真夏ダイアリー

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
54 / 72

54『二人のミリー』

しおりを挟む
真夏ダイアリー

54『二人のミリー』    



「誰よ……!?」

 本物がスゴミのある笑顔で詰問した。瞬間の動揺、やつはテレポしてしまった……。

 わたしは一瞬、省吾のあとを追ってテレポートしようと思った。
 しかし、同時にジェシカが壁に掛けてあるライフルを持って銃口を向けてきた。

 選択肢は二つだ。ジェシカと本物のミリーの心臓を止めてしまうこと。これなら秘密を知る人間はいなくなる。でも、あまりにも残酷だ。

 もう一つは、本当のことを話して二人を味方にしてしまうこと。
 テレポ-トして、この場から逃げる手もあったけど、ジェシカの銃の腕から、無事にテレポートできる確率は1/4ほどでしかない。わたしは両手を挙げて、第二の選択肢を選んだ。

「分かった、わけを話すから、銃を降ろしてくれない」
「だめ、わけが分かるまでは、油断できない……」 

 そう言いながら、ジェシカは、わたしの背後に回った。

「あなた、いったい誰? わたしには双子の姉妹なんかいないわよ」
「わたしは、未来から来たの。この戦争を終わらせるために」
「ウソよ、そんなオーソン・ウェルズの『宇宙戦争』じゃあるまいし」
「じゃ、どうして、わたしはミリーにソックリなのかしら?」
「変装に決まってるじゃない。ハリウッドのテクニックなら、それぐらいのことはやるわよ」
「側まで来てよく見て」

 ミリーの足が半歩近づいた。

「だめよミリー、側に寄ったら何をするか分からないわよ!」

 少し考えてミリーは、サイドテーブルの上の双眼鏡を手にとって、わたしを眺めた。そして壁の鏡に写る自分の姿と見比べた。

「……信じられない。ソバカスの位置と数までいっしょ……ワンピースのギンガムチェックの柄の縫い合わせも同じ」
「よかったら、わたしの手のひらも見て。指紋もいっしょだから」
「……うそ……信じられない」

 ジェシカは、銃口でわたしの髪をすくい上げた。

「……小学校の時の傷も同じ」
「そう、トニーとミリーが、あんまり仲良くしてるもんだから、ジェシカ、石ころ投げたのよね」
「当てるつもりは無かった……それって、わたしとミリーだけの秘密。トニーだって知らないわよ!?」

 銃を持つミリーの手に力が入った。

「あ、興奮して引き金ひかないでね……で、分かってもらえた?」
「ミリーとそっくりだってことはね。ミリー、ハンカチを自分の手首に巻いて。区別がつかなくなる」

 ミリーが急いでハンカチを巻いた。ジェシカは、わたしのポケットから同じハンカチを取り上げた。

 ブロロロロロ

 窓の外でレシプロ飛行機の爆音がした。

 ジェット機の音に慣れたわたしには、ひどくノドカな音に聞こえたが、ガラス越しに見える小さな三機編隊はグラマンF4F。いまが、戦時なのだということが、改めて思い起こされた。

「この戦争で、アメリカは160万の兵隊を出して、40万人の戦死者を出すわ」
「四人に一人が……」
「ジェシカ、あなたのお兄さん……この夏にアナポリスを卒業するのよね」

 わたしは、ジェシカの兄の映像を映してやった。突然暖炉の上に現れたリアルタイムの兄の姿を見て、ジェシカもミリーもビックリしていた。この程度のことは体を動かさずにやれる。これをチャンスにテレポすることもできたが、わたしは二人の信頼を勝ち得ようと思った。

「ショーン……!」
「そして、これが三年後のショーン。海兵隊の中尉になってる。で……」

 わたしは、硫黄島の戦いの映像を出した。気持ちが入りすぎて、映像は3Dになってしまったが、その変化は、ジェシカもミリーも気づかない。


 ショ-ンは、中隊を率いて岩場を前進していた。突然、数発の銃声。スイッチが切れたように倒れ込むショーン。部下達がショーンを岩陰に運ぶ。ショ-ンは頭を打ち抜かれ即死していた。


「ショーン!」

「……どう、こんなバカげた戦争、止めようとは思わない?」
「これ……ほんとうに起こるの?」
「あなたたちには未来だけど、わたしには過去。なにもしなければ、40万人のアメリカの若者が死ぬ。ショーンも、その中の一人になる」
「トニーは。いったいなにを……?」
「いっしょよ。戦争を終わらせようとしている。ただ、やり方が乱暴なの。で、わたしは、それを止めさせるために来たの。急場のことで、ミリーのコピーをアバターにせざるを得なかったけど」

 わたしは、この時、まだ、わたしの本来の任務を理解していなかった。

 ただ戦争を止めさせ、未来を変えることだけだと思っていた。

 未来は、そんなに甘いものじゃなかった。
 むろん、前回のワシントンDCの件で分かっていたはずなんだけどね。

 それに気づくのには、まだ時間が必要だった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

処理中です...