銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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064『孫大人の飛躍』

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銀河太平記

064『孫大人の飛躍』 越萌マイ(児玉元帥)  




 OS基地跡の調査から、メンバーにお行儀のいい人間が加わっていたことが類推できた。

 ゴミの始末やトイレの使い方からの想像で、ひょっとしたら皇室か、その系譜に近い人間。

 それ以外は不明だ。


 OS基地時代なら、自家用パルス船を作りたいというベンチャーに。天狗党に乗っ取られてからであるならば、天狗党のメンバーに、そういう者が関わっているということになる。

 そうだとしたら……まだ、わたしが表立って動く段階ではない。

 カサギに残っているヨイチを呼び寄せたいところだが、森ノ宮さまをおひとりにしておくことも憚られるので思いとどまった。

「いつの間に……」

 取り扱うグッズを閲覧していた月城さんの手が停まった。

「どうかした?」

「孫会長がレアアースの買い付けに入りました」

「レアアース?」

 隣のデスクで仕事をしていたメイも手を停めて、月城さんのデスクトップを覗き込む。

 モニターには、候補になるグッズデータの右端にネットニュースが出ている。

「ちょっと、大きくしてくれる」

「はい」

 グッズデータが萎んで、ネットニュースが大きくなる。

「『北大街グループ、西ノ島のレアアース独占買い付け契約』……思いきりましたね」

 メイがため息をつきながら、自分のPCも切り替えて、情報を集め出した。

「当面は観光・芸能事業に専念するって言っておられたんですけどね……」

 北大街の社員でもある月城さんが知らなかったんだ、その業界の人間でも気づきようがないだろう。

「西ノ島って、大丈夫なんですかね……業界筋も驚いている様子ですけど、どこか、嘲笑めいた静観という感じです」

 たしかに、メイの開いた株式市況も業界の落ち着いた株価を示している。

「西ノ島の情報を出してくれる?」

「はい」


 メイがクリックすると、三人の正面に100インチの仮想モニターが現れた。


 西ノ島は令和時代に海底噴火によって現れた小笠原諸島の中でも、一番若い島。

 10年に渡る令和噴火で、島の面積は20平方キロメートルほどに成長し、その後の調査で、島と周辺の海底に有数のレアアース鉱床があることが確認されているが、火山活動が活発なため手が出せないでいる。

 父島の沖に掘削基地を作って掘り進もうというのが、政府と業界の方針だが、西ノ島との間には130キロの海溝が横たわっており、まだほとんど計画の段階であると言っていい。

 島の火山は落ち着いているとはいえ、桜島ほどの火口からは絶えず噴煙が上がり、居住には向かない島である。

 度重なる噴火と地殻変動で、パルスが不安定で、大型のパルス機関、パルス動力は使用できない。

 その西ノ島には、日本、漢明、半島、満州、ロシアなど様々な国籍の人間が住み着き、海産物や、露頭している鉱物の採取で生計を立てている。

 住居表示こそ『東京都西ノ島』だが、本土ほどの生活環境は構築されてはいない。一方、日本最後のフロンティアとして、一部の冒険家たちには期待されている。


 要約すると、そういう内容が、次々に出てくる。


 日本最後のフロンティア……要は無法地帯ということだろう。

 大丈夫か、孫大人……




※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
月城かける             北大街から派遣されたシマイルカンパニー社員

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 
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