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カバンの中を確かめる。よし、オッケー。天気を確かめる。うん、今日もいい天気。今日の運勢は?やった、山羊座一位!ラッキーアイテムは…オオカミ?ふふっ。じゃあ問題なさそう。っと、最後に服装チェック。赤のポンチョ。赤はあの人の好きな色だから大丈夫!
「行ってきまーす!」
純花はドアを開けると、元気よく挨拶をして外に出た。今日は大上とのデート。デート自体は何度も行ったけれど、今日は特別。なぜなら、今日は付き合いだしてから初めてのデートなのだ。
「あらぁ、純花ちゃんじゃない。お出かけ?」
「あ、はい。ちょっと遊びに」
「あらあら、真っ赤になっちゃって。もしかして、彼氏とデート?」
とことこと歩いていると近所の人から声を掛けられる。目元を染め、恥ずかしそうに答える純花にちょっとびっくりした近所の人は、ニヤニヤと詮索する。真っ赤になって逃げだす純花の後ろで楽しそうな笑い声がした。
今日の待ち合わせ場所は、大上と出会った純花のお気に入りの公園。まだそれほど経っていないはずなのに、どうしてか懐かしく感じるその時の事を思い返しながら、鼻歌交じりに純花は公園を進んでいく。その時だった。
「わきゃ⁈」
鳥の声に夢中になって、上ばかり見上げていた純花は前から歩いてきた男の存在に気付かず、勢いよくぶつかった。こてんとひっくり返った純花はそのまま、視線を上げて相手を視界に写し。
「あ、大上さん!!」
純花の声が弾む。その視線の先には呆れ顔をした男が立っていた。
「だから、どうしてそう人にぶつかりまくるんだ?」
会って早々ため息交じりに聞かれ、目を泳がせる純花。額に汗を浮かべて言い訳を探す純花を暫く眺めていた大上はふっと息を吐いて表情を緩めると、純花に手を差し出した。
差し伸べられた手をみて、純花もふにゃっと顔を緩ませた。そっと手を重ねると、力強く引き上げられ。
「ふにゃ⁈」
勢いあまって大上の胸にぶつかった。
今度は大上がしっかりと抱きしめているため、再び地面に転がることはなかったが。胸に飛び込む形になった純花は、一気に顔を赤く染め、逃げようと体をねじるが、大上の腕には勝てなかった。
「ああああああ、あのっ!」
あわあわしながらジタバタと暴れる純花。その抵抗をあっさり封じ込めた大上は、ニヤリと笑うと、耳に口を寄せた。
「大上、じゃない。征司、だ」
直接吹き込まれたそのセリフの内容に、純花がピキっと音を立てて固まる。そっと征司の顔を見上げると、征司はとてもいい顔をしていた。
名前を呼べ、と間接的に要求してくる征司に純花は硬直した。
「ああああああ、あの、大上さんっ」
「言うまでこのままだぞ?」
ニッコリと笑みを向けられる。
「う、あ、う、…っせ、征司さんっ」
「征司。〝さん″はいらん」
今度は呼び捨てにしろとの要求。既に一杯一杯の純花は涙目である。その純花を至極楽し気に見つめる征司。
「え、あ、う、…せ…」
「せ?」
「せ、征司君!」
「何で、今度は君付けなんだよ…」
往生際の悪い純花を半眼で睨む征司。ううー、と唸った純花は、やけになって叫ぶ。
「せ!」
「せ?」
「せ、せいじっ!」
真っ赤に染まった顔で叫ぶと、純花はポンチョのフードを勢いよく被る。羞恥に震える純花の頭上で、大爆笑している声がする。
「ひ、酷いですぅ。大上さんの意地悪…」
「別にいいだろこれくらい。俺、〝オオカミ″だし?」
それに、と恐ろしいほどに楽し気な声がする。この声の時の征司は経験からして危険である。頭の中で鳴り響く警報に促されて恐る恐るその顔を見上げると、とてもいい笑顔をしていた。
「どさくさに紛れてまた大上って言ったな?そんなに俺の名前呼びたくないのか?」
「そ、そそ、そんなことないですっ!せ、せせ、せいじっ!」
慌ててご機嫌を取りに行く純花。満足と言う顔をする征司に胸を撫でおろす。
だがしかし。
「その敬語もどうにかしないとなぁ?」
敬語がお気に召さないらしい。顔をひきつらせた純花が必死に言い募る。
「ああ、あの!これはクセというか、何と言うか、その、多分無理ですぅ!!」
「今度敬語を使ったら、お仕置きな」
オオカミの口元が綺麗な三日月を作る。調教される動物ってこんな気持ちなのだろうか、と純花は絶望的な気持ちになる。
恨めし気に見つめてくる純花を見てクツクツと笑ったオオカミは腕をほどいて純花を開放し、代わりにその手を掬い取ると引いて歩き始めた。
