11 / 30
011『視界が開けると糺の森に似て』
しおりを挟む
勇者乙の天路歴程
011『視界が開けると糺の森に似て』
森の出現に歩みを止めると、視界が開けてきた。
駅からここまで、見えているのは幼稚園の園庭ほどでしかなく、その周囲は霞が立ち込めたように煙っていた。
それが……
目の前に森が出現すると、俄かに開けて視界が東京ドームほどに広がった。
草原の左側には川が流れて、前方でYの字に分かれ、森はそのYの字に挟まれて奥に続いている様子だが霞に紛れてはっきりしない。
Yの字によって三分割された地面は橋によって結ばれて往来は自由のようだ。
Yの字の縦棒を跨ぐ橋に行って森を見晴るかすと既視感がある。
「糺の森に似ています」
ビクニの言葉で既視感はデジャブではなく記憶として蘇ってきた。
子どもの頃は親父に連れられて、高校生の頃は友だちといっしょに、学校を出てからも友人たちと、職に着いてからは生徒を引率して遠足で。
遠足の時は出町柳で京阪を降りて十分ほどで、それ以前は三条で降りて川端通りを歩いた……そうか、いままで歩いてきた道は川端通りにあたる。
「いいえ、あそこまでは安達ケ原です」
「アハハ、そうだったな」
「デジャブはわたしです」
「え?」
「見たもの出会ったものによって姿が変わる」
「あ、そうだったな」
「あれ……奥さんとは来てないんですね?」
「え、読んでるの!?」
思わず胸を押えてしまう。
「すみません、見えてしまうもんで(^_^;)」
ムニュムニュムニュ……糺の森や下賀茂神社、出町柳、双ヶ岡、百万遍、京都大学……近辺での思い出が雨後の筍のように首を出す。その都度、ビクニの顔もムニュムニュ蠢く。
「こ、ここは、小説とかアニメとかでもよく出てくるからねえ(;'∀')!」
記憶をアニメに切り替えると、川の中の飛び石をアニメのキャラがピョンピョンと渡って行った。
軽音部のキャラに変わりそうになって、ビクニが宣言する。
「さ、先にいきましょう!」
宣言して顔をつるりと撫でると、元の静岡あやねに戻って先をいく。
橋を戻って、今度はYの字の右上、リアルの地図で言えば出町橋を渡って糺の森の正面に出る。
朱塗りの大鳥居があって、その向こうは下賀茂神社の参道と思いきや、森の中の一本道。
「冷やかしは終わったようだね」
「はい、いよいよ本編のようです。油断しないでいきましょう」
糺の森は東京ドーム三つ分くらいだが、その十倍ほどの道を行くと、森の切れ間の向こう、木の間隠れに、また川が見えてきた。
え…………?
今度は、黄河か揚子江かというような巨大河川だった。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
011『視界が開けると糺の森に似て』
森の出現に歩みを止めると、視界が開けてきた。
駅からここまで、見えているのは幼稚園の園庭ほどでしかなく、その周囲は霞が立ち込めたように煙っていた。
それが……
目の前に森が出現すると、俄かに開けて視界が東京ドームほどに広がった。
草原の左側には川が流れて、前方でYの字に分かれ、森はそのYの字に挟まれて奥に続いている様子だが霞に紛れてはっきりしない。
Yの字によって三分割された地面は橋によって結ばれて往来は自由のようだ。
Yの字の縦棒を跨ぐ橋に行って森を見晴るかすと既視感がある。
「糺の森に似ています」
ビクニの言葉で既視感はデジャブではなく記憶として蘇ってきた。
子どもの頃は親父に連れられて、高校生の頃は友だちといっしょに、学校を出てからも友人たちと、職に着いてからは生徒を引率して遠足で。
遠足の時は出町柳で京阪を降りて十分ほどで、それ以前は三条で降りて川端通りを歩いた……そうか、いままで歩いてきた道は川端通りにあたる。
「いいえ、あそこまでは安達ケ原です」
「アハハ、そうだったな」
「デジャブはわたしです」
「え?」
「見たもの出会ったものによって姿が変わる」
「あ、そうだったな」
「あれ……奥さんとは来てないんですね?」
「え、読んでるの!?」
思わず胸を押えてしまう。
「すみません、見えてしまうもんで(^_^;)」
ムニュムニュムニュ……糺の森や下賀茂神社、出町柳、双ヶ岡、百万遍、京都大学……近辺での思い出が雨後の筍のように首を出す。その都度、ビクニの顔もムニュムニュ蠢く。
「こ、ここは、小説とかアニメとかでもよく出てくるからねえ(;'∀')!」
記憶をアニメに切り替えると、川の中の飛び石をアニメのキャラがピョンピョンと渡って行った。
軽音部のキャラに変わりそうになって、ビクニが宣言する。
「さ、先にいきましょう!」
宣言して顔をつるりと撫でると、元の静岡あやねに戻って先をいく。
橋を戻って、今度はYの字の右上、リアルの地図で言えば出町橋を渡って糺の森の正面に出る。
朱塗りの大鳥居があって、その向こうは下賀茂神社の参道と思いきや、森の中の一本道。
「冷やかしは終わったようだね」
「はい、いよいよ本編のようです。油断しないでいきましょう」
糺の森は東京ドーム三つ分くらいだが、その十倍ほどの道を行くと、森の切れ間の向こう、木の間隠れに、また川が見えてきた。
え…………?
今度は、黄河か揚子江かというような巨大河川だった。
☆彡 主な登場人物
中村 一郎 71歳の老教師
高御産巣日神 タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
八百比丘尼 タカムスビノカミに身を寄せている半妖
原田 光子 中村の教え子で、定年前の校長
末吉 大輔 二代目学食のオヤジ
静岡 あやね なんとか仮進級した女生徒
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる