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第三十一話:ナデナデ
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ある程度山道を登ると横穴が見えてきた。
「やっと着いたな。ここをひたすら奥に進むとサラマンダーがいるはずだ」
アレンは穴の奥をじっと見据えている。その表情は真剣そのものであり、この先に待ち受ける危険の高さを物語っていた。空気が緊張でピンと張り詰めているようだった。その空気を切り裂くようにディーネがアレンに向けて、
「じゃあここからはアレンが前を歩いてくださいね。まさかか弱い女の子を盾にしたりしませんよね」
「どこにか弱い女の子がいるんだか。魔人をあっさり倒す店員とグランシーヌの団長しかここにはいないようだけど。それに女の子って年じゃないだろディーネは」
「またずぶ濡れになりたいのかしら」
普段とは違う暗く、低い声にアレンは慌てる。
「じょ、冗談だよ、冗談。当然俺が前を歩くに決まっているだろ」
そう言って、アレンは穴の中を先導して歩き出した。
エリーはその背中をじっと見つめていた。広く大きな背中。決して見た目だけでなく、後ろにいるだけで得られる安心感。いつの間にか案外守られるのも悪くないのかなと思い始めていた。近づき過ぎず、離れ過ぎずの距離を保ちながらエリーはアレンの後を追った。
しばらく穴の中を進むと、突然エリーの体が小刻み震え始めた。
「大丈夫か?」
「えぇ、なんとかね。これが四大精霊の霊圧ってやつかしら」
エリーは自分の両腕で震える体を押さえつけるように抱いた。昨日までどんな強者を相手にしてもこのようなことはなかった。しかし今日は既に二度も恐怖で体がいうことを聞かない。思わず、震えを押さえる腕に力が入る。
すると突然アレンが優しく頭を撫でてきた。
「心配すんな。何があってもエリーのことは守ってやるからな」
はっとしてアレンを見上げると、満面の笑みでエリーを見ていた。突然の出来事に頭に置かれた手を振りほどく。
「ちょ、子供じゃないんだから止めてよ。慣れればこんな圧力ぐらいなんともないんだから」
「はいはい、それは失礼しました」
アレンは手をふりふりと振りながら、ゆっくりと前を歩き始めた。
エリーは体を押さえていた手をほどき、さっきまで撫でられていた頭に自分の手を置いた。まだアレンの手の温かさが残っている気がした。頭を撫でられたのなんていつぶりだろうか。思い返すと恥ずかしくなり、頭を横に振る。
「エリーさん羨ましいですぅ。それにしてもアレンったら女たらしなんだから。あんなことされたら惚れちゃいますよね」
ニコニコしながらディーネが声をかける。
「だ、誰が惚れるのよ! 私はそんな簡単な女じゃないわよ」
「はいはい、それは失礼いたしましたぁ」
エリーは先ほどのアレンを真似するように手を振りながらアレンの後を追った。
「もう、なんなのよ!」
こんな状況でふざけるディーネに苛立ちながらも、自分の顔が火照っていることに気づくが、きっと暑さのせいだと思い、前に進んだ。その頃には先ほどまで震えていた体が嘘のように収まっていた。
先へ進むごとに暑さがどんどんと増してくる。クーラードリンクがなければすでに熱中症、脱水症状で死んでいてもおかしくない。アレンとエリーの汗の量もだんだんと増えてきたが、ディーネだけは変わらず涼しい顔をしていた。
「ディーネ、水ちょうだい。さすがにきつくなってきたな」
ディーネはリュックからボトルに入った水を手渡すと、蓋を開けてぐびぐびと飲み再び蓋を閉めて、エリーに向けて投げた。エリーが器用に片手でキャッチする。
「エリーも飲んでおけよ。倒れちまうぞ。もう全部飲み干していいから」
「あ、ありがとう……」
エリーはじっと水の入ったボトルを見つめた。まだ半分以上は入っているようだった。
『これは間接キスというものではないだろうか……』
そう思い躊躇しながらも、何もアイテムを持っていない私を心配してくれただけのアレンに悪いと自分を正当化し、蓋を開け勢いよく飲んだ。
一気に全て飲み干すと、ディーネと目が合った。ディーネはエリーの心の中を読んだかのようにニヤニヤと楽しそうにしていた。
エリーは全くこの人はと思いながらも再びディーネに疑問を持つ。
「あなたの体ほんとおかしいんじゃない? さすがにこの環境でそれはないわ。アレンは不思議じゃないの?」