「行くぞ」
その背中を純花は涙目で追うのであった。
結論。オオカミに食べられたのは、おばあさんではなく、赤ずきんだったとさ。
「行ってきまーす!」
純花はドアを開けると、元気よく挨拶をして外に出た。今日は大上とのデート。デート自体は何度も行ったけれど、今日は特別。なぜなら、今日は付き合いだしてから初めてのデートなのだ。
「あらぁ、純花ちゃんじゃない。お出かけ?」
「あ、はい。ちょっと遊びに」
「あらあら、真っ赤になっちゃって。もしかして、彼氏とデート?」
とことこと歩いていると近所の人から声を掛けられる。目元を染め、恥ずかしそうに答える純花にちょっとびっくりした近所の人は、ニヤニヤと詮索する。真っ赤になって逃げだす純花の後ろで楽しそうな笑い声がした。
今日の待ち合わせ場所は、大上と出会った純花のお気に入りの公園。まだそれほど経っていないはずなのに、どうしてか懐かしく感じるその時の事を思い返しながら、鼻歌交じりに純花は公園を進んでいく。その時だった。
「わきゃ⁈」
鳥の声に夢中になって、上ばかり見上げていた純花は前から歩いてきた男の存在に気付かず、勢いよくぶつかった。こてんとひっくり返った純花はそのまま、視線を上げて相手を視界に写し。
「あ、大上さん!!」
純花の声が弾む。その視線の先には呆れ顔をした男が立っていた。
「だから、どうしてそう人にぶつかりまくるんだ?」
会って早々ため息交じりに聞かれ、目を泳がせる純花。額に汗を浮かべて言い訳を探す純花を暫く眺めていた大上はふっと息を吐いて表情を緩めると、純花に手を差し出した。
差し伸べられた手をみて、純花もふにゃっと顔を緩ませた。そっと手を重ねると、力強く引き上げられ。
「ふにゃ⁈」
勢いあまって大上の胸にぶつかった。
今度は大上がしっかりと抱きしめているため、再び地面に転がることはなかったが。胸に飛び込む形になった純花は、一気に顔を赤く染め、逃げようと体をねじるが、大上の腕には勝てなかった。
「ああああああ、あのっ!」
あわあわしながらジタバタと暴れる純花。その抵抗をあっさり封じ込めた大上は、ニヤリと笑うと、耳に口を寄せた。
「大上、じゃない。征司、だ」
直接吹き込まれたそのセリフの内容に、純花がピキっと音を立てて固まる。そっと征司の顔を見上げると、征司はとてもいい顔をしていた。
名前を呼べ、と間接的に要求してくる征司に純花は硬直した。
「ああああああ、あの、大上さんっ」
「言うまでこのままだぞ?」
ニッコリと笑みを向けられる。
「う、あ、う、…っせ、征司さんっ」
「征司。〝さん″はいらん」
今度は呼び捨てにしろとの要求。既に一杯一杯の純花は涙目である。その純花を至極楽し気に見つめる征司。
「え、あ、う、…せ…」
「せ?」
「せ、征司君!」
「何で、今度は君付けなんだよ…」
往生際の悪い純花を半眼で睨む征司。ううー、と唸った純花は、やけになって叫ぶ。
「せ!」
「せ?」
「せ、せいじっ!」
真っ赤に染まった顔で叫ぶと、純花はポンチョのフードを勢いよく被る。羞恥に震える純花の頭上で、大爆笑している声がする。
「ひ、酷いですぅ。大上さんの意地悪…」
「別にいいだろこれくらい。俺、〝オオカミ″だし?」
それに、と恐ろしいほどに楽し気な声がする。この声の時の征司は経験からして危険である。頭の中で鳴り響く警報に促されて恐る恐るその顔を見上げると、とてもいい笑顔をしていた。
「どさくさに紛れてまた大上って言ったな?そんなに俺の名前呼びたくないのか?」
「そ、そそ、そんなことないですっ!せ、せせ、せいじっ!」
慌ててご機嫌を取りに行く純花。満足と言う顔をする征司に胸を撫でおろす。
だがしかし。
「その敬語もどうにかしないとなぁ?」
敬語がお気に召さないらしい。顔をひきつらせた純花が必死に言い募る。
「ああ、あの!これはクセというか、何と言うか、その、多分無理ですぅ!!」
「今度敬語を使ったら、お仕置きな」
オオカミの口元が綺麗な三日月を作る。調教される動物ってこんな気持ちなのだろうか、と純花は絶望的な気持ちになる。
恨めし気に見つめてくる純花を見てクツクツと笑ったオオカミは腕をほどいて純花を開放し、代わりにその手を掬い取ると引いて歩き始めた。
「行くぞ」
その背中を純花は涙目で追うのであった。
結論。オオカミに食べられたのは、おばあさんではなく、赤ずきんだったとさ。
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