銀河太平記

序・９『人とロボット・２』

銀河太平記

序・９『人とロボット・２』　　　　

 

　サン！

 
　次の命令は、この一言だ。

　コンマ一秒、JQが考える顔になる。

　三、　参、　山、　桟、　算、　餐、　珊、　惨、　撒、　SAN、　SUN　様々な頭文字が浮かべていたのか。

　CICの兵士たちは一斉に操作や作業を止めCIC四か所にある出口からほんの数秒で出て行く。

　命令が『散』を差すと分かって、俺の横に並ぶ。

「俺たちも行く、身を低く……」

　言い終る前に両手を突いてスタートラインに付いたランナーのような出撃姿勢をとる、畳一畳分ほどの床が跳ねあがり、俺とJQを載せて真上に開いた天井から撥ね上がる。

　ズン！

　腹に応えるショックがあるが、JQは巧みにいなして吸収している。

「着地したら……」

　言い終る前にバイクに跨っている。

　後部シート、さすがにとっさの戦闘行動は俺に任せるか……いや、指揮官のプライドを保持させた方が、やり易いと……こいつ、どこまで読むんだ。

　ブロン！　ブロロロローーーーーー！！

　スロットルを上げるとJQがしがみ付き、同時にバイクは前輪を跳ね上げて駐屯地の開け広げられたゲートを飛び出して西北西を目指す。駐屯地の南北からは、数千の日本兵が西北、南西を目指して疾走している。

　どうだ、俺の指揮と部隊行動は……ミラーに映るJQはシレっとしている。これも読んでいたのか？

「手話はできるな？」

　小さく頷く。

――　俺の側を離れるな　必ず日本に戻れる　――

――　このまま日本に？　――

――　しばらくは戦争だ　俺に付いていれば弾も避けていく　――

――　このまま作戦指揮を？　――

――　パルス動力のものは飛行機からウマまで使えない　バイクがオシャカになったら俺を背負って走れ　――

――　わたしが司令のウマに？　それってセクハラなんですけど　――

――　俺は人間だ　時速百キロでなんか走れない　以上　――

――　わたしをウマの代わりに連れ出したの？　――

――　そうだ　――

――　フフ、予測を外してくれたわね　――

　ほんとうか？　そう答えた方が、俺のテンションが上がることを読んでのことか？
 
――　司令を背負うとしたらオンブ？　それとも四つ足になって背中に？　――

――　効率的な方を選べ　――

――　じゃあ、セクシーな方ね　――

 　反応がグランマ的だが、まあいい。
　
　空に光るものがあって目を向けると火星への連絡船だ。高度二万を超えているのでアンチパルスの影響は受けないのだろう、光学ズームすると機体番号から新造貨客船『信濃丸』であると知れる。日本が汎用性を重視して作った新型だ。

　その向こうにも漢明国の連絡船『遼寧』が火星を目指している。

　地上では戦争を始めても、宇宙空間では無害通航が保障されている。

　宇宙は地上のいがみ合いを持ち込めるほど安全じゃない、地上で戦争ができるのは、ひょっとしたら、かなり贅沢なことななのかもしれない。

　だったら、こんな贅沢はヤメロ！

　バイクは二時間近く走って、マン漢国境を眼下に臨む丘に着いた。

「わたしをウマにし損ねたわね」

　それは無視して丘の裾を見渡す、すでに到着している部隊の指揮官たちが集まり始めている。

　日本軍は国境の南北に分かれ、浸透してくる漢明国を引き入れ挟撃する姿勢をとりつつあるのだ。

「ほう……」

　JQが感心したように吐息を漏らす。

　どうだ、まいったか。

「ざっと、五分の一」

　分かってやがる、挟撃する日本軍は敵の五分の一ほどでしかないことが。

　しかし、見てろ。

　ここからが、俺の戦いだ。