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『遊びだって事にも気付かなかったのか?』
その言葉は思ったよりも純花にダメージを与えた。あれから純花は何をしても、何も感じなくなっていった。
いつも笑顔だった純花から笑顔が消え窶れていくのを、周りの者は心配したが、純花が何も言わないため歯噛みしながら見守ることしかできなかった。
ただ一人、原因に心当たりあった男は、にっこりと笑みを浮かべるとすぐに行動を起こした。その笑みを見たもの全員が恐怖に打ち震えたのは余談である。
純花はトボトボとショッピングモールを歩いていた。大上との初めてのデートの場所である。ここに来ようと思ってなかったのだが、気付いたらここに居た。純花は寂しげな笑みを零す。
ふと顔を上げると、赤いポンチョを買った店の前にいた。あの時ポンチョが飾られていたガラスケースに、その赤いポンチョを着た純花の姿が映る。しかし、その中には、パステルカラーの服が飾られていた。純花の視界が歪む。
滲んだ涙を、グイッと裾で拭うと純花はその店から視線を引き剥がした。
歩き出した純花の前に、いくつか影が立ち塞がった。
男はイライラしていた。その雰囲気に周りがそっと道をあけ、その代わりにひそひそと話の種にされる。男が苛立った視線を向けると、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
男はここのところ毎日、それもかなりの数ついているため息を噛み殺した。ふと脳裏に浮かんだ姿を、頭を振って散らす。男にはやることがあった。男は再び歩き出す。
しかし、その歩みはすぐに止めることになった。見覚えのある姿が目に入ったためである。男は奥歯を噛み締め、その前を通り過ぎようとした時。
「おいおい。無視は酷いんじゃないかい?」
呑気な声に、男は舌打ちをした。今一番顔を合わせなくない男に出くわした。男はジロリと相手を見た。
「俺に何か用か?」
「今度は立場が逆だね、大上君?」
狩野はそう言ってカラリと笑った。
二人は暫く睨み合ったままだった。先に口火を切ったのは狩野だった。
「それで?どういうつもりかな?」
男はむっつりと口をつぐむ。その様子に狩野の笑みが更に深まる。
「歯ぁ、食いしばれ?」
その言葉が聞こえてきた瞬間には、男は思い切り殴られていた。口の中に鉄の味が広がる。黙って狩野を睨むと、狩野は冷笑を浮かべた。
「言ったよね?あの子を泣かしたり、あの子に何かしたらタダじゃあおかないってさ」
それでぇ?と狩野は一層冷ややかに笑む。
「どういうつもり?」
男は黙り込んだままだ。狩野はそれが気に食わないらしい。表情を消して、胸ぐらを掴む。
「何とか言ったら?」
すると、男はゆっくりと狩野の手首を掴み胸ぐらから引き離すと、昏い目で狩野を見返す。
「お前には、関係ない」
狩野の額に青筋が浮かぶ。凄まじい勢いで拳が男に迫った。その時。
ピリリリリリリと電子音が鳴り響く。それに気を取られて微かにズレた拳を男はスッと避けると、スマホを取り出した。画面をみて訝しげな顔をした男は、次の瞬間、一気に顔を強張らせた。
「純花!」
動揺しきって叫ぶ男の言葉に狩野がすかさず反応する。男の手からスマホを奪うと、メールが開かれていた。
『可愛い女、ゲット』
その文面と共に添付された写真に写っていたのはぐったりとした純花だった。狩野はスマホを放り出し、男を締め上げる。
「これはどういう事かな?」
絶対零度の笑みを浮かべつつガクガクと揺すってくる狩野をどうにか引き剥がした男はスマホを拾いに行く。真剣な顔でスマホを覗き込む男に、狩野が怒鳴る。
「大上‼」
