっていた。
篠宮が触れていたのはその見事な双丘——。
「あっ、えっ?」
「何? 気味が悪い?」
薄く笑うその口から長い舌がちらりと見えた。
ぞくぞくッ。
篠宮の背にえもいわれぬ刺激が走る。彼ならではの現象だろう。初対面の衝撃からヒョイと立ち直ると、すかさず彼女の手を取った。
滑らかな鱗は宝石の様に煌めいている。
彼はその手を握りしめると、にこやかに元気よく挨拶した。
「現代国語担当の篠宮です! 以後よろしく!」
つづく
「なんだお前か」
サクラに対して向けられた声は若い男性のものだった。
ちっ、男か。
残念がる篠宮の目が慣れるにつれ、あたりの様子がわかってく——。
「な?」
目の前にいたのは、身の丈2メートルはあるガタイの良い男——というよりその額にある二本の角と口元から見える牙を見る限り——鬼。
赤みがかった肌の筋骨逞しい身体を制服に無理やり詰め込んで、胸元を開けたノーネクタイ姿で篠宮を見下ろしている。
「鬼ぃ⁈」
篠宮が叫ぶと、鬼は翡翠色の瞳でギロリと睨んだ。反射的に篠宮はサクラの背後に隠れる。
「ひいいい!」
「情けない声を出すな」
「なんだそいつは?」
鬼は篠宮に指を突きつけてくる。その先には鋭い爪が付いていた。目の前にそれを見せられて、篠宮の血の気はさらに引いて行く。
サクラは片脚で背中に引っ付いた篠宮を剥がしながら、何ということもなく話を続ける。
「今日、赴任してきた新任教師の篠宮ツカサだ。好きに使ってくれ」
えええ?
好きにってどういうこと!?
鬼は、ギョッとする篠宮の襟首を摘むと軽く持ち上げた。まるで捕まった猫みたいだ。
「あは、あはは……」
愛想笑いをする篠宮は早く下ろしてくれと願うばかりだ。足が床についてないせいで不安が更に増す。
鬼はつまらなそうに篠宮をヒョイと投げると、サクラに向き直った。投げられた篠宮は「ばふっ」と何か柔らかい物に受け止められた。
「人の教員は要らねぇ。連れて帰れ」
鬼はゴツい指先をサクラに向けると、そう言い放った。
「そう言うな、鬼丸。こう見えてもShinomiya の跡取りらしいぞ」
怯える風もなく、サクラは無表情のままだ。その堂々とした凛々しい姿に見惚れながら、篠宮は自分を受け止めてくれた柔らかい物に手を付いて立ち上がろうとした。
ふにっ。
「え?」
彼が触れたのはひんやりと冷たく、でも柔らかで滑らかだった。
生き物の感触。
ゆっくりと目線を向ける。
自分が触ったのは、滑らかで青と緑との妖しい光を放っている。でもこのふわふわの感触は——。
「ふうん、Shinomiya の人間なんだ?」
それは彼に声をかけてきた。
篠宮が目線を上げて行くと、そこには美しい顔がある。ほっそりとした小さな顔に明るい色の瞳。
しかしその瞳の中の瞳孔は細い縦の三日月型。顔以外の場所は細かな鱗で覆われている。そして亜麻色の髪をショートカットにしていて、こめかみから生えている少量の羽毛がその異形の美しさに彩りを加えていた。
——どちらかと言えば、蛇。
全身青と緑の鱗を身に纏っている彼女は衣服を身につけておらず、そのバランスの取れたプロポーションの見事さがあらわになっていた。
篠宮が触れていたのはその見事な双丘——。
「あっ、えっ?」
「何? 気味が悪い?」
薄く笑うその口から長い舌がちらりと見えた。
ぞくぞくッ。
篠宮の背にえもいわれぬ刺激が走る。彼ならではの現象だろう。初対面の衝撃からヒョイと立ち直ると、すかさず彼女の手を取った。
滑らかな鱗は宝石の様に煌めいている。
彼はその手を握りしめると、にこやかに元気よく挨拶した。
「現代国語担当の篠宮です! 以後よろしく!」
つづく
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