エリーはアレンが何か知っているのではないかと思い尋ねる。
「え? あぁ、言ってなかったっけ。ディーネは……」
「やっと着いたな。ここをひたすら奥に進むとサラマンダーがいるはずだ」
アレンは穴の奥をじっと見据えている。その表情は真剣そのものであり、この先に待ち受ける危険の高さを物語っていた。空気が緊張でピンと張り詰めているようだった。その空気を切り裂くようにディーネがアレンに向けて、
「じゃあここからはアレンが前を歩いてくださいね。まさかか弱い女の子を盾にしたりしませんよね」
「どこにか弱い女の子がいるんだか。魔人をあっさり倒す店員とグランシーヌの団長しかここにはいないようだけど。それに女の子って年じゃないだろディーネは」
「またずぶ濡れになりたいのかしら」
普段とは違う暗く、低い声にアレンは慌てる。
「じょ、冗談だよ、冗談。当然俺が前を歩くに決まっているだろ」
そう言って、アレンは穴の中を先導して歩き出した。
エリーはその背中をじっと見つめていた。広く大きな背中。決して見た目だけでなく、後ろにいるだけで得られる安心感。いつの間にか案外守られるのも悪くないのかなと思い始めていた。近づき過ぎず、離れ過ぎずの距離を保ちながらエリーはアレンの後を追った。
しばらく穴の中を進むと、突然エリーの体が小刻み震え始めた。
「大丈夫か?」
「えぇ、なんとかね。これが四大精霊の霊圧ってやつかしら」
エリーは自分の両腕で震える体を押さえつけるように抱いた。昨日までどんな強者を相手にしてもこのようなことはなかった。しかし今日は既に二度も恐怖で体がいうことを聞かない。思わず、震えを押さえる腕に力が入る。
すると突然アレンが優しく頭を撫でてきた。
「心配すんな。何があってもエリーのことは守ってやるからな」
はっとしてアレンを見上げると、満面の笑みでエリーを見ていた。突然の出来事に頭に置かれた手を振りほどく。
「ちょ、子供じゃないんだから止めてよ。慣れればこんな圧力ぐらいなんともないんだから」
「はいはい、それは失礼しました」
アレンは手をふりふりと振りながら、ゆっくりと前を歩き始めた。
エリーは体を押さえていた手をほどき、さっきまで撫でられていた頭に自分の手を置いた。まだアレンの手の温かさが残っている気がした。頭を撫でられたのなんていつぶりだろうか。思い返すと恥ずかしくなり、頭を横に振る。
「エリーさん羨ましいですぅ。それにしてもアレンったら女たらしなんだから。あんなことされたら惚れちゃいますよね」
ニコニコしながらディーネが声をかける。
「だ、誰が惚れるのよ! 私はそんな簡単な女じゃないわよ」
「はいはい、それは失礼いたしましたぁ」
エリーは先ほどのアレンを真似するように手を振りながらアレンの後を追った。
「もう、なんなのよ!」
こんな状況でふざけるディーネに苛立ちながらも、自分の顔が火照っていることに気づくが、きっと暑さのせいだと思い、前に進んだ。その頃には先ほどまで震えていた体が嘘のように収まっていた。
先へ進むごとに暑さがどんどんと増してくる。クーラードリンクがなければすでに熱中症、脱水症状で死んでいてもおかしくない。アレンとエリーの汗の量もだんだんと増えてきたが、ディーネだけは変わらず涼しい顔をしていた。
「ディーネ、水ちょうだい。さすがにきつくなってきたな」
ディーネはリュックからボトルに入った水を手渡すと、蓋を開けてぐびぐびと飲み再び蓋を閉めて、エリーに向けて投げた。エリーが器用に片手でキャッチする。
「エリーも飲んでおけよ。倒れちまうぞ。もう全部飲み干していいから」
「あ、ありがとう……」
エリーはじっと水の入ったボトルを見つめた。まだ半分以上は入っているようだった。
『これは間接キスというものではないだろうか……』
そう思い躊躇しながらも、何もアイテムを持っていない私を心配してくれただけのアレンに悪いと自分を正当化し、蓋を開け勢いよく飲んだ。
一気に全て飲み干すと、ディーネと目が合った。ディーネはエリーの心の中を読んだかのようにニヤニヤと楽しそうにしていた。
エリーは全くこの人はと思いながらも再びディーネに疑問を持つ。
「あなたの体ほんとおかしいんじゃない? さすがにこの環境でそれはないわ。アレンは不思議じゃないの?」
エリーはアレンが何か知っているのではないかと思い尋ねる。
「え? あぁ、言ってなかったっけ。ディーネは……」
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