「黙ってろ‼今すぐどうにかしないと面倒な事になる!!」
怒鳴り返した男を狩野が睨む。暫くしてハッと顔を上げた男は走り出そうとするが、その前に狩野が滑り込む。
「どけ‼聞いていなかったのか?!早く行かないと」
「その前に、状況を、教えて、くれないかな?」
にっこりと笑む狩野から発されるプレッシャーに、そんな時間は無いと怒鳴ろうとした男が黙る。仕方なく早口に説明する。
「これを送って来たのは、昔の仲間だ」
「昔、ねぇ」
意味ありげに見てくる狩野を男はイライラと睨む。
「昔から腕っぷしにだけは自信があってな。その縁でそいつらに絡まれたんだ。単純なアイツらの行動が心地よかったのもあって暫くつるんでたんだ。けど、ただ見てただけっていう理由でガキを一人ボロボロにしたことがあって、その時に縁を切ったつもりだったのだがな」
「切れてなかった、と」
茶化す狩野に男は何も言わない。だが、その沈黙が肯定を表していた。
「…縁を切った時、逆ギレされて潰した。それを恨んでいるとしたら、今回の狙いは俺だ」
「もしかして、それを事前に知ってて、純花を遠ざけたとでも言うつもり?」
男は言葉に詰まった。瞳を揺らす男に、狩野が冷笑を再び浮かべた。
「それで失敗してちゃあ、意味ないよね?」
ざまぁない。侮蔑の言葉に黙って拳を握る男。ちらりと見えたその手のひらには、真新しい傷がいくつもあった。狩野はそれに目を細めると、男に声をかけた。
「とりあえず、案内してくれるかな?」
怪訝そうに見てくる男に狩野はカラリと笑った。
「先に、純花を助けないとねぇ。場所、分かるんでしょ?」
分からないとは言わせないよ、と顔に書く狩野に男は顔を引きつらせる。一瞬迷ったようだが、すぐに走り出す。今度は狩野も止めることなくついていく。
「可愛い僕の純花に手を出した事、ちゃんとお礼をしなきゃね?」
後ろから聞こえた至極楽しそうな呟きを、男は聞かなかったことにした。
その言葉は思ったよりも純花にダメージを与えた。あれから純花は何をしても、何も感じなくなっていった。
いつも笑顔だった純花から笑顔が消え窶れていくのを、周りの者は心配したが、純花が何も言わないため歯噛みしながら見守ることしかできなかった。
ただ一人、原因に心当たりあった男は、にっこりと笑みを浮かべるとすぐに行動を起こした。その笑みを見たもの全員が恐怖に打ち震えたのは余談である。
純花はトボトボとショッピングモールを歩いていた。大上との初めてのデートの場所である。ここに来ようと思ってなかったのだが、気付いたらここに居た。純花は寂しげな笑みを零す。
ふと顔を上げると、赤いポンチョを買った店の前にいた。あの時ポンチョが飾られていたガラスケースに、その赤いポンチョを着た純花の姿が映る。しかし、その中には、パステルカラーの服が飾られていた。純花の視界が歪む。
滲んだ涙を、グイッと裾で拭うと純花はその店から視線を引き剥がした。
歩き出した純花の前に、いくつか影が立ち塞がった。
男はイライラしていた。その雰囲気に周りがそっと道をあけ、その代わりにひそひそと話の種にされる。男が苛立った視線を向けると、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
男はここのところ毎日、それもかなりの数ついているため息を噛み殺した。ふと脳裏に浮かんだ姿を、頭を振って散らす。男にはやることがあった。男は再び歩き出す。
しかし、その歩みはすぐに止めることになった。見覚えのある姿が目に入ったためである。男は奥歯を噛み締め、その前を通り過ぎようとした時。
「おいおい。無視は酷いんじゃないかい?」
呑気な声に、男は舌打ちをした。今一番顔を合わせなくない男に出くわした。男はジロリと相手を見た。
