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082『葬儀 ヒムロの決意』
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銀河太平記
082『葬儀 ヒムロの決意』 加藤 恵
ドーーン ドーーン ドーーン
西ノ島の空に三発の弔砲が響いた。
サンパチ ニッパチ イッパチの三体がカノン砲に変態して撃ってくれている。
三体とも兵器に変態するスキルは無かったが、葬儀に合わせてプルグラムし直してやったのは、わたしだ。
落盤事故では13名の犠牲者を出してしまった
わたしと兵二が駆けつけて、やれたことはチルルの最後を看取ってやったことだけだ。
パルスガスが発生して、パルス動力を使っているものは、誰も入ることができなかったのだが、それにしても13名という数は、西ノ島の三つの集団を悲しませるには十分すぎる人数だ。
今日一日は西ノ島全島をあげて休業し、13名の犠牲者に哀悼の誠に沈む。
十三個の柩は氷室カンパニーでは間に合わなかった。
単に骸を収めるだけの容器ならばなんとでもなるのだが、社長が「きちんとした柩で送ってやりたい」と言って、フートンと村から人材と資材の提供をうけて間に合わせた。
村長も主席も快く引き受けてくれただけでなく、葬儀当日は、全島を挙げての葬儀に賛同してくれた。
「西ノ島でパルス鉱石の採掘を始めて十余年、数々の試行錯誤によって、三つの集団の生活を維持できるところまで来ました。その道は、けして平坦なものではなく、これまでに七回の事故を起こし、総計23名の貴い犠牲者を出しました。その23名の犠牲者の13名を、この事故で出してしまったのは、ひとえに、このカンパニーを預かるわたしの責任であります。その責は、こののち、いかようにも負う所存でありますが、今日一日だけは、13名の御霊に額ずくことを許してください……」
そこまで弔意を述べて、社長は詰まってしまった。
自分のふがいなさと、13名の犠牲者への想いが溢れてしまったんだ。
「わたしは、これまで、カンパニーの者が出自にこだわるのを良しとはしてきませんでした。けして禁止したわけではないのですが、その、わたしの意を汲んで、カンパニーでは出自について語ることが、いささかタブーのようになってきていました。そのことで、カンパニーでは互いの過去や出自を気にせずに日々の生産と生活にまい進することができました。しかし、今般の葬儀に当り、墓誌に記すほどの事を、この13名のうち8名についてできませんでした。人もロボットも今を生きるものであるならば、互いの今をこそ知っておけばいいと思ってきました。しかし、それは間違いでありましょう……もとより、どこまで出自や過去を明らかにするかは、それぞれの自由ではあります。これからは、いま少し、それぞれの過去と心の内を語ることのこだわりを捨てていこうかと思います。むろん、事故の再発を防ぐことが、残された我々の最大の責務であります。13名の御霊のみなさん、あなた方の犠牲は、けして無駄にはしません。どうか、静かに、この西ノ島のこれからを見守ってください。氷室カンパニー代表 氷室睦仁(むつひと)」
ホーーーー
参列者から感嘆ともため息ともつかない声が漏れた。
社長の悲しみと想いと反省と、逝ってしまった者たちへの哀惜の心が言葉に溢れている。
のみならず、社長は、原稿やメモなども用いずにやってのけた。
悲しみと、将来への真摯な眼差しを、参会者たちは見て取ったのだ。
そして、おそらく、参会者の全員が社長の真名が『睦仁』であることを知ったのだ。
睦仁とは、あの伝説の大帝、明治天皇の諱(いみな)である。
13名の柩は荼毘に付され、その日のうちに骨壺に収められ、それぞれ懇意にしていた者たちが分担して納骨までの世話をする。
わたしと兵二はチルルの守りをすることになり、村長と主席の発案で、西ノ島は三日間の喪に服すことになった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
082『葬儀 ヒムロの決意』 加藤 恵
ドーーン ドーーン ドーーン
西ノ島の空に三発の弔砲が響いた。
サンパチ ニッパチ イッパチの三体がカノン砲に変態して撃ってくれている。
三体とも兵器に変態するスキルは無かったが、葬儀に合わせてプルグラムし直してやったのは、わたしだ。
落盤事故では13名の犠牲者を出してしまった
わたしと兵二が駆けつけて、やれたことはチルルの最後を看取ってやったことだけだ。
パルスガスが発生して、パルス動力を使っているものは、誰も入ることができなかったのだが、それにしても13名という数は、西ノ島の三つの集団を悲しませるには十分すぎる人数だ。
今日一日は西ノ島全島をあげて休業し、13名の犠牲者に哀悼の誠に沈む。
十三個の柩は氷室カンパニーでは間に合わなかった。
単に骸を収めるだけの容器ならばなんとでもなるのだが、社長が「きちんとした柩で送ってやりたい」と言って、フートンと村から人材と資材の提供をうけて間に合わせた。
村長も主席も快く引き受けてくれただけでなく、葬儀当日は、全島を挙げての葬儀に賛同してくれた。
「西ノ島でパルス鉱石の採掘を始めて十余年、数々の試行錯誤によって、三つの集団の生活を維持できるところまで来ました。その道は、けして平坦なものではなく、これまでに七回の事故を起こし、総計23名の貴い犠牲者を出しました。その23名の犠牲者の13名を、この事故で出してしまったのは、ひとえに、このカンパニーを預かるわたしの責任であります。その責は、こののち、いかようにも負う所存でありますが、今日一日だけは、13名の御霊に額ずくことを許してください……」
そこまで弔意を述べて、社長は詰まってしまった。
自分のふがいなさと、13名の犠牲者への想いが溢れてしまったんだ。
「わたしは、これまで、カンパニーの者が出自にこだわるのを良しとはしてきませんでした。けして禁止したわけではないのですが、その、わたしの意を汲んで、カンパニーでは出自について語ることが、いささかタブーのようになってきていました。そのことで、カンパニーでは互いの過去や出自を気にせずに日々の生産と生活にまい進することができました。しかし、今般の葬儀に当り、墓誌に記すほどの事を、この13名のうち8名についてできませんでした。人もロボットも今を生きるものであるならば、互いの今をこそ知っておけばいいと思ってきました。しかし、それは間違いでありましょう……もとより、どこまで出自や過去を明らかにするかは、それぞれの自由ではあります。これからは、いま少し、それぞれの過去と心の内を語ることのこだわりを捨てていこうかと思います。むろん、事故の再発を防ぐことが、残された我々の最大の責務であります。13名の御霊のみなさん、あなた方の犠牲は、けして無駄にはしません。どうか、静かに、この西ノ島のこれからを見守ってください。氷室カンパニー代表 氷室睦仁(むつひと)」
ホーーーー
参列者から感嘆ともため息ともつかない声が漏れた。
社長の悲しみと想いと反省と、逝ってしまった者たちへの哀惜の心が言葉に溢れている。
のみならず、社長は、原稿やメモなども用いずにやってのけた。
悲しみと、将来への真摯な眼差しを、参会者たちは見て取ったのだ。
そして、おそらく、参会者の全員が社長の真名が『睦仁』であることを知ったのだ。
睦仁とは、あの伝説の大帝、明治天皇の諱(いみな)である。
13名の柩は荼毘に付され、その日のうちに骨壺に収められ、それぞれ懇意にしていた者たちが分担して納骨までの世話をする。
わたしと兵二はチルルの守りをすることになり、村長と主席の発案で、西ノ島は三日間の喪に服すことになった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
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ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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