「俺に何か用か?」
「今度は立場が逆だね、大上君?」
狩野はそう言ってカラリと笑った。
二人は暫く睨み合ったままだった。先に口火を切ったのは狩野だった。
「それで?どういうつもりかな?」
男はむっつりと口をつぐむ。その様子に狩野の笑みが更に深まる。
「歯ぁ、食いしばれ?」
その言葉が聞こえてきた瞬間には、男は思い切り殴られていた。口の中に鉄の味が広がる。黙って狩野を睨むと、狩野は冷笑を浮かべた。
「言ったよね?あの子を泣かしたり、あの子に何かしたらタダじゃあおかないってさ」
それでぇ?と狩野は一層冷ややかに笑む。
「どういうつもり?」
男は黙り込んだままだ。狩野はそれが気に食わないらしい。表情を消して、胸ぐらを掴む。
「何とか言ったら?」
すると、男はゆっくりと狩野の手首を掴み胸ぐらから引き離すと、昏い目で狩野を見返す。
「お前には、関係ない」
狩野の額に青筋が浮かぶ。凄まじい勢いで拳が男に迫った。その時。
ピリリリリリリと電子音が鳴り響く。それに気を取られて微かにズレた拳を男はスッと避けると、スマホを取り出した。画面をみて訝しげな顔をした男は、次の瞬間、一気に顔を強張らせた。
「純花!」
動揺しきって叫ぶ男の言葉に狩野がすかさず反応する。男の手からスマホを奪うと、メールが開かれていた。
『可愛い女、ゲット』
その文面と共に添付された写真に写っていたのはぐったりとした純花だった。狩野はスマホを放り出し、男を締め上げる。
「これはどういう事かな?」
絶対零度の笑みを浮かべつつガクガクと揺すってくる狩野をどうにか引き剥がした男はスマホを拾いに行く。真剣な顔でスマホを覗き込む男に、狩野が怒鳴る。
「大上‼」
「黙ってろ‼今すぐどうにかしないと面倒な事になる!!」
怒鳴り返した男を狩野が睨む。暫くしてハッと顔を上げた男は走り出そうとするが、その前に狩野が滑り込む。
「どけ‼聞いていなかったのか?!早く行かないと」
「その前に、状況を、教えて、くれないかな?」
にっこりと笑む狩野から発されるプレッシャーに、そんな時間は無いと怒鳴ろうとした男が黙る。仕方なく早口に説明する。
「これを送って来たのは、昔の仲間だ」
「昔、ねぇ」
意味ありげに見てくる狩野を男はイライラと睨む。
「昔から腕っぷしにだけは自信があってな。その縁でそいつらに絡まれたんだ。単純なアイツらの行動が心地よかったのもあって暫くつるんでたんだ。けど、ただ見てただけっていう理由でガキを一人ボロボロにしたことがあって、その時に縁を切ったつもりだったのだがな」
「切れてなかった、と」
茶化す狩野に男は何も言わない。だが、その沈黙が肯定を表していた。
「…縁を切った時、逆ギレされて潰した。それを恨んでいるとしたら、今回の狙いは俺だ」
「もしかして、それを事前に知ってて、純花を遠ざけたとでも言うつもり?」
男は言葉に詰まった。瞳を揺らす男に、狩野が冷笑を再び浮かべた。
「それで失敗してちゃあ、意味ないよね?」
ざまぁない。侮蔑の言葉に黙って拳を握る男。ちらりと見えたその手のひらには、真新しい傷がいくつもあった。狩野はそれに目を細めると、男に声をかけた。
「とりあえず、案内してくれるかな?」
怪訝そうに見てくる男に狩野はカラリと笑った。
「先に、純花を助けないとねぇ。場所、分かるんでしょ?」
分からないとは言わせないよ、と顔に書く狩野に男は顔を引きつらせる。一瞬迷ったようだが、すぐに走り出す。今度は狩野も止めることなくついていく。
「可愛い僕の純花に手を出した事、ちゃんとお礼をしなきゃね?